白バクのマーシュ
粉雪がちらちら舞う12月。
赤いマフラーを身につけた白バクのマーシュは、そわそわと、おうちの中を行ったり来たりしていました。
ワクワク、ドキドキする胸を落ちつかせるように、なんども息をすって、はいて、すって、はいて、それでもやっぱり、窓のそとを見てしまいます。
そう、今日はとくべつな日。
待ちに待ったクリスマスイブです。
街はきらきらとかがやいて、この家から見えるもみの木も、赤や、青のまるいかざり、きんいろのショールに、あたまにはピカピカのお星さまをつけて、ほこらしげにたたずんでいます。
普段にんげんたちのゆめを食べて暮らしているマーシュは、クリスマスのゆめが、とてもしあわせで、おいしいことを知っていました。
ああ、もうすぐ夜がやってくる。
今日のごちそうを思いうかべて、その場でとびあがったマーシュは、ほどけてしまったマフラーをもう一度巻きなおすと、また行ったり来たりするのです。
さぁ、夜がやってきました。
マーシュはまず、いちばん手前にある、ゆうびん屋さんの家にむかいました。
やんちゃな男の子、ジョンの足が、ベッドからとびだしています。
どんなゆめを見ているのかな?のぞいちゃおう
マーシュはジョンのゆめの中へはいってゆきました。
「天気良好だ。よし!しゅっぱーつ!!」
ジョンは飛行機のパイロットになっていました。
マーシュはジョンの後ろにすわり、いっしょに空のたびを楽しみます。
山と山のあいだをすり抜けたり、雲を越え、空の海を泳いだり、ジョンの操縦で、どこへでもひとっとび!
「よぉし!旋回だ!」
ぐるんと周ると
パクッ!
マーシュはジョンのゆめを食べてしまいました。
「ああ、おいしかった」
マーシュはお腹をさすりながら、次の家にむかいます。
くだもの屋さんでは、リリがまくらを抱えて寝ていました。
どんなゆめを見ているのかな?
マーシュはリリのゆめに入ってゆきました。
リリはキッチンでパフェを作っていました。
「次はリンゴかしら」
お店のくだものをたっぷり使った、リリのスペシャルパフェです。
マーシュはボールの中の生クリームをまぜて、お手伝い。
メロンにイチゴにパイナップル、オレンジ、キウイ、サクランボ
生クリームをしぼったら
「さぁ、仕上げのチョコレート!」
ふたりでチョコレートをかければ完成!
「いただきまーすっ」
パクッ
マーシュはリリのゆめを食べてしまいました。
パクッ
…パクッ
パクパクッ
さかな屋さんのペータに、美容院のエリィ、赤毛のロビンに、かけっこケイト
みんなのゆめを食べたマーシュは、さいごにもみの木のゆめをのぞきました。
もみの木は、みんなのクリスマスをみつめています。
からだを彩る丸いかざりには、みんなの笑顔が映しだされていました。
マーシュはとてもいい気分になって、もみの木にのぼって鼻歌をくちずさみました。
あぁ、クリスマスって楽しいな
空には星がかがやいています。
パクッ
マーシュはおなかいっぱいになって、その場で寝てしまいました。
つぎの日の朝。
マーシュが目をさますと、なんだか様子がおかしいことに気がつきました。
クリスマスの朝なのに、うれしそうな声がこれっぽっちもしないのです。
きのうはあんなにかがやいていたもみの木も、きょうはさみしそうに枝をゆらすだけ。
あわてたマーシュは、もみの木にたずねました。
「どうしてそんなに元気がないんだい?」
もみの木は答えました。
(それはきみがクリスマスを食べてしまったからだよ)
なんとマーシュはクリスマスごとゆめを食べてしまっていたのです!
悲しくなったマーシュは、ポロポロ、ポロポロ泣きました。
だいすきな赤いマフラーも、なみだでにじんでいます。
マーシュは思いました。
クリスマスのゆめが食べられないのは、ちょっといやだけれど、クリスマスにみんなの笑顔が見れないのは、もっといやだ!
マーシュの目が真っ赤になったころ、空から雪が落ちてきました。
すると、もみの木のかざりが、ひとつ、またひとつと輝きをとりもどしていきます。
マーシュがまわりをみわたすと、
「やったぁ!ひこうきのおもちゃだ!」
「わぁ、かわいいエプロン!」
遠くで、よろこびの声がします。
マーシュはごしごしなみだを拭いて、耳をすませました。
もみの木はそっとマーシュにはなしかけます。
(クリスマスがもどってきたよ)
マーシュはうれしくなって、もみの木に抱きつきました。
クリスマスが終わり、マーシュはあたらしい年を迎えようとしています。
赤いマフラーを巻いて、それから頭には白いぼうしをかぶっています。
マーシュはおうちのなかでそわそわしながら、日付がかわるそのときをまっていました。
さぁ、あたらしい年はどうやってすごそうか。
マーシュはクリスマスから、よくばりなことはしなくなりました。
それでもやっぱり、ちょっとだけゆめをたべたくなったら
マーシュはあなたのゆめを、ちょっぴりかじりにくるかもしれません。
おしまい