第五話 コミュ障、ちょっと反省する
「四層はなにがドロップするかな~」
「ナツミちゃん用の防具とかほしいところだよね」
「そだねぇ」
おんぶスタイルで四層に入ると、そこは今度こそ厳しい環境であった。
砂漠である。
「あ、これ駄目だ」
「ナツミちゃんの柔肌が耐えられないな……」
ダイアモンドは平気なようだが、木綿豆腐には厳しい。
「撤退かな……」
「うん……あ、待って!? 入口消えてる!?」
「ぅえ!? あ、そういえばそんな話聞いた気がする……!」
振り返ると、今そこにあったはずの入口がない。
ふたりは予習不足だが、エリアボスが出てくるエリアからは、入口が一方通行なのだ。戻ろうと思えば、その階層にある出口を探さねばならない。そういった意味でも三層からが上級者向けなのだ。
「い、急いで探そう! ナツミちゃんが湯豆腐になる前に!」
「ペットボトルの水、五百があと二本あるな……足りるかな……」
「俺塩タブレット持ってきてるよ!」
「えらい!」
のんびり一層散策くらいの装備しかないのが仇となった。当たり前である。当然だが急にピンチに陥ったふたり(というか崇)は、せめてもの日よけに頭からジャージを被って砂漠を進む(進むのはあきなんである)。途中でデカいトカゲのような魔物やサソリのような魔物が出るが、パァン! で問題ない。
「スニーカーの中砂が入る~~~!」
「がんばってー!! 俺のためにー!!」
「ナツミちゃんのためにがんばるわー!!」
しばらく進むと、大きな岩の陰になるところを見つけた。砂に足を取られながら走ると、先客がいた。
「あれ? え!? 初心者セット!?」
上級者らしいパーティーだ。五人組である。
「あ、ども、お邪魔します~」
「……ども」
崇の人見知りが発揮されているが、ここはやっと見つけた休憩スポットなので逃げるわけにはいかない。仕方がない。
「え、あの……ふたり? あ、武器は一応ベアクローなんだ……」
「ふたりです! ベアクローです! あ、僕秋名と申します。こっちは夏海くん。皆さんはダンジョン潜って長いんですか? 装備もかっこいいなあ!」
イケメンがぐいぐい行く。リーダーらしい男性は若干ふたりの装備に引いているが、後ろにいるメンバーの内ふたりの女性に、あきなんのイケメンが好印象のようだ。
「うちら、今日が三回目の四層でぇ……」
「装備、オーダーメイドなんですよぉ」
崇と同い年くらいのギャルっぽい女性と、ちょっと地味目な女性がもじもじと教えてくれる。崇はただもじもじしている。
「あの。おふたりはそんな装備で大丈夫なの……?」
問題ない、と言えればどれだけいいか。問題大有りだった。
「ヤバいですねー。僕はバフのおかげで大丈夫なんですけど、ツレが」
「バフでどうこうなる環境じゃないと思うんだけど……」
「なるんですよこれが。うちのツレのバフが優秀でぇ」
「(あきなん、のろけなくていい)」
崇が小声で突っ込むがあきなんは気にしない。
「ていうか、初心者レンタルセットじゃん。ナメてんの?」
ちょっと柄の悪い男が睨みつけてくる。イケメンは敵も作る。ていうか舐めてるのは実際そうなので何も言えない。崇は更に縮こまって背中に隠れる。怖い。
「ちょっと勉強不足でした……」
「は! マジモンの初心者かよ。ダンジョンナメんなよ」
「ちょっと! そんな言い方ないでしょ!」
「いや待って、マジモンの初心者はここまで来られないよ!?」
ヤンキー(仮称)とギャル(仮称)がちょっとけんか腰になるが、真面目そうなリーダーがさっきから驚いている。
「ええと、僕はリーダーの相田。君たち、どうやってここまで?」
「徒歩できました!」
「んん、そういう意味じゃなくて……あの熊に勝ったんだよね?」
「はい。びっくりして倒すのに二発かかっちゃいました」
「二発!?」
相田氏の混乱は止まらないが、もしかしてすごいスキル持ちなのかも、と自分を納得させる。バフが優秀だと言っていたし。
「四層は初めてみたいだね?」
「はい! 俺たち今日が初ダンジョンで」
「初!?」
え、もしかして恵まれすぎたスキルゆえに調子にのってここまで来ちゃった? と正解を叩き出しながら、相田は改めてふたりの装備を確認する。
……確かに初ダンジョンっぽい。自分も最初はジャージにスニーカーにレンタルセットだったなぁ、と思い出しちゃうのである。
「初めて!?」
奥に座っていた別の若い男が身を乗り出してきた。マッチョである。
「嘘だろ……」
「いや、ホントもホント。本当は一層をちょっと見て帰るつもりだったから予習してきてなくて、この有様でして。さすがにちょっと戻ろうかなって」
「え。……言いにくいんだけど、戻り口、結構遠いよ?」
「え」
「ボスのが近いくらい。僕らはまだ挑めない強敵だけど……」
「倒そう、あきなん」
やっと崇がちゃんと喋った。目が据わっている。
「え、でも」
「五層が快適空間かもしれない」
「冷静になろう、ナツミちゃん。五層に行って快適とも限らないよ?」
「俺は冷静だ。いいかあきなん。俺聞いたことがある。ダンジョン最深層のボスを倒すと、一層にワープできるって」
「え。マジで?」
「あ、それは本当だよ」
相田が保証してくれた。だが、同時に困惑もしている。
「倒せないのが問題なんだけどね……かなりの上級者パーティーが何度か挑戦して、一回しかまだ踏破されてないんだよ……」
「行こう、あきなん!」
「わかった!」
「えぇ……」
相田は困惑しきりだ。
「おい、待てよ」
そこにヤンキー(仮称)が割って入る。
「そこまで行けんのかよ、その装備で」
「……気合?」
また声が小さくなっちゃう崇であるが、ヤンキー(仮称)は鼻で笑う。
「無理だろ。……これ持ってけよ」
そう言うと、荷物の中からマントを一枚、出してくれた。
「おんぶならこれ一枚でいいだろ」
「あ、ありがとうございます!!」
ツンデレなヤンキー(仮称)である。
「ちなみに五層は夜の岩山、らしいぜ。……それ、無事に帰ったら、協会の買い取りカウンターに預けててくれればいいから」
「ホントにありがとうございます! あ、そうだ。支援!」
ありがたさで結構普通に会話ができた崇は、その勢いで五人組にバフをかける。
「お……すげえじゃん」
「ははぁ、これは……ありがとうございます、五パーセントくらい色々上昇しました。自動回復も素晴らしいですね」
ツンデレ(断定)と相田が効果を確かめ、他の三人も嬉しそうに頷いている。
「効果はダンジョン出るまでなんで……あの、それじゃ俺達はこの辺で……」
急にまたもじもししだす崇は、素早くあきなんの背中に飛び乗った。
「なるほど、びっくりした仔猫だぁ。あの、皆さんありがとうございました!」
ほっこりしたあきなんが挨拶して、その場を離れた。ボスの場所は、あきなんが相田から聞いてくれていた。
「行こうぜあきなん! 夜の岩山はきっと涼しい!」
「オケ!」
すっかり元気になった崇を背に、あきなんはぐんぐん進む。パァン! しながらぐんぐん進む。
途中ちょっとレベルが上がりつつ、ふたりはエリアボスのもとに辿り着いた。
「そぉい!!」
パァン!
「可哀想なボス!!」
「南無三!」
最早背中から崇を降ろすまでもなく、走ってきた勢いのまま狙いを付けて一撃である。
ちなみに巨大なサソリとヘビが合体したような魔物だったが、あっという間だったのでふたりともよく見てない。
レベルも上がったので確認しつつ、ドロップ品も拾う。
「ステは変化なしか……あ、でもスキルの『少し上昇』が『やや上昇』になった!」
「お! さっきあの人たちで五パーだったよね? 十パーくらいいったかな?」
「だといいな! お! 魔石でかい! あとこれはなんだ!?」
「ナツミちゃんの防具だといいな!」
「えへへ! ……マジで防具だ! でもなんか……ビキニアーマーみたいな……」
「んんふふふふふ!! ジャージの上から着ればいいよ! いやむしろ下か!」
「どっちにしてもなんかアレだなぁ……」
とりあえずないよりはあったほうがいい。
背中から降りて、崇はジャージの下に着ていた初心者セット装備をごそごそと脱ぐと、中に着ていたTシャツとボクサーパンツの上にビキニアーマーを装備する。……非常になんか。アレだ。
「変態みたいだな!」
「爽やかな顔して言うなよ!」
あきなんに背を向けてまた初心者セットとジャージを着る。とりあえずこれで安心だろう。なんか効果とかないのかな、と思ってステータスを確認すると、防御が『高野豆腐』になっている。
「お、装備分のステ、反映されてる!! 高野豆腐! 強い!」
少なくとも豆腐にしてはかなり強いはずだ。もきゅもきゅするし、箸で切るのもちょっと手応えがある。分かりやすいアップ、だとふたりは思った。
「よかった! ……結構ちゃんと上がるんだね……じゃあ俺の武器から考えると、やっぱりナツミちゃんのバフ、かけた後の装備分には反映されてないのかなこれ」
「ふむ……」
「あ。そういえばナツミちゃん、レンタル装備のうえでたおやかだったの……?」
「言うなし」
ふと、そこで崇は気づいた。
「待てよ? ということは……」
だがその呟きは、突如として光る扉のようなものが現れたことで中断された。
「お、五層への入り口、出てきた!」
「っしゃ!」
とりあえずは五層に進むことにした。気になったことは後で試せばいい。




