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封じの姫と地の獣  作者: rit.
一章
12/33

獣狩り師入門

   【まず、はじめ。

    この世界には、闇輝宮(くらきのみや)という神様がひとりだけいらっしゃいました。】


 草子の最初は子供向けのそんな語り口ではじまっていた。

 そもそも獣を狩るために受ける訓練というのは、軽く十数年を要するものだ。


 それほどに長い養成期間を必要としながらも、死亡率は下手をすれば、戦時の兵士以上だし。

 それなのに、貰える報酬はいつだって雀の涙ほど。


 だからいつだって、獣狩り師になりたい人は多くない。 

 

 貧しい村から、口減らしのために獣狩り師を志すもの。

 戦や飢饉で庇護者をなくしたもの。

 獣に村や里をほろぼされたもの。


 門をたたくのは、そんな止むに止まれぬ事情を抱えた人ばかりで。

 それだって、自分の面倒をみられない子供が圧倒的に多い。

 もとい。

 そんな子供たちの面倒を見切れない大人に手をひかれてやってくる、というべきか。


   【闇輝宮さまは、おひとりなのを寂しく思われ。

    右手の腕輪と左手の腕輪にいぶきを吹きかけて、

    闇の女神の輝無神(かぐなのかみ)と光の男神の闇無神(くらなのかみ)を生み出されました。】



 それは、だれもが知る創世の神話。

 闇の女神は命を生み出し、光の男神は命を育てる。

 二柱の神たちは、創世神に護られながら、はじめ仲良く世界を生み出していったが、あるとき仲たがいをするのだ。


 光の男神が特に大切に育てた人間が、知恵をつけ。

 闇の女神の大切な宝を傷つけ、壊してしまったところからすべては崩れ去った。


 怒り、悲しむ女神は、世界に背を向け、永い永い眠りにつき。

 男神はそんな女神を起こそうと、さまざまな策を練る。


 けれど、いまだ女神は眠り続け。

 その夢からこぼれる悲しみが、獣となって、女神の恨みのまま人間を襲うという。


 詳しくは覚えていないけど、とにかくそんな話だったはずだ。

 入門書は、そんな誰もが知るお伽話さえ話してもらえなかった子供たちのために、最初の頁で神話を丁寧に語るのである。


「で、夕那。これがどうかしたの?」


 苦い、思い出がある。

 私もここにきたばかりの頃に、泣きながらこれを読んだ覚えがある。

 少し懐かしく思い出しながら、燭台の明かりで一通り読み終えて、夕那をみつめた。


「どうしたのじゃないよー。本当にあんたってば注意力散漫なんだから」


 呆れたように夕那はまたため息をつき。

 頁の左下を指さした。

 そこには。女の子のかわいらしい挿絵がある。

 赤い衣に身を包み、髪を高く結い上げた、その姿――

 耳には龍の耳飾り、首には珠の連なった飾りをかけている。


「あ……」


 挿絵の女の子が、神話を解説している体なのだろう。

 あまりにも見慣れすぎていて、いままで気にもとめていなかった。


 確かにこの女の子の姿は夢のなかの私にそっくりだ。

 まぁもっとも。いくら簡略化されてるとはいえ、私よりも数倍可愛いのは確実だとは思うけれど。

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