仕事はきらい。
わたしは、仕事が好きではない。
いったい彼らが、どんな罪を犯したというのか。
彼らもまた、ほかの動物たちのように、ただ生きているだけなのに。
ただ、それだけなのに。
人間を襲うことが、稀にあると。
そんなつまらない理由で、彼らは狩られる。
人間が、彼らの領分を侵さなければ。
彼らもまた、人間なぞ襲いはしないのに。
ほかの動物たちよりも、少し。
人間よりも強いという、ただそれだけの理由で。
彼らは追われる。
彼らを。
追い、狩る。
それが、わたしの一族に課せられた仕事だけれど。
わたしは、罪もない命を狩りたくはない。
だからわたしは、仕事が好きではない。
今日もまた、わたしはまだ幼い瞳をした、獣の仔の命を容赦なく刈り取る。
あまりにあっけないその終焉。
おもわず、ため息がこぼれた。
こんなに幼い獣の仔がいったい何をしたというのか。
一匹ではまだ出歩くことすらできず、ただ母親の乳を吸っていただけだというのに。
人間というのはいつだって、自分たち以外の種族にはやさしくないのだ。
「朱紅」
哀れで悲しい獣たちは、その骸さえ残しはしない。
命が尽きれば、さらさらと崩れ。女神の夢へと還っていく。
封じの太刀についた血糊さえ――その生命の残骸さえも、砂となってふく風に溶けてしまうのだ。
「どうされました、兄上」
最後の砂のひと粒が、刃からこぼれて消えて行くのを見送ってから。
わたしはゆっくりと兄上の方へと視線を向けた。
朱の一族の正式な衣を身にまとった兄上は、いつだって美しい。
袖のない、錦糸を織り込んだ豪奢な朱色の衣。
むき出しの腕と足を保護するために巻かれた、厚地の布に。
龍の形の耳飾り、呪を封じた透明な珠を連ねた首飾り。
普通の剣でも獣を狩ることができるようにと呪をこめた、朱の一族秘伝の腕の紋様。
華美な衣は兄上によく似合っているけれど。
衣をまとうと、瞳が陰る。
夜のような美しい瞳が、いつも物思いに沈んでしまう。
「兄上様?」
兄上もまた、私の封じの太刀についた、獣の命の残滓に思いを馳せているように見えた。
もう一度呼びかければ、その瞳から哀惜を消して、その冷え冷えとした双眸をこちらにむけてくる。
「あまり、悼まぬことだ」
そうして、一言だけそんなことを告げる。
冷たい、感情のこもらぬ声音。
けれどわたしは知っている。
兄上もまた、わたしと同じく、華美な衣を疎んじ、仕事を好まぬものだということを。
本当に、お優しい兄上。
こんなにも獣狩の一族の長に似合わぬ人を、わたしは知らない。




