夢の話をしてみること。
私はじっと男をみつめた。
月色の瞳、その中に映る私が、行動を決めかねるようにこちらをみつめている。
沈黙が満ちて、乾いた風が吹く。
私は、どうすればいいのだろう?
この沈黙に耐え続けて男が根負けするのを待つか、あるいは変な人認定されるのを覚悟で夢のことを話すか。
この場合はどちらが正解で、どちらがややこしくないのだろう?
答えはまるで見えやしない。
さらに、続く沈黙。
男はただ黙って、私の言葉を待っている。
死んでしまった、夢のなかの男。
でも、この男は生きている。
「……私が、殺した」
どれだけの時間が流れたのかは、知らない。
そう長い時間ではなかったような気がするが、結構な時間が経ったような気もする。
「殺した?」
「そう、夢のなかで」
みつめて、見つめ返されて。
根負けしたのは、私の方だった。
変な目で見るなら見ればいい。
どうせ、知り合いでもないのだし、これから会う可能性だってそんなに高くないだろう。
もうめんどくさいから話してしまおう。
それで、とっとと開放されて、寮に帰って夕那に話そう。
けれど、男は笑わなかった。
私の言葉に眉を寄せて黙りこむ。
「私は泣きながら、あなたを殺す。太刀であなたを貫いて――あなたは塵になって消えたと思っていた」
さらさらと。
私の胸に倒れこんだ男は、塵になって消えて行く。
風に溶けて、闇に溶けて。
まるで、封じの太刀で命を絶たれた獣のように――
難しい顔つきで黙り込んだまま、ただじっと男は私を見つめる。
「そんなにまじめに考えなくてもいいんじゃないの? 所詮ただの夢よ」
夕那は過去にあったことだと固く信じているし。
たまたま波長があった誰かの過去世を、私が夢に拾っているのかもしれない。
でも、巫女の素質皆無の私がそんな夢を見れるとはとても思えなかった。
頭を振って軽く言ってみたけれど、男の眉間にくっきりと刻まれた深い皺が消える気配はない。
「ただ、夢に出てきたひととよく似ていたから、私はあなたが気になってみていたの。見ていたけれど、名前を呼んだ覚えはないわ。夢のなかに、あなた似の誰かの名前はでてこないもの」
一番考えられるのは、どこかで読んだ小話が頭に残っていて夢に見たということだ。
獣狩師のことをもとにした話は決して少なくないのだから。
「ほかにその夢に出てくるものはいないのか……?」
もしくは、夢の続きとか。
かすれた声で、男はゆっくりとそう聞いた。
まさか、この男も夕那と同じように、私が過去をゆめにみているとか思っているのだろうか?




