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第六話 コミュ障、最終層を征く

 五層は本当に夜の岩山だった。ちょっと肌寒いが、借りてきたマントで問題ない程度だ。足場は悪いが、あきなんにおんぶしてもらえばふたりとも問題ない。


「空気が綺麗だなぁ。あ、月が二つある~~~!」


 のんびり空を見上げていた崇につられて、足元に気を付けていたあきなんも顔を上げる。


「ホントだ! すごいなぁ。いい景色」

「星も綺麗だ」

「君のほうが綺麗だよ……ぶっ」

「イケボやめい、ていうか自分で言っといて笑うなよ」

「いひひ」


 軽口を叩きながらあきなんは進む。途中狼や大きな鳥っぽい魔物をパァン! しながら数十分も登れば、少し開けた場所に出た。


「一旦水分補給しとくか」

「うん」


 崇も背中から降りて、ふたりの荷物から水とおやつを取り出す。あきなんの分も崇が荷物を背負っていた。それごとあきなんが背負うわけなので全然あきなんの負担は減らないが。


「夜の山って初めてだなぁ。なんかさ、おにぎりとカップ麺持ってきて食べたい感じする」


 休憩しつつ、ふたつの月ときらめく星を見ていると、崇はそんなことを考えてしまった。ソロは好きでもソロキャンは体力的に自信がなくてやったことはないが、こういうのもいいかもしれない。 


「いいねぇ。テントも持ってきちゃってさ」

「焚火もしよ!」

「浪漫~」


 ダンジョン内だということを忘れて、まったりしちゃうふたりである。


「ここの他のダンジョンもさ、いつか行ってみてもいいね。ナツミちゃんとならなんか大丈夫そうな気がする」

「そだね~。少し遠出して、九州とかどう? なんか評判いいよ」

「いいね。ついでに美味しいもの食べに行こう」

「ダンジョンがあるのは福岡と宮崎だったか。福岡ならラーメンとかもつ鍋かな~。宮崎はチキン南蛮?」

「最高じゃん。あ、宮崎のダンジョンはすごい神々しいって聞いたことあったなぁ、高千穂ダンジョン」

「ハシゴしてもいいね」

「ついでに四国もいっちゃおか」


 きゃっきゃと談笑しているうちに、ふたりは狼の魔物の群れに囲まれていた。


「あばばばばば」

「あばばばばば」


 とりあえずびっくりした仔猫の素早さで、崇はあきなんの背中に飛び乗る。安全地帯だ。


「囲まれるとちょっと危ないね!? にぃ、しぃ、ろ……十匹!」

「ね!? あ、槍! 槍使お! 振り回せばよさげじゃね!?」


 返してもらっていた槍を急いであきなんに渡す。


「ナツミちゃんの、俺が使用済みにした槍」

「いちいち意味深に言うなや」

「でも確かにこれがあれば……そぉい!」


 飛び掛かられる前に、あきなんは群れの一角に飛び掛かった。槍をバットのように振り抜く。


 パァン!


「いけた!!」


 すさまじいスピードとパワーの乗った槍は、一振りで攻撃範囲すべての狼を灰燼に帰した。パァン、は一回しか聞こえていないのにすごい効率である。さすがボスサウルス。


「や、槍は刺すだけじゃないんやで……」


 崇は若干ビビっているが、口だけは回る。


「ただ、槍の耐久値が心配!」

「が、がんばれ槍!!」


 振り落とされないように必死にしがみつく崇と対照的に、あきなんは軽やかな動きで敵を倒していく。あっという間に群れは全滅し、後には魔石とドロップ品が残った。レベルも上がる。


「短剣だ。二本落ちてる」

「いいね。ナツミちゃんの護身用に持っておきなよ。俺はベアクローあるし」

「うん。ふふ、かっけぇ~」


 狼の牙を模しているだろうそれを装備すると、『お転婆』が『中学生男子(文科系)』になった。武器と考えると低く思えるが、装備するだけで素の攻撃力が上がるというのは不思議なものである。


 すっかり休憩気分もなくなったので、ふたりは先へ進むことにした。





 二十分くらい登ったころだろうか。

 ふたりの目の前に、あからさまに怪しい洞窟が口を開いている。


「……っぽいな?」

「ぽいね?」


 あきらかに、ぽい。

 正しくダンジョンボスが居そうな、逆に居なければ詐欺みたいな洞窟だ。


「よし、行くか」

「うん! あ、降りる」


 少し狭いので、崇も背中から降りて歩く。洞窟内部は外より更にひんやりとしている。石や苔が青く光っていて、外よりむしろ明るい。


「綺麗だね……」


 光る壁の石に触れながら、あきなんは感触を確かめる。硬く、青く透き通っていて、驚くほど美しい。


「うん……宝石みたいだなぁ。持って帰れないかな」

「欠片落ちてたら持ってこ」

「うん」


 早速足元の小さなかけらをぽっけないないする崇。あきなんもちょっとひっかいたら剥ぎ取れそうな石を壁からもいだ。

 ふたりは無邪気に拾っているが、五層のこの石は装飾品として人気があり、また、五層まで辿り着ける人材も少ないため稀少であり、協会での買取価格も高い。


 ぽっけぱんぱんになったころ、通路は終わりを迎えた。

 唐突に開けた広場のような場所に出る。

 天井はなく、吹き抜けた場所だ。


「あー、お約束なら空からくるよね、なんか強いのが」

「だなぁ」


 ぼ~っとふたりして空を見上げていると、お約束が発動した。一瞬よぎる大きな影。そして。


「あばばばばば!?」

「あばばばばば!?」


 ふたりの前に降り立ったのは---お約束のその王道・ドラゴンであった。


「デカ!? かっけえ!? デカ!!」

「やべぇ! でけぇ! やべぇ!」


 崇もあきなんも語彙が死んだ。しかし本当に巨体である。

 見上げる高さは十メートルくらいありそうだ。翼を広げれば、横にもそれくらいある。

 真っ黒な鱗が青い光を反射して、かっこいいやら怖いやらである。


「……あのさ、ティラノって恐竜じゃん」

「うん」


 あきなんが苦し気に何か言いだした。


「字面は恐ろしい竜ではあるけどさ、これ、本物の竜とどっちが強いと思う……?」

「あ」


 なんだか分が悪い気がしてきた。


「で、でも素早さは新幹線以上だよ!? 力×速度は暴力だよ!?」

「だとしてもだよ!?」


 今まで本当に軽い気持ちで来すぎてしまった。バフとノリは危機管理能力にデバフをかけたとしか思えない(自業自得ともいう)。


「これ、やっぱりブレス吐くのかな……」

「!」


 特急フラグ建築士のスキルでも持っているかのような崇の一言と同時に、ドラゴンが空気を吸い込む動作。


「ナツミちゃん!!」


 あきなんが咄嗟に崇を胸に抱え込み、竜に背を向ける。刹那、轟音とともに高熱の炎がふたりに襲い掛かる。


「っ!!」

「あきなん!?」


 盾になってもらっているとはいえ、凄まじい熱を感じる。崇は熱と恐怖で目を開けない。もし、あきなんが酷い有様になっていたら……!


 やがて轟音は止み、熱も収まった。


「あき、なん……?」


 恐る恐る、目を開くと。


「あ、大丈夫!? 蒸し豆腐になってない!?」


 元気なあきなんの姿が!

 ただし、酷い有様にはなっていた。ジャージとレンタル装備とTシャツが燃えている。オサレな黒ボクサー一丁だ!


「うへぇ……? ダイアモンド強すぎひん……?」

「な!?」


 そういえば今まで一度も攻撃を喰らっていなかったため、防御力が如何ほどのものかふたりは実感していなかった。

 ダイアモンド(に毛が生えた程度)はドラゴンのブレスにも耐えちゃったのである!


「ブレスは防げた! ナツミちゃんは、えっと……あ! あの石の窪みんとこに隠れてて!」

「オケ!」


 ブレスが効かないならもう大抵の攻撃は効かないだろう。強気になるふたりである。早速あきなんはベアクローを構えると、ドラゴンに突っ込んだ。新幹線以上の速度で。パンイチで。


『~~~~!!!!!』


 ドラゴンの腹にベアクローの一撃が決まる。竜は苦し気に身を捩る。だが。


 モ゛ッ……


「パァンいかない!?」


 鱗に阻まれて、刺さらない。弾けもしない。


「っ、そうだ! あきなん!」


 崇は先ほど思いついたことを実行することにした。


「支援!! 効けぇ!!」


 最初にかけたバフがその後装備したものに反映されていないのであれば。

 装備した後に、かけなおせば……?

 それも、最初より効果を増したバフが。

 装備と、あきなんのスキルに乗っかれば……?


「ぅ、うおおおおおお!!?」


 あきなんの全身に力がみなぎる。


「重ね掛け、効いた!? ステは!?」

「すごい! 攻撃力『TNT爆弾1トン』!! 素早さ『戦闘機』!!」

「よくわかんない! けどすごいのはわかる! いっけええええええ!!!!」

「うおおおおおおおおお!!!!!!」


 ノリにノったあきなんが目にもとまらぬ速さで駆ける。崇にはもう速すぎて見えないが、ベアクローを振りかざし、狙い、もう一度腹に叩き込む。


 これまでで一番張りのある、


 パァン!!!!


 が響き渡った。

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