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加藤 夏子@水曜日 19:45

 兄貴の掴んだ手掛りは、多分、そういうことだ。

 信用すれば良いのか、嘘だと認めた方が良いのかは判らない。ピースの存在を否定しようにも、条件が揃い過ぎていて。かといって肯定するには、足りな過ぎる気もして。

 見付けたら幸せになれる存在。

 けれど豊のまとめた情報は、死亡者及び行方不明者のリスト。幸せとは対極に存在しているはずの、一覧。なるみと、咲の名前も載っている。

 タカが話していたタシロコノミも。中学の後輩らしき名前も。受験生だった人。中学に入ったばかりの人。リストに挙げられている三年間だけで、八人もの男女が何かしらの形でピースと関わって、命を落としていた。

 いや。ピースと関わって、と言い切るのは違うかもしれない。そう推測しているのはタカと、私。そして、おそらく豊も。

 このリストを見るまで気が付かなかったけれど、私の高校での行方不明者も出ていたらしい。大沢先輩と同じ学年の女性。中学の後輩は、私が三年のときの一年生。同じ学校にいたはずなのに、私は微塵も知らなかった。

 インターネットの履歴を見ると、この行方不明になっている後輩は普段から素行が悪かったと書いてある。だからといって、学校に来なくなっても誰も話題に挙げないものだろうか。

 大沢先輩と同級生の女性は、卒業後の三月末に自宅近くの公園で首を吊っていたらしい。遺書には、浪人することへの苦悩が書き綴られていたと記されている。だから学校で、話題に上がらなかったのかもしれない。

「……あ」

 この一覧を見ていて、私はおかしなことに気付いてしまった。

「どうしたの?」

 兄貴の友人が、モニターを覗き込みながら訊ねてくる。

「いえ、何でも」

 私の周辺で、多発している。中学のときは中学で。高校に入ってからは高校で。例外は、タシロコノミともう一件のみ。そのふたりも、今年の秋という共通点が存在していた。

「……ピースの話、どこで聞きました?」

 兄貴の友人が聞いた場所。私の周囲に広がる噂。出所に、手掛りが隠れているような気がする。

「俺は、さっき始めて聞いたよ」

 長井さんが言う。

「タカオ君に聞かれたから、知らないって答えたんだけど」

 つまりは。長井さんの周囲には、流れていない噂ということ。

「……この間の、日曜。加藤と待ち合わせしてる最中に」

 少しばつの悪そうな顔で、高橋さんが続けた。

「ケバい女子高生がさ、ナッツが行方不明になったとか何とか言ってたのを小耳に挟んだけど。……立ち聞きしてたわけじゃないから。偶然、たまたま、聞こえてきただけだから」

 ナッツ。このリストの中で、そういう名前で呼ばれていそうな人間は。

「……タシロコノミ……」

 このみ。木の実。ナッツ。あり得ない話じゃない。ケバい高校生というのも、タカの高校ならあり得る話だ。

 何かが、少しずつ繋がっていく。形を成していくそれは、あまりに曖昧で。あまりに滑稽で。

 あまりに、不気味。

「幸せって、なんだろう」

 ピースに出会うと幸せになれる。

 けれどこのリストにあるのは、幸せになれなかった人達の名。なるみも、咲も、名を連ねている。どのようにピースに関係しているのかは判らない。あるいは、関係していないのかもしれない。

 なるみが見付けた手掛り。兄貴がまとめたリスト。私の周辺で起きている事象。

 中学と高校。両方とも同じ学校に通っている人は、少ない。私と。タカの友人、肇。日曜に駅で会った人物。バスケ部の友人。苗字は、何?

 豊の友人をそのまま部屋に残し、私は自分の部屋へと向かった。卒業アルバムの、部活紹介のページ。そこを見れば、肇の苗字が判る。

 本棚に無造作に並べられたアルバムを取り出し、後半にある部活紹介のページを探す。あの写真は、タカの満面の笑みがたまらなく可愛くて、本人には言わないけれどすごくお気に入りだった。だから何度も見ていたし、そのページはすぐに見付けられるはずだ。

 運動部の写真が並ぶ中、バスケ部のページを探し出す。写真の中央に写るタカの笑顔が眩しい。並んでいるのは、全部で五人。中央にはタカ。右隣にいるのは、川本君。その隣にいるのは。

 ――佐藤、肇。

 今ほど身長も高くなく、眼鏡もかけていない。子供っぽい顔をしているが、間違いない。

 なるみと最期に会った人物。咲とピースの話をしていた人物。私と同じ中学からの、数少ない同級生。

 佐藤が、私の中学の同級生。クラスメイトで、何度も顔を突き合わせていたはずなのに。私はちっとも気付かなかった。気付けなかった。

 一年のときは違うクラスだったと思う。その間に身長も伸び、印象が変わって。知った顔でも判らなくなることがあるのかもしれない。

 高校デビュー、とも違う。この写真に写っている佐藤と、今の佐藤では。誰だって、抱く印象が全く違っているだろう。

 はにかんだようにぎこちない笑みを浮かべる写真の佐藤。へらへらとして地味で印象に残らない優等生の佐藤。写真では眼鏡をかけていない。今は、眼鏡をかけている。まるで別人のように、雰囲気が全く違っている。

 佐藤が、何かを知っているかもしれない。

 ピースの手掛りを。このリストの詳細を。知っているかもしれない。

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