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第四話 コミュ障、木綿豆腐になる

 三層は少し勝手が違った。環境は紅葉の山。冬山とかを警戒したが、快適で美しい光景に逆に驚いてしまう。


「上級者向けって聞いてたけど、普通にやさしい環境なんだ……」

「な……一層までしかロクに予習してなかったから予想外だわ……ていうか、いい感じにハイキングみたいだなぁ」

「ね~? 癒されるわぁ」


 その間も、やってきた鹿のような魔物をパァン! である。

 鹿やらリスやらちょっとかわいい魔物が多いが、殺戮に慣れきってしまったふたりである。やるのはあきなんだが。


「ていうか、ナツミちゃんはバフないんでしょ? 歩きっぱなしでキツくない?」

「言われてみれば疲れてきた……かも? アドレナリン出ててあんまり自覚なかった」


 ここまで約三時間。足場の悪いところも進んできた。自覚すると急に足が重くなった気もする。


「そろそろおんぶしよっか」


 あきなんがしゃがんで背中に乗るようジェスチャーする。イケメンである。


「あー、なんか恥ずかしいけど、お願いしよっかな。っと」


 せっかくなので、その広い背中を借りることにした。崇はもやしなのでそんなに重くない。遠慮なく負ぶさった。


「……当ててんのよ?」

「なにをだよ」

「ナニをだよ」

「やめろ」


 恐ろしい冗談を言うあきなんだが、しっかり片方の手で崇の尻の下辺りを支えて、もう片方で流れるようにパァン! している。なにかがバグっているような強さだ。普通に出てきた猪型の魔物も例に漏れない。こいつともう一種がここを上級者向けたらしめているのだが。


「そういえばここからだっけ? なんかエリアボスみたいなのが出るとこ」

「なんか聞いたことあるな……」


 本当に一層にしか行く予定がなかったので、ふたりともそれ以外の予習が曖昧である。ダンジョン発生時期はなにか判明するたびに報道が溢れていたので、いろいろニュースを聞きかじっていたが、逆に言えばそれくらいしか知識がない。

 普通に考えれば相当舐め腐った危険な行為であるが、バフと被バフの嚙み合わせが強すぎて、ふたりとも思考が麻痺している。


「秋の山でエリアボスって、熊でも出るのかな」


 崇があきなんの背中で快適に紅葉を楽しみながら呟く。 


「おいおいフラグみたいじゃん」

「でも熊とティラノならティラノが強かろう?」

「せやな。ティラノ見たことないけどな」

「野生の熊も見たことないわ」


 あはは、とふたりが笑ったところで、見事にフラグが回収された。


 熊である。


 体長三メートルはある、熊の魔物である。


「あばばばばば」

「あばばばばば」


 とりあえずビビる。でかいものは怖い。当然の理。


「お、降りるね! さすがに!」

「う、うん!」


 片手を塞いで戦える相手じゃない気もする。崇は急いであきなんの背から降りると、素早く後ずさった。あまり離れすぎると別の魔物が出てきたときにまずいので、安全圏でできる限り後ろである。


「ヒットアンドウェイで様子を見よう。ダメそうなら逃げよう」

「オケ……うわぁ怖ぇ!」

「がんばえー!!」


 崇の応援と同時に、熊が動いた。


「わぁ!?」


 パァン!


「……パァン?」

「やったか……いや、まだだ!」

「わわわわグロい~!!」


 咄嗟に突き出した槍は、熊の右肩あたりを粉砕した。確かに弾け飛んだ。だが、熊は一旦飛びずさっただけで、まだ生きている。

 非常にまずい。手負いの熊だ。


「きゅ、急所に当たれば勝てるってはっきりわかんだね!?」

「わかったけどね!? 頭とか心臓とか、結構当てるの難しそうだよ!?」

「命中率白い死神でしょ!? いけるいける!」

「あ、そっか。白い死神だった。ちゃんと狙えばいいんだ」


 白い死神に対する圧倒的信頼感により、あきなんは急に冷静になった。腰を落として綺麗に構える。今までで一番ちゃんと構えている。構えて、狙う。絵になる男だ。


「ここまで雑に勝てちゃってたけど、こいつはちゃんとやる」

「がんばえ!!」


 じり、と足を運び、


「そいやぁ!!」


 と踏み込む。槍の穂先は、驚くほど綺麗に熊の顔面に吸い込まれた。

 そして安定の、


 パァン! 


 である。


「うおおおおおお」

「あきなんすげえええええ」


 歓喜と同時に、またふたりのレベルが上がった。熊のいた場所には大き目の魔石と、爪の付いた手甲が落ちている。


「きたきた、武器だよ!」

「え、ベアクロー? これ結構接近勝負じゃない? 俺大丈夫?」

「素早さ新幹線の防御ダイアモンドでしょ。いけるいける」

「あ、そっか。そうだった」


 既に粘土を握ったような手指の跡が付いている槍を崇に返して、あきなんは新たな武器を装備した。確実に初心者用レンタル武器より強そうだ。


「あ、ステ確認しておこ」

「うんうん」


 ふたりはそれぞれ無言でステータスを確認し始める。孤独な作業だ。

 結果として、熊の前は十二だったレベルが、ふたりとも十五に至っていた。熊殺しがレベル的にはジャイアントキリングだったので、一気に上がったようだ。

 とはいえ、通常であればレベル十五はやっと中級といえるかどうかといったところだ。決してこの熊を倒していいレベルではない。

 

「俺、攻撃力『ティラノサウルスのボス』になった」

「今までは平のサウルスだったんかい」

「んっふ!」

「あ、俺も上がったよ! ……『お転婆』に……なった……」

「んっふふふふふ」

「俺そんなにか弱い!? なんで!?」

「ちなみにだけど、握力いくつ?」

「えーと、高三の体力測定で二十二だったよ。利き手」

「え……トゥンクしちゃう」

「やめーい」

「守りたい、このバッファー」

「そりゃどうも」

「命中率は性質上、これ以上上がらないっぽいな。防御はダイアモンドに毛が生えてるわ」

「あきなんのステ、毛が好きだな」

「不思議だな。フェチじゃないんだけど。素早さは……あ、『新幹線以上旅客機未満』になってる!」

「速ぇ!! 俺の防御は……『木綿豆腐』だ! やった!」

「え。喜ぶとこなの」

「さっきまで『絹ごし豆腐』だったんだよ!」

「あー、うん、オメデトー……」

「素早さも上がった! 『びっくりした仔猫』だ!」

「かわいい!」

「かわいい!」


 やんややんやと互いのステータスを確認していると、熊がいた辺りの後ろに四層への入り口が開いた。なるほど、エリアボスを倒すと入り口が現れる仕組みらしい。

 何も考えずにふたりはごく自然に足を踏み入れてしまうのだった。

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