表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンノウンワールド・ディベロッパー  作者: losedog
1章 行き倒れの魔法使い
4/4

準備整えました

半年以上、お待たせしました……(待っている人がいるのかはわからないですが)


とりあえず投稿。

 夜が明けて。カズとラクリマは昨日と同じように隠れながら「噛み砕くもの」を見ていた。


「ねぇ、いつまで隠れてるの? 戦わないと依頼達成にはならないんだよ?」


 ラクリマのもっともな指摘にカズは、


「戦う? バカを言っちゃいけない。戦闘にすら……いや、相手にとっては狩りにすらならないよ。じゃれ合っただけでボクのハートはブロークン」


 少し哀愁漂わせて答えた。


「カズ! カズ! 気味悪いこと言ってないでちゃんと説明しなさいよ!」


 因みに壊れるのはハートではなく、普通にカズのアバターである。

 今日も今日とて、大きな岩に隠れる一行と「噛み砕くもの」の距離は目測で二百mは離れているだろう。彼らがフィールドに出てターゲットを補足してから三時間。ずっとこの調子で相手を見ているだけである。

 いくら「虚弱」とはいえ、好奇心と行動力だけはスバ抜けているラクリマはうずうずして今にも飛び出しそうだがカズの必死の説得で引きとめられている。

 というか、涙と鼻水にまみれた本気の顔で懇願されれば、流石に行けなかったというのがラクリマの心境ではあったが。


「とにかくまずは相手の行動範囲を把握する必要がある。あいつはどこからどこまでを徘徊しているのか。また時間によってどこに居るのか。どこか寝床なのか。全ての情報を洗いざらい知っておかなくちゃ」

「……あんた、ストーカーっぽいわよ」

「ちょっ……! 違うだろ!」

「カズ君……」


 ラクリマにまで一歩遠ざかられたカズは涙目で標的を観察する。

 彼がストーカーの不名誉を受けてまでこのような行動に出ているのにもちゃんと理由があるのである。





 話は四時間前に遡る。朝、二階の寝室から一回の食堂に朝食を取りに来たカズたちはこれからの予定について小声で話し合っていた。小声なのは、これから行う「噛み砕くもの討伐ミッション」にはカズのプレイヤーとしての生命線がたっぷり詰まっているため、関係のないプレイヤーにまで情報が漏れないようにするためである。


「兵器?」

「そう。このアンノウンワールド・ディベロッパーには通常のプレイヤーが装備して扱う《武器》とは別に《兵器》と呼ばれる……いや、分類される道具が存在するんだ」


 アクション重視であるために、それだけ熟練したプレイヤーであってもモンスターとの戦闘が常に死と隣り合わせであるのがこの世界だ。一つの油断が一瞬で死をもたらす。

 この世界の成り立ちが成り立ちなので、そう言った「悪意の欠片」もあるのだが《リアル・ラヴァーズ》はあくまで開発に関与しただけなので、このアンノウンワールド・ディベロッパーにも「娯楽としての救済措置」はしっかりと存在する。カズはそういった事情は知らないが。


「たとえばラクリマの魔導書やボクの投げ槍(ランス)、投擲用ナイフは装備品分類だよね?」

「うん」

「それとは別に、ステータス画面で装備しなくても使用できる武器が《兵器》なんだ」

「え? でもそれじゃあゲームのバランスが崩れちゃわない? 装備を保ったままその兵器も使用できるってことだよね?」


 それは複数の武器を同時にしようとするメリットを指摘してのものだ。誰だってその利点に注目するだろう。しかし当然、


「それは無いよ。これ以上ないデメリットがあるから」

「デメリット?」

「うん。まず《兵器》に分類されるモノは総じて……でかい」


 《武器》とは比べ物にならない火力を誇りプレイヤー達の大きな助けとなる《兵器》ではあるが、この世界の主兵装は剣や槍と言ったもので近代兵器は一切出てこない。

 当然《兵器》分類のものも近代兵器は無いのである。


「銃のような持ち運びできるものは何ひとつとしてない。言うなれば攻城兵器のような……巨大弓(バリスタ)とか投石器のように馬鹿でかい」


 早い話「設置型」である。


「第二に一回攻撃したら、次の攻撃に時間が掛かる。要は拠点の防御や攻略を見据えたもので連携を前提とした造りなんだよ」

「……それがどう今回の討伐依頼に繋がるの?」

「この世界の最悪なところはアクション重視のリアル性。だけどこの世界のシステムの最大の利用ポイントもアクション重視のリアル性ってこと」

「カズ! カズ! ラクリマがショートしてる!」


 祢々の指摘通り白い煙がラクリマの頭より立ち上っていた。


「現実に、攻城兵器の一撃に耐えられる生き物なんて居たかい? たとえこの世界にドラゴンような生き物がいたとして……攻城兵器の一撃が即死とは言わなくとも重症や致命傷に至らない強度があるとは思えない。まぁ、当てれればだけど」


 カズの考えとは攻城兵器で噛み砕くものをぶち抜くというモノだった。





 そんなワケで、最初の一撃により仕留めることが勝利条件である今回の作戦のために、相手の行動範囲などの情報が必要になったわけである。

 そのストーカーっぷりはある意味鬼気迫っており、カズの移動手段はもっぱら匍匐前進。その隣で普通に歩くラクリマが居るので最早ただのギャグである。背中に祢々を乗せてズーリズーリ進むその姿は知らない人が、いや知ってる人が見ても正直引く。

 ラクリマの可哀そうな人を見る視線に耐えながら一日目の監視は過ぎていく。


 ■□■□■□■□


 そして再び夜が来る。

 二人は昨日と同じように宿の食堂で腹を満たし……ているのではなく、その姿はグローリアの西、工業区の外縁部。そこにある四階建ての建物の屋上にあった。

 作業開始から五分で倒れたラクリマを横目に一階から道具を抱えてひたすら往復するカズ。歩くたびに鳴る金属音がどこか物悲しい。


「そして第三のデメリット。組み立てと分解がこれ以上ないほど面倒くさい」

「カズ! カズ! 一体誰に一人ごちているの!?」


 彼らが運んでいるのは今回の討伐依頼達成の肝となる《兵器》である。そのままでは当然持ち運ぶことも出来ず、目立つので夜の人目のない時間に分解したものを少しずつ運び込んでいるのだ。全てのパーツを運び終え次第組み立てという予定である。


「それにしてもいくらリアルを重視したからと言ってもアトラクションだね。巨大弓ならぬ巨大弩か。攻城兵器で狙撃に重視を置いたものが存在するんだもんなぁ……」


 元々が娯楽を提供する電脳世界であったために、多数のプレイスタイルを予測しての措置だろう。おかげで《チキンハート》のカズであっても生命線を保てるほどにプレイスタイルの幅は広い。

 がちゃがちゃと音を立てて荷物を運ぶカズと疲労で動けないラクリマ。

 最弱と虚弱の二人。やっと出会ったパートナーを祝福するように闇夜から月が彼らを照らしていた。


 ■□■□■□■□


 それからもストーキングと兵器設置の日々が続いた。

 正直これと言った起伏のない日々ではあったが、それでもいくつかの出来事はあった。

 まず、カズが通報された。

 プレイヤー有志で構成された治安維持を担う「警邏隊」に不審人物として通報されたのである。まぁ、連日フィールドに匍匐前進する男が居れば不信を通り越して気味が悪い。

 連行されることはなかったがラクリマの、


「彼、脚が……いえ頭がおかしいんです。臆病から脳が少し……」


 少なくともフォローではない言葉で警邏隊をやり過ごした。その後に祢々と二人して匍匐前進以外の理由で地に伏すカズを見て爆笑していたからからかわれていることは分かったが、あんまりだと土を濡らしたカズである。

 またターゲットの監視中、十中八九ラクリマが果てた。匍匐前進するカズから紐で引きずられる女性プレイヤー。そのビジュアルはカズが通報されることに一役買っていたことを二人は知らない。

 因みに通報された際、流石に騒がしかったのか「噛み砕くもの」が引き返してきたこともあった。警邏隊を無視して、身動きできぬ虚弱魔女を背負ったカズは全速力で逃げた。あとで警邏隊の人に説教を受けたことと、背中で感じた想像よりも大きいサイズに一喜一憂したのは幸か不幸か。

 夜の兵器組み立て作業でラクリマの虚弱がある程度克服可能であることが知れたときは、ラクリマに無理矢理付き合わされて、月夜の下でフォークダンスを踊った。連日の監視と準備の運動が少しずつではあるが彼女の行動時間を延ばしていたのだ。

 嬉しさのあまり翌日丸々一日を休日にあてがうことになることになったので本末転倒もいいところだが。

 カズとラクリマは、電脳の牢獄と化したアンノウンワールド・ディベロッパーで、ここ一年のなかでもこれ以上ないほど充実した、満ち足りた日々を過ごしていた。

 そして。

 遂に作戦決行の日が訪れる。

 噛み砕くもの狙撃作戦、スタートである。


ご意見・ご感想・誤字報告お待ちしています。

これからはこの作品も少しずつ進められるよう頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ