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山田なるみ@日曜日 18:45

 どこか遠くで、踏切が鳴っている。甲高い耳障りな音が、私の中をこだましている。

「……ピース……」

 私は、罪を犯した。触れてはいけないものに手を伸ばした。赦されざるもの。どんなに近くても、指先で触れてもいけない。

 青い鳥なんていない。寓話は、所詮寓話でしかない。

 平和は、心の安らぎ。心の安寧。その欠片を手にすることが、どれほどの罪なのか。今なら判る。

「……平和……」

 踏み切りの音が激しく鳴り響く。線路が心地良いリズムを奏でる。

 私に残された道は、おそらく、ひとつしかない。

 大罪を犯した人間に、安易な安らぎなんてない。

「……ピース……」

 幸せになりたい。幸せになりたい。

 目の前を通過していく電車によって、私の身体が煽られる。足取りが覚束ない。歩き方って、どうだっけ?

 ああ、そうだ。私にはもう、必要のないものだから。

 歩き方も、呼吸の仕方も。すべて。私には必要ない。

 私にはもう、何も必要ない。

「ピース……!」

 これで正しいの? これが正しいの?

 ピースは、完全なる幸せをもたらす。中途半端な興味で近付いた私を、赦すはずがない。

 近付いてはいけない。警笛は、鳴っていたのに。

 張り付くような、ひんやりとした感触。素足で線路を踏むのは始めてだ。スタンドバイミーみたいだと、麻痺した頭の片隅で感じた。

 遠くで踏み切り音が、けたたましく鳴り響いている。

 そろそろ、行かなくちゃ。

 私のピースはここにある。私のピースはここにあった。

 私の平和は、ここから始まる――。

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