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完璧な男

「謙遜やない。ほんまに運が良かっただけやって」


私の

「成功の秘訣は何なんですか?」

との問いに彼はそう答えた。


男の名前は横山六九よこやまろっく

たこ焼きのフランチャイズチェーン店たこ焼きロックCEOだ。

十代でパンクロックにハマり、ロックミュージシャンを目指すが、バンドメンバーの薬物騒動で引退。

実家でなんどか作ったことがあるというだけで、たこ焼き屋を始め、

日本全国に千店以上のチェーン店を作った男。

甘いマスクに細く筋肉質の肉体。

金にも女にもモテた男。

まさに完璧な男だ。


「しかし、飲食業界は厳しい業界じゃないですか。

とても運だけでここまで来れるとは思えません」

私は食い下がる。


三か月待って、ようやくこぎつけた取材。

“運が良かった”

だけで、紙面が埋まるはずもない。


「俺かて、一ヵ月前まではこんな事になるなんて、思ってもなかったんや」

横山は言った。


「一ヵ月前?

なにを言ってるんですか?

あなたは長くたこ焼き店のトップに君臨している」


横山の視線がそれる。

「いや。冗談や。忘れて……」

先ほどまでの語りとは異なり、

語尾が何かおかしい。


「一ヵ月の間に何があったんですか?」

私は横山の目を真剣に見る。


「そんな。見つめるなよ。恥ずかしいわ」

横山は目をそらす。


確実になにか隠している。


「わかりました。オフレコにしましょう」


「でもな。とうてい信じられへん話やと思うで」


「わかりました。じゃあ飲んだ際の、冗談として受け取ります」


「そうか。じゃあビールとたこ焼きを用意しよう。ほんまに酒の席の話やで。

録音はしてないよな」


私はレコーダーとスマホを目の前に出し、

録音していないことを見せる。


秘書がビールと焼きたてのたこ焼きを運んでくる。


(ぷしゅ)

横山はビールのプルタブを開ける。

私も開ける。


「乾杯」


(あふあふあふ)

横山はたこ焼きをほおばる。


「しかし、うちのたこ焼きは最高やな」

横山は笑う。


私はじっと横山を見る。


「まぁちょっと待ちや。心の準備がいんねん」


そう横山は言った。

横山の話は、

私の想像を裏切るものだった。


……


「ふわー。もう朝か……」

俺は時計を見る。

時刻は九時三十分。


「やば。あと三十分で開店やんか」

俺は急ぎ準備をする。

6畳一間の隅に置いてあるギターに小指をぶつける。


「痛っ。お前どこに目をつけてんねん」

俺はギターに文句を言う。


「ってここに置いたんは俺やわな」


俺は水道の蛇口をひねり、

コップに水を入れ、一気に飲み干す。

冷蔵庫の上に置いてあるドーナツを食べる。

そして歯を磨き、顔を洗い、服を着替える。

そしてチャリでアパートから五分の店に向かう。

十五分前に到着。

俺一人の店や。

遅刻はない。

でも遅刻はしたくない。

俺は仕込みを始める。


こんな生活をもう何年もしている。


バンドをやっていた時は、わりかしモテた。

夢を語るだけで、女はよってきた。

俺はモテるもんやと思っていた。


でもバンドをやめ、

たこ焼き屋になった途端、

モテなくなった。


たこ焼き屋の今の方が少しは金を持っているのに、

モテない。

絶望的にモテない。


十時三十分。

今日初めての客が来た。

「いらっしゃい。おぉ青ちゃん」

客は青ちゃん。

キャバ嬢だ。

ターコイズブルーのボディコンシャスなワンピースに、

ターコイズブルーのヒール。

髪にもエクステでターコイズブルーを入れている。


「六九おはよ。えっとね。八個入りソース、マヨ有、青のりなし、かつお節有」


「はいよ」

俺は、

すばやくたこ焼きを用意する。


「なんか眠たそうだな」


「うん。眠たいの。お客さんとホテル行って。さっきまでヤッテタ」


「おいおい。朝から何言ってんだ」


「きゃはははは。カラオケだよ。なに想像してんだ。このエロロック」

青ちゃんは笑う。


「うっせぇ。青のりいれるぞ。コラ」


「うそうそ。ゴメンゴメン。青のりは勘弁して。共食いになっちゃうよ」

青ちゃんは笑う。


「はいよ。四百五十円」


「じゃあ。ちょうどね」

青ちゃんは四百五十円を俺の手に置く。


「まいど。ありがとな」


……

十五時を過ぎ、

客が入ってきた。


常連のご近所のおばちゃんや。

紫のヒョウ柄のタイツに、

見た事のないゆるキャラのビッグTシャツ。

髪の毛は紫色で、眼鏡も薄紫色。

独特のいでたちや。


「えっとね。今日は、八個入りを四つ。ソース、マヨ有、青のり有、かつお節有」


「はいよ」

俺は準備を始める。


ラジオからニュースが聞こえる。

「金の高騰により、都市金山と言われるスマホ・携帯電話などの電子機器が注目を集めています」


「これねぇ。都市金山とか言う割に、ただで引き取ろうとするでしょ。あれあこぎやね」

おばちゃんは言った。


「えっそうなんや。金もらわれへんの。なんか回収した奴らが得するだけやな」


「ほんまや。だから私、ずっと置いてんねん。いつかスゴイ価値になるんちゃうかと思って」

おばちゃんは笑う。


「どこでもそうなん?」


「そんなん、しらんわ。でもな。古くなった携帯電話、無料で引き取りますよとか書いてあるやん」


「あぁあるわな」


「そういうことや」


「なるほどそういう事か。さすが賢いな。はいできたで。千八百円」


「はいこれな。おつりはいらんで」


「おっ気前ええな。ってちょうどやないかい。まぁ助かるけどな」

俺は笑った。


「はははは。ありがとう。それよりあんた。店の名前ロックやねんから。ラジオかけてる場合ちゃうで、初期パンクでもかけときや」

おばちゃんは笑った。


「ほーい」

俺は愛想笑いをした。


「続いて、ペンネーム、隣のおばちゃんさんから、クラッシュでロンドンコーリング」


ラジオから懐かしい曲が聞こえる。

俺の手が止まる。


俺はラジオに視線を動かす。

黒いラジオが微妙に振動しているように見える。


その振動に共鳴してか、胸の奥が熱くなる。


十代の頃の気持ちが流れ込んでくる。


薬物問題でしょっぴかれる仲間。

俺も関係者という事で事情を聞かれた。


そして……。


望んだわけでもないのに、

唐突にーーーー

未来は絶たれた。


もし「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、

ブックマークしていただけるととても励みになります。


本作はすべて完結済みで、安心して最後まで読めます。


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