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封じの姫と地の獣  作者: rit.
一章
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夢解きを試みてみる。

「異種族婚姻ね!」


 私の話を聞き終えた夕那は、なぜだかとてもキラキラと瞳を輝かせた。


「はぁっ?!」

「素っ頓狂な声上げてんじゃないよ、日彩」


 夕那は人差し指をたてると、思わず胡乱な顔つきになった私の眉間を軽くつついた。


「いいこと? 夢のなかであんたは獣封じの太刀をもってんでしょ? てことはさ、その男は獣だってことだよ」

「馬鹿言わないでよ。その男はどこをどうみても、獣には見えないわ。人間よ」

「勉強不足だわ、日彩。獣が人に化けていたんでしょうに」


 心底呆れました。

 いかにもそんな顔つきで夕那はため息を付いたけれど、呆れましたとため息をつきたいのはこっちの方だ。そんなお伽話が現実にあってはたまらない。

 

「だって、夕那。獣は獣なのよ? 人間に化けるなんて馬鹿なことがあるわけ無いわ」


 人間に害をなす、獣。

 眠り続ける闇の姫神(くらのひめがみ)の夢からこぼれたという、不安定なもの。

 獣というのは大小の差はあっても、基本的性質というのはおおむね同じだ。知能を持たず、その性質は凶暴で、血を好み、人肉を食べる。

 ただでさえやっかいなそんな獣が、実は人語を解し、人間に化けるほど呪をよくしましたなんて、そんなことがあってはたまらない。


「もう、頭が固いんだから。伝承にもあるでしょ。年を経た獣は人に化け、人語だって解するんだよ」


 憮然として夕那はさらに言葉を紡ぐ。


「だから! 伝承は伝承なのよ。真実じゃないの。そんな夢物語、現実にあったら私たちはとうに滅びちゃってるわよ」


 一匹の獣が、里を壊滅に追い込むことも少なくはない。

 そんな獣に知性があったらと思うとぞっとする。

 そんな思いからまくし立てれば、夕那は不機嫌そうに眉をひそめたまま黙り込んだ。



 そう。夢に出てくるあの男は。

 獣の耳を持つわけでも、尾が生えてるわけでもなくて。

 ごく普通の手足と、一般基準よりちょっと整った容姿を持ち。

 当たり前のように言葉を解していた。


 だから、普通に考えてあの男は人間だ。

 普通の人間だって、獣封じの太刀で貫かれれば死んでしまう。

 当たり前だ、あれは太刀なんだから。


 月の光を映した、あの哀しげな瞳。

 どうして、あの男は抵抗もせずに私に殺されたんだろう。


「まぁ、いいよ。そんなら百歩譲ってその男は人間ってことにしましょ」


 百歩譲っても何も、普通の人間じゃなかったほうがびっくりなんだけど。

 とりあえずはだまって夕那の言葉の続きを聞くことにした。


「まぁ、あたしはその男が少なくとも普通の人間じゃないって確証があるけどね」


 未練たらしくつぶやく夕那の言葉はあえて聞こえなかったふりをした。

 ここで食いつけば、夕那の思う壺だ。

 起きたばかりでまだ頭はぼんやりしていたけれど、いつでもどこでも正確な、私の腹時計がそろそろ飯時だとしらせている。夕那の話の邪魔をして、ご飯が食べられないのなんてまっぴらだった。

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