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封じの姫と地の獣  作者: rit.
二章
22/33

夢の話をしてみること。

 私はじっと男をみつめた。

 月色の瞳、その中に映る私が、行動を決めかねるようにこちらをみつめている。

 沈黙が満ちて、乾いた風が吹く。

 私は、どうすればいいのだろう?

 この沈黙に耐え続けて男が根負けするのを待つか、あるいは変な人認定されるのを覚悟で夢のことを話すか。

 この場合はどちらが正解で、どちらがややこしくないのだろう?

 答えはまるで見えやしない。


 さらに、続く沈黙。


 男はただ黙って、私の言葉を待っている。

 死んでしまった、夢のなかの男。

 でも、この男は生きている。


「……私が、殺した」


 どれだけの時間が流れたのかは、知らない。

 そう長い時間ではなかったような気がするが、結構な時間が経ったような気もする。


「殺した?」

「そう、夢のなかで」


 みつめて、見つめ返されて。

 根負けしたのは、私の方だった。

 変な目で見るなら見ればいい。

 どうせ、知り合いでもないのだし、これから会う可能性だってそんなに高くないだろう。

 もうめんどくさいから話してしまおう。

 それで、とっとと開放されて、寮に帰って夕那に話そう。


 けれど、男は笑わなかった。

 私の言葉に眉を寄せて黙りこむ。


「私は泣きながら、あなたを殺す。太刀であなたを貫いて――あなたは塵になって消えたと思っていた」


 さらさらと。

 私の胸に倒れこんだ男は、塵になって消えて行く。

 風に溶けて、闇に溶けて。

 まるで、封じの太刀で命を絶たれた獣のように――


 難しい顔つきで黙り込んだまま、ただじっと男は私を見つめる。


「そんなにまじめに考えなくてもいいんじゃないの? 所詮ただの夢よ」


 夕那は過去にあったことだと固く信じているし。

 たまたま波長があった誰かの過去世を、私が夢に拾っているのかもしれない。

 でも、巫女の素質皆無の私がそんな夢を見れるとはとても思えなかった。


 頭を振って軽く言ってみたけれど、男の眉間にくっきりと刻まれた深い皺が消える気配はない。


「ただ、夢に出てきたひととよく似ていたから、私はあなたが気になってみていたの。見ていたけれど、名前を呼んだ覚えはないわ。夢のなかに、あなた似の誰かの名前はでてこないもの」


 一番考えられるのは、どこかで読んだ小話が頭に残っていて夢に見たということだ。

 獣狩師のことをもとにした話は決して少なくないのだから。


「ほかにその夢に出てくるものはいないのか……?」


 もしくは、夢の続きとか。


 かすれた声で、男はゆっくりとそう聞いた。

 まさか、この男も夕那と同じように、私が過去をゆめにみているとか思っているのだろうか?

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