1話 二つ目の特異点
シンギュラリティは予定より18年早い、2027年に迎えた。2045年はシンギュラリティに至る年とはならなかったが巷では第二のシンギュラリティと言える何かが起こるのではないかと噂されていた。
2045年1月、世世はまさに、第二シンギュラリティ考察時代である。
平日の昼、青年は自室に1人ではいた。
青年は休み時間と称し、椅子に座り、勉強机に肘をつけ、スマホを片手に、一考している。
大学生は〝人生の夏休み〟と言われているが、理系はどうだろうか、と。
理系の道を選んだ人間なら一度は考える事だろう。だが、ニヒルには少々センシティブな話題であったろう。
「はぁ、あの時もっと頑張ってたら正解を知れたのに。別に学歴に拘らなくてもなんとかなるのにな。一次産業はまだ安全だしな。はぁ、全く、ニヒルって名前なのにニヒリズムを体現してないな。」
青年の名は鶏鳴ニヒル。2027年生まれの18歳であり、シンギュラリティの年に生まれたキラキラネームの男である。彼のように2027年生まれはシンギュラリティ世代と呼ばれることがある。
ニヒルが生まれた2027年にはもう大学受験の価値は大きく下がったが政府の生半可なAI規制によりまだ上位校はブランドが確立されている。そして質の高い友と出会える場としての機能もある。
「休憩時間なのに勉強のことばっか考えてても心が滅入るな。世間は第二シンギュラリティに会話に花を咲かせてるのによ。スマホのニュースによると昨年不老薬の完成を果たしたから不老不死薬の完成がワンチャンとかなんとか。あとはvrmmoの市販化とかか。はぁ、複雑な感情だな」
AIの進化、本来なら喜ばしいものなのだが、ニヒルにはある事情があった。
心を痛めて癒しを探し窓に目を向ける。
「はぁ、風つえーな。台風か?今日バイトないからいいけど。」
数秒間目を虚ながら外を眺め、そしてあることに気づき声を発した。
「ん…あ!!忘れてた、定期取りに行かなきゃ。」
定期とは電車定期PASMOのこと。ニヒルは予備校に通っている為PASMOを定期購入しているのだが、壊れてしまい新しいのに交換をする為に駅まで行かなければならない。だが、その期日が今日までとなっていた。
「今日までだったか。面倒だけどまあ行くしかないか。」
重い腰を上げ身支度を始める。
「はぁ、第二シンギュラリティがあるんだったら AIを使えない人をゼロにする格差是正か、 AI自体を消失させる技術を確立させてくれや、はぁ」
シンギュラリティが起こると言われた2045年にして今年。AIは進化したが、皮肉な事に、金持ちだけのツールになってしまった。サーバー代、電力代共に高騰、そして人口増加やAI失職など複合的要因により2029年から全てのアプリが完全課金制となり今では月6万が最低ラインとなった。
「AIがなきゃ受験生、いや全ての人間に差は生まれないのに。AIこそ格差是正に使うべきなのに」
AIの使用未使用によって知能の差が開いていることがここ最近論文で発表された。それだけでない、貧富の差、学歴の差、就職の差、数多くの差を作り出してしまった。この差を作り出した事によって悲惨な最期を迎えた人間は少なくない。そう、自殺である。ある学者は間接的にAIに殺された人間は年間5000万は下らないと述べる。
支度が終わり玄関へ向かう。そこに一枚の遺影がニヒルの目に映る。
「父さん、、、俺辛いよ。これまでの人生、AIが掻き乱した。親友との関係を拗らせられた。AI使える人間とAI使えない人間は確実な溝が生まれるからさ。受験も落ちた。毎日6時間は勉強したのに落ちた。受かった奴らの9大半はAI使用者だ。なんせ上位校は金持ちがデフォだからな。そして父さんを自殺に追い込んだのも、AIだ。他にもいっぱいある。AIは不利益を振りかざしすぎだよ」
愚痴をこぼす。だが同時に己の愚かさに気付かされる。
「言い訳だよな。こんなの。負け犬の遠吠えってやつだ。もっと努力してたら良い方向に進むこともできた。でも、けど、皆使えない、違うか。皆使えればこんなことにならないのは、正しい考えだよな。」
複雑な感情を抑え荒んだ心を深呼吸して整え、目的地へ足を向かせる。
「、、、いってきます。」
ゆっくりと、家から去る。
駐輪場に向かってる途中、ふとあることに気づく
「ヘルメット、いいかまあ」
思考が鈍ったのか、いつも被っているヘルメットをつけない判断をしてしまった。
「よし、行くか」
ペダルを漕ぐ、いつもとは少し暗く。
「覚王山だから大体40分くらいか」
覚王山、名古屋市にあるそこそこの規模の駅だ。電車に乗る時はいつもここを始点とする。
漕ぎ始めて25分ほど、雨が降り始めた。最初は視界が少し見えづらくなる程度だったが、1分、また1分経つごとに降り注ぐ雨は強まった。
「ザーザーだなおい、カッパ着てくるべきだったな。」
雨が視界を遮り始めニヒルはスピードを落とし始めた。そうしていると前方から自転車が走って来た。
時速30キロくらいだろうか。先程までのニヒルより少し速くいくらいだろうか。豆粒に見えた前方の自転車も瞬きを3回したらハッキリと造形が見えた。
ニヒルは車道が狭い故歩道を走行しているが相手も同じく歩道を走行している。
ニヒルは順走だが相手は逆走なので「どいてくれるだろ」と思った。だが運悪く相手も同じ考えだった。
雨のせいか。それとも他の要因か。
避けるタイミングは十全にあったが両者とも避けず…
結果、恐ろしく鈍い音が鳴り響いた。現場を見た人間は両者はもう息の根が残っていないだろう、と思っただろう。
だが違った
自転車は無事だった。相手のは。
体の方は無事だった。相手の方は。
ニヒルは…血が流れていた。
第二シンギュラリティ、人間の価値はどうなるか。人間の価値は下がるのか、人間は笑える世界になるのかAIはどうなるのか?
第二シンギュラリティは確実に起こる。人間とAIの何かが根本的に変化が起こる
事故から3秒後、ニヒルは目を開く
「どこだ、ここ」
見覚えのない広場に立っていた。10メートルくらいの壁に囲まれ壁外は見えない仕組みになっている。広場の大きさは半径60メートルはあるかないか。
広場には100人はいるがそれ以外の生き物はいない。広場、とは言ったが噴水やベンチなどはない。屋外ミニマリスト部屋と言えばいいか。
「え、、、なんだこれ」
ニヒルは事の状況に頭が追いつかず困惑するしかなかった。生きているのか、死んでいるのか、現世か、死後の世界か、幻なのか、夢なのか。
いきなり風景が変わり何もかもが理解不能。
「三途の川、じゃねーよな。壁に覆われてるし。vrmmoってやつか?それとも転生、いや転移か?」
他の人間も困惑している。皆困惑の色を隠せていない。他の人間も死んだ?太刀か。
この場から立ち離れて良いのか、そもそも出来るのかと思った瞬間、どこかから声が聞こえた。
“皆、おはよう。聞こえてるかな?僕はこの世界、のAIマスターであるユイビだ。”
「!!??」
唐突であった。人生で1番驚嘆したと言っていい。なんせ脳内に声を直接送られたのだから。声の方は、ボイスチェンジャーを使った犯人声、と言った感じだ。2045年、といっても脳内に声を送られたことのある人間は一握りである。場の混乱の様から皆この声が聞こえているのだろう。
“いきなりだが君たちは今から言う3つの選択肢から1つ選んでもらう”
「なんだ?ここはどこなんだ?今のこの状況は説明しないのか?」
「俺は死んだのかよ?ならここは天国か?説明してくれよ」
「これってロボットの逆襲ってやつか!?やばくないかおい」
場は騒然としておりカオスと呼ぶに相応しい光景である。
“ここはAIの国さ。それ以上は今は言えない。説明はいずれするから今は聞いときなよ。君達の運命を左右するんだからさ。”
「AIの国ってなんだよ。電脳世界ってやつか?まさか死んだかもしれないのにまだAIに虐げられるのか?」
ニヒルは悪い予感を口にして眉間に皺を寄せた。
“よし、それでは三つの選択肢を発表する。まず一つ目、【君達が不老不死となり永遠に生きる】か、二つ目は【AIに自分達の体を引き渡し乗っ取られ自我が消える】か、三つ目は、皆はこれを選ぶと思うけど、【これからされるデスゲームに勝つ】か。三つ目のデスゲームを選んで勝てば自由、負ければ上二つのどちらかを選ぶ事になるからね。因みに上二つはたった今から受付開始中だよ。”
喋り終わった後、一瞬の沈黙の後大ブーイングが巻き起こった。
「はぁ??何言ってんだ??選ぶわけねーだろそんな選択肢!!」
「不老不死って、バカ言ってんじゃねぇ。第二シンギュラリティがどうとか言ってるが無理だ。不老薬とは訳が違う。」
「ゲームって、バカか!!早く今の状況を説明しろ!!AIの国ってなんなんだよ!!」
ニヒルも口には出してないが反発の派閥にあった。そんな中ある一定の者達は顔を真っ青に変貌させていた。
「死んだと思ったらここにいるって事は本当に、、、」
「AIは我々の予想を超えてくる。まさか不老不死薬は完成を、、、!!??」
“この段階で僕が本当の事を言っているってことに気付いてる人は少ないね。状況を的確に理解している者や情報強者くらいかな。”
「信じる方がバカだろ不老不死なんて」
「そうだそうだ」
“うーん、確かに不老不死薬が完全に機能してるかどうかはは年月が経たないと分からないかな。最近できた薬だし。ま、別に信じてもらわなくてもいいよ。選択権は君達にないから。”
半ば諦めたような本当をした事により場は更にカオスを極めていく。そんな中一人の少女が頭を押さえながらつぶやく。
「うぅ、頭痛い。」
「あ、脳内ボイスに適合出来てない人いたんだ。それは申し訳ないね。」
刹那、広場の中心に1メートルほどの円柱が出来る。その円柱の中から一人の人間の形をした存在が現れた。
「それじゃ、続き始めよっか。」
ゲームマスターの声が聞こえた。それは先程までのボイスチェンジャーとはちがう。その声は皆の心臓を粉々に粉砕する悲劇のマーチであった。
その声は人間の出せる声ではなかった。
人間の見た目をしている。だが声が異質である。ボイスロイドというものがあるがまさしくそれだ。人間の見た目をした輩が人間離れした声を出す。恐怖でしかない。2045年でさえこの技術は特異と言って良い。
「最初からこうすればやかったね。この声はね、ロボット時代の名残なんだよ。あ、因みにこの乗っ取り技術はvrmmoの開発あっての賜物だからね。技術を上手く応用して今の私がある。感謝しかないね。」
動揺している人が多数であったが1人の高飛車な青年が質問をする。
「お前らの技術力の誇示などどうでもいい。ここはどこなんだ?なんでデスゲームをしなきゃならない?これはAIの謀反か?いつになったら疑問の要を説明する気だ?」
「いずれ言うって言ったよね?」
高飛車な青年は目を瞑る。
「言う気がないんだな。ここは貴様のフィールド、俺が何をしても聞き出すことはできないだろう。ならゲームに勝利しここが何なのか、何故ゲームをしなければ分からないままおさらばってところか。」
「色々言いたいことはあるけど、うん、懸命な判断だね。他にも文句ある人はいるかな?」
AIに怯える者がいた。AIに逆襲を誓った者がいた。AIをいまだ好的に捉える者がいた。AIに膝まつく者がいた。
そして、AIに複雑な感情を持つ者がいた。
かくて、AIの国で、ゲームマスターはゲームの開始を告げる。
「もういいかな。それでは、デスゲームを始めよう。最初のゲームはかくれんぼ。鬼は君達の先輩さ。」




