第三話 コミュ障、ダンジョンをやっと進む~はじめてのパァン!~
このダンジョンは、日本にいくつかある内で、ふたりの生活圏内にあるものだ。初心者向けの難易度の層(ダンジョンはそのほとんどが階層構造になっている)があるのも都合が良かった。五層までしかなく、一層は初心者に好まれる。ただ、二層は中級者、三層以上になると上級者でなければかなり危険だ。当然、ふたりは一層までしか行く気はない。
「えーと、一層で出てくる魔物はコボルト、ゴブリン、スライム……だったな」
「コボルトかぁ……俺犬好きだからヤだなぁ。コボルトだけナツミちゃん殺ってくんない?」
「『たおやか』に無茶をいう」
ふたりはまだ気楽に進んでいく。ちなみに、魔物の名前は「それっぽい空想上の魔物を当てはめたもの」であって、本当は違うのかもしれない。本人(?)たちは自分がコボルトとかゴブリンとか思ってもいないだろう。
とはいっても、そういう情報があるだけでもゲーマーには大助かりだ。大体の特徴が分かればできることも増えるだろう。
「っ! ナツミちゃんっ」
不意にあきなんが立ち止まり、小声で崇を呼ぶ。顎で視線を誘導されてみれば、そこには小さな人影……ゴブリン(仮称)だ。
「わ。想像より顔怖い……」
「ね? 肌も緑っていうかあれ斑のカビみたいな……なんかめっちゃ細かい牙生えてるし……」
「いやだなぁ…………しかもあれ、お約束と違って男女平等殺戮してくるんだろ?」
「らしい……でも初心者セットの槍で攻撃範囲外から何度も刺せば、全然倒せるってさ」
あきなんは得物を握り直した。初心者セットレンタル武器・槍である。
「じゃあなんか……白い新幹線の死神ティラノを信じて」
「うん、いってらっしゃい」
あきなんが一歩踏み込む……と。
「!?!?!?」
音速に近い踏み込みで、ろくに構えてないままの槍がゴブリンの頭部を粉砕した。
「はぇ!? え!? 何今の!?」
崇は驚くが、あきなん本人のほうがもっと驚いた顔をしている。
「あばばばばば」
「あばばばばば」
意味もなくふたりでうろうろしちゃったりもする。わけが分からなかった。
「えぐい、やばい、これはまずい」
「ティラノこええ! 新幹線こええ!!」
「パァン! いった! パァン! って!」
ゴブリンの死骸はさらさらと砂のようなものになって消える。後には小さな光る石が残された。予習によると、魔石、というものらしい。協会に納めると現金と交換してもらえるとか、スキルによってはコレを使っていろんなことができたりとかするらしい。ふたりには現金しか関係ないが。
「これちょっと……俺達もっと先まで行けるんちゃう……?」
「行けちゃうよな……? 俺を守ってくれさえすれば」
「うーん……ナツミちゃんをおんぶすれば最強じゃないか?」
「移動も楽そうだけど重くない?」
「我ティラノぞ?」
「それもそっか」
まあとりあえず序盤はそのまま進むことにした。敵が強くなれば合体して倒すのがセオリーというものである(ただし合体とはおんぶを指す)。
歩みは非常に順調だった。順調すぎた。何が来ても一発でパァン! である。周りの粘液を削ぎきって、コアを露出させてから倒さねばならないはずの、スライムすらも。
あとコボルトは予想以上にグロい見た目だったので、あきなんの精神的にも問題なかった。犬というよりゾンビ犬だった。
「お……?」
「おっ……」
途中、そのゾンビ犬をパァン! した直後、ふたりは同時に動きを止めた。なにかが自分の中で変わったのに気付いた。
「これが、あれかな? レベルアップ的な」
「な……? ナツミちゃん、確認しよ」
「よしゃ」
脳内に浮かび上がるステータス等の画面。レベル表示らしいものが追加されているのに気付いた。
「レベルだよなこれ……『熟練度1』って出てる」
「俺も。ゼロスタートだったのか。てか経験値がパーティー配分式でよかった」
「ね。……あ! 攻撃力が『ティラノサウルスに産毛(剛毛)が生えた程度』になってる!」
「産毛」
「あとは変わらんな。ナツミちゃんは?」
「『たおやか』のままだけど……ん? スキルがちょっと違う?」
「え!? スキルって成長するの!?」
「えっと、効果がちょっと上がったっぽい。『僅かに上昇させ』が『少し上昇させ』になった」
「おお……!」
「ん、てことは、あきなんの攻撃力アップと、バフを合わせて剛毛の産毛が生えたんかな?」
「うーん、上昇分も数百パーセント上がるとしたら、剛毛の産毛程度じゃない気がするんだよなあ」
「バフのっけた分にステ上昇分が上乗せかね?」
「剛毛の産毛だもんなぁ……判断が難しいな」
剛毛の産毛という語句を一生分口にしながら歩いていると、あっという間に二層への入り口である。
ここまで一時間もかかっていない。通常の初級者レベルであれば、一層から二層入り口まで、道に迷わなくても六時間はかかるし、そもそも途中で引き返すことが多い。中級者でも休憩含め四時間はかかる。それくらい戦闘に苦労するのであるが。
また、崇のバフの内、体力自然回復効果が地味に優秀で、あきなんの疲労はほぼない。むしろその他バフ効果もあっていつもより調子が良い。崇も普通に散歩している程度で済んでいる。
「なんかさー……二層に潜るには一層で一ヶ月くらい訓練しましょうってもののサイトには書いてあったけどさー……あきなん、訓練にならないよね?」
「うん。俺達なら二層行けると思う」
「じゃあ……行っちゃう?」
「行っちゃおうぜ!」
そうして初級者どころか初心者二名は、初挑戦から一時間足らずで二層に至るのであった。
☆
二層はジャングルのような環境で、魔物もヘビや猛獣系、植物系など多彩になる。
だが、特にやることはかわらなかった。
パァン! である。
「えっへへへ」
「んっふふふ」
もう可笑しくなってきちゃっているふたりである。レベルもなんだかよく上がる。多分敵はそれだけ強くなっているのだ。多分。
しかし二層にきて数度目のパァン! の後、あきなんの動きが止まった。
「え、どうした!? だいじょぶ!?」
「あ、いや、コレ……」
ティラノサウルスに剛毛の産毛、から、今はティラノサウルスにタワシ並の毛、にまで育った攻撃力に、初心者セットの槍が耐えきれなかった。握りしめた部分が握りしめた形で千切れてしまっている。
「あー……じゃあ俺の使ってよ。俺の未使用の槍」
「言い方がなんかやらしい」
「んん! やめろって!」
きゃっきゃと笑いながら武器を渡す。その際、崇はふと思い出した。
「武器をドロップする敵、確か三層にいた」
「お。……狙うか?」
「狙おう。ていうか二層も敵じゃないでしょ?」
「せやな」
ふたりはさくさく進むと、もう何も考えずに三層への階段を探し出し、降りた。




