神社の境内で昔買ってた犬を見つけたんだけど
掲載日:2026/08/05
あの日、川の濁流に消えた愛犬と、自分を川へ誘った友人の影。止まったセミの鳴き声と歪んだ再会から始まる、狂った夏の延長戦をお楽しみください。
神社の境内で、おととしの夏に死んだはずの愛犬ポチを見つけた。
杉の木陰にうずくまるその背中は間違いなくポチだったが、近づくにつれて喉の奥がヒリついた。セミの鳴き声がぴたりとやみ、境内を気味の悪い静寂が包む。
「ポチ?」
声をかけると、首がギチギチと嫌な音を立てて真後ろへ回転した。泥で汚れた毛並みの間から覗く目が、黒目だけで塗
つぶされている。
口が大きく横に裂け、濡れた舌の代わりに、あの日ポチを呑み込んだ濁流の臭いが溢れ出した。
「おまえ、だれだ」
足元から伸びる黒い影が、ゆらりと私の影に重なった。
「なつが、えんちょうしたんだよ」
ポチの口から放たれたのは、あのおととしの夏、川へ遊びに行こうと誘ってきた友人の声だった。
【了】
作者の奏汰です。
本作をお読みいただきありがとうございます。
あの夏のトラウマや罪悪感が、終わらない夏として怪異となって襲いかかる不気味さを表現してみました。首の関節音や水の匂いなど、湿り気のある恐怖を感じていただけたなら幸いです。




