表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編(ざまぁとかコメディとかテンプレ外しとか)

愛で国を救えと言われたので、救いました~苦情は一切受け付けません!~

作者: 渕澤もふこ

※特殊性癖あり(15歳以上推奨)


よいこはよんだらだめだよ!



(うふふ、ようやくだわ)


 少女は炎天下の中、白い日傘と涼しげなフリルのついた青いワンピースで行列の先頭に並んでいた。

 行列といっても一列や二列ではなく、彼女がいるのは「先頭集団」の中とも言える。行列は最寄り駅付近まで続いており、付近の気温は人々の熱気で一割以上は上がっているだろう。

 暑気あたりを起こしそうな熱気の中で、少女の姿は清涼感をもたらす水の妖精にも見えた。

 バイト代をやりくりして手に入れたこの日のための戦闘服は、彼女の持つ清楚ではかなげな雰囲気を損なうどころかより強めている。

 実際には、彼女の心の中は周囲の者たちと同様にやる気に満ち溢れ、情熱の炎が燃え盛っていたのだが、全くその様には見えない。

 だが、この場にいる者は周囲の人々は、本能的に気付いていた。彼女も自分たちの同士であり、仲間であり、そしてライバルでもあると。


(大丈夫、シミュレーションはばっちりよ!!)


 握りしめた宝の地図には、びっしりとペンで情報が追加され、予習は完璧である。


(もうすぐ、もうすぐ手に入る。あと少しで私の願いが叶うの!!私の野望が達成されるわ!!)


『ただ今より、――開始致します』


 スピーカーから入場開始の号令が掛かり、少女は笑顔で会場へ一歩踏み出した、はずだった。




「お待ちしておりました聖女様」

「は?え、何ここ」


 会場入り口とは明らかに違う広々としたスペースに、夏であるのに鎧やドレスを着た人々がひしめき合い、少女を取り囲んでいる。

 少女は慌てて手に持っていた会場案内図を広げて現在位置を確認する。


「やだ!!私、入り口を間違えてコスプレ会場の方に来ちゃったの!?早くホールに向かわないと!!」


 少女は目の前にいる中世風の服装をした人々を見渡して叫ぶ。


「すみません!東1ホールに行きたいんですが、どう行けばいいですか!?」


 半泣きになりながら周囲の人々を見上げる少女の姿は可憐で、その場にいる男たちの庇護欲を刺激した。


「聖女様、落ち着いてください」


 一人の若い男が少女の前に進み出る。彫りの深い顔立ちは日本人離れしているので、外国からき来たコスプレイヤーだろうかと少女は考える。

 夏であるのに長袖の軍服のような衣装を身に纏っており、今でなかったら少女は「眼福だー」とはしゃいでいただろうが、あいにく今はそれどころではなかった。


「えっと、これってそういうオープニングイベントですか?皆さん、何かのゲームの合わせとかですか?私の服もしかしてその聖女の服と似てるんですか!?ごめんなさい、これはコスプレじゃないんです!!私はあなたたちの聖女様ではありません!!」


 少女の着ているワンピースは、フリルは多少控えめだがリボンもついたロリータファッション寄りで、普段着に着るには少しためらうような物だった。

 今の時代は様々なソシャゲがあり、ピックアップ等でキャラの衣装も変わる。そのため少女が知らないだけで、知らず知らずのうちにゲームキャラに見た目が近付いてしまったのではないか。少女はそう結論づけた。


「いいえ、あなた様は確かに我々が召喚した聖女様でございます。この国の危機に際し、神が遣わした愛の使徒様です」

「いえ、ですから、違うってば、アイムノットセイジョ、オーケー?」


 日本語は上手いが、やはり外国人だから話が通じないのだろうかと、男に若干いらつきながら少女は否定を繰り返す。


「愛が不足しているこの国を、あなた様の愛でお救いください」


 男は少女を見つめ、真摯に願う。その姿は、ゲームのオープニングアニメの実写としか思えない。

 周囲を見渡して目に入るのは、中世風の衣装を身に纏った集団と石造りの広間であり、ずっとシミュレーションしてきた展示場には見えなかった。


「……スタッフさんも、他の人もいない」


 さっきまで入場待機列を整理していた人も、自分の横で並んでいた生首Tシャツを着た人も、タエは俺の嫁と書いた鞄を持った後ろにいた人も、……夏服を着ている人は自分以外誰もいない。

 まるで背景処理を失敗した漫画のようだなと少女は思う。デジタル処理をした漫画によくあるコピペや素材の貼り付けミスのようではないか、と。


(そういえば、あのアプリで配信されてたネット漫画の食事シーン、中世ヨーロッパっぽい設定なのにハワイアンなTボーンステーキばっかだったな~。使える素材が少ないのかな~)


 などと余計なことまで考えてしまった。そして、冷静になった頭で男の言っていたことを反芻して……膝から崩れ落ちた。


「……嘘よ、誰か冗談だと言ってよ……」


 少女の頬を伝う涙に、男たちは目を奪われる。女たちは遠巻きに見ながら、少女の品定めをする。時折、嫉妬を含んだ鋭い視線が投げられるが、男たちがそれに気付く様子はなかった。


「申し訳ありませんが、あなた様は二度と元の世界には帰れません。どうか、私の妻となり、この世界で愛を育み、この国を愛で満たしてください」


 軍服の男が少女の前に跪き、その小さな手をとった。そして、少女の手に握りしめられた紙を見つけると、その手の中から奪い捨てようとする。


「御手が汚れてしまいますので、」

「やめて、返して!!!それは大事なものなの!!」

「殿下に何をする!離れろ!」

「触らないで!」

「何だと!」

「やめろ、お前たち!」


 軍服を着た男を庇うように、護衛と思われる筋骨粒々な男たちが少女の前に立ち塞がった。その様子から見るに、最初に話掛けて来た男は結構身分が高いようだが、今の少女にとってはどうでもよかった。

 そんなことよりも、一生懸命に作ったサークル配置図と買い物メモの方がよほど重要だった。だが、男の手から取り返した紙は、勢いよく引っぱったせいで無惨にも破れてしまっていた。


「もうしわけ」

「元の世界に帰してよ!!

こんなこと許せない!!私が何をしたっていうの。私、今日18歳になったばかりなのよ!!ひどい!!18歳になるのをずっと楽しみにしていたのに!何でよ!!どうしてよ!!」

「神が召喚を18歳以上と限定しておりましたので、満年齢で本日となりました」

「それなら、明日!ううん、せめて今日の夕方まで待ってくれていたらよかったのよ!!どうして、どうして今日だったのよ!!」

「出生時間です。正確に18歳以上になった瞬間にお呼びいたしました」


(西洋占星術の入力画面かよ!)


 悪態にもならない感想を心の中で呟きながら少女は男を睨み付ける。男は少女の様子に戸惑ってはいるようだが、同じ要求をこちらに突き付けているだけで罪悪感を感じている様子もない。

 先ほどから申し訳ないと言いながらも、最終的にはこちらが自分の要求を飲むと思っているであろう傲慢さに腹が立って仕方がない。


(周りにいる人たちも、誰もこの男を止めないなんて……組織的で計画的な犯行よ)


 異世界召喚などフィクションでしか存在しない。だが、そのフィクションに慣れきっている日本人の少女は混乱することもなく、静かに怒りを燃やしていた。

 結局は、こちらの都合を無視した拉致以外の何物でもないのだ。


(異世界の神か何か知らないけど、絶対に許さないわ!大体、今日は私だって神に会える予定だったのよ!!新刊を手に入れて、お手紙と差し入れ渡して、一言でもお話できたらって気合い入れておしゃれして来たのに!!!)


「初参加だったのよ!!夏コミ!!

私の本をどうしてくれるの!!!!!ずっとバイトして貯めてたお金持って、正々堂々と成人向けのブースを回るのが夢だったのよ!!!元の世界に戻してよ!!!支部でずっとファンだった神絵師さんの復刻イラスト集は今日しか手に入らないのに!!少ししか刷らないし通販しないって聞いたから、開場してすぐに並んでってできるように頑張ったのに、もう間に合わない!!間に合わないじゃない!!!

私のドマイナーな性癖に合致する作家さんが何人いると思ってんのよ!!!国を愛で満たせですって!?あんたたちは愛で満たされていた会場から私を拉致してきたのよ!!世界を変えるサブカルが生まれる日本の、至高の、嗜好の祭典である夏コミの男性向けブースがひしめく初日!ようやく今日誕生日を迎えて、思う存分成人向けの作品を堪能できると思って、その軍資金のために貴重な青春をすべてバイトに捧げたのに、この仕打ち!!

私の好みなんて無視してるじゃない!許せない!あなたと結婚なんてしない!!ふざけないで!!

あなたたちの神が言う愛など認めない!!

私の性癖を満たせない愛など認めないわ!!!!!」


 うわああああああああああんと顔を手で覆いながら大声で泣く可憐な少女から発せられた呪いの言葉を、正確に理解できる者は、この場に存在しなかった。


「わ、私が好みでないようでしたら、他の者をお選びください。愛人を迎えていただいても構いません。できるだけ、ご希望に沿えるよう努力いたします」


 努力するだけだろう、と安易に想像がつく。ドマイナー界隈に棲息していた彼女には、男の言葉はメジャー大手リア充系からの発言としか思えない。

 油断すれば、完全に裏切られる展開だ。ありがちな政治家の答弁と同じで、その場凌ぎでしかないだろうと少女は思う。


(愛人を迎える?愛を育むとか言っておきながら、結局は政略結婚じゃないの!)


 愛は強制されるものではない。愛とは、自然に溢れでるものであり、萌えるものなのだ。前提が全く違う。解釈違いにも程がある。


(この国の神がなぜ私を選んだのかはわからない。だけど、あえて「私」を選んだなら、私の求める愛とは解釈違いよ!)


 少女は涙をぬぐい、ぐっと拳を握りしめ、立ち上がった。少女の身体からは真っ白いオーラが立ちのぼり、その姿の神々しさに周囲は圧倒される。


「BLとGLとSMと緊縛と触手」

「はい?」

「BLは下剋上、GLは疑似姉妹、NLは女王様と下僕、もしくは嫌がる中年男とドS幼女のプラトニック、基本は年下攻かつ固定CP」

「あの、聖女さ」

「私、潔癖不拆不逆左右固定一攻一受神聖婚姻一穴一棒主義者なので、政略結婚や浮気やNTRは認めないわ」

「!?」


 呪文のように紡がれ続ける嗜好と性癖とともに、少女の身体から立ちのぼった光は、今いる広間だけではなく、国中を照らした。眩しい光に、広間にいた人々は知らず知らずのうちに少女の前に跪いていた。


「愛のない婚姻は認めない……この国に愛が足りなかったのは自業自得。愛を育める環境が整っていないもの。あなたたちのような国の上層部が、愛を踏みにじってきたから、こんな国になったのよ」

「……そんな、ことは」

「誰が口をきいていいと言ったの?弁えなさい、このーーが」

「ぅがっ!!」

「殿下!!」「お前!女のくせに生意気な!」

「うるさい」

「「!!」」


 少女は立っているだけで、男たちには一切触れていない。だが、強い力で後頭部を押さえつけられ、さらに床に額を擦り付けられた。まるで、後頭部を靴で踏みにじられているように。

 少女は自身から溢れ出てくる力に、少し首を傾げる。


(おかしいわ、無駄に万能感があるんだけど。今なら、なんでもできる気がする)


「ちょっと、この世界の神。顔貸しなさい!!」

「はい!ただいま!!!」


 試しに少女が神を呼んだらすぐに出てきた。土下座していた。


(ナイスミドルなイケメンに見えるけど、なんですごい泣いてんの?)


「あんたの力は私のものってことでいい?」

「もちろんです!!!ありがとうございます!」

「何であんたが泣いてんのよ、泣きたいのはこっちよ!」

「来てくださってありがとうございます!!!」

「元の世界に帰し「嫌です!」

「即答するな」

「お願いします!私と一緒に、この世界を愛で溢れる世界にしてください!!」

「嫌よ。私は夏コミの新刊を狩りにいくの」

「愛を汚す行為をした者や、あなたの嗜好にそぐわないと判断される者がいた場合は、神罰として獣と触手に可愛がってもらいます!」

「いい趣味してるじゃない!」

「特殊性癖どんとこいです!」

「……じゃあちょっと聖女やっちゃおっかなぁ」

「ありがとうございます!!!!!」


 頭を垂れる人々の姿を観察しながら、少女はにこやかに宣言した。ただし、その笑みを見ることができた者はいなかったのだが。




 しばらくして、少女を召喚した国は、愛に満たされるようになった。

 政略結婚や不幸な結婚をしている者は一人もいなくなった。身分差によって苦しんでいた者も減り、国民は多種多様な恋愛を楽しむようになった。

 そして、今までいなかったはずの魔獣や触手系植物がちょっと増えた。もちろん、聖女の手ほどきを受けた神の意向である。


(プライドが高い人たちほど、快楽堕ちしやすいわぁ)


 魔獣や触手は欲望の塊である。邪な思いを抱える者たちは、己の欲望自身に捕らわれ、襲われ、身勝手な自分自身の愛をその身に受けることになった。自業自得としか言えない。


「今日もオシゴトに励むわよ、下僕」

「はい!喜んで!!」


 自分を召喚したこの世界の神は許せない。だが、実際に会ったときに泣きべそをかきながら土下座をした姿にちょっとキュンとした。

 あと万能なので、読みたい系統の漫画も描いてくれたので許した。

 すごい力を持っている神のくせに、聖女の求めるどんな嗜好にも対応しようとする姿勢は気に入った。たまに対応しきれずに泣いている姿を見ていると胸が高鳴るので、これもきっと数ある愛の形のひとつに違いない。

 今日も聖女は異世界の神を四つん這いにし、そこに腰をおろしている。神は喜びに震えているので非常に座りにくい。


「役立たず」

「その通りです!」

「無能」

「ありがとうございます!」

「……」

「やば、興奮する」

「椅子が喋るな」

「!」

「さあ、今日はどのカプを見ようかな~」


 聖女となった少女は、異世界の神の意志を受け入れ、国民の性癖を開花させることに尽力した。そして、そこから生まれた様々な愛を愛でている。


「……んー、ねえ下僕。あんた薔薇と百合ならどっちがいい?」

「どちらも美しいご主人様にお似合いです!」

「あんた記憶力ゴミ虫ね」

「褒められた!」

「潰すわよ」

「!!」

「ツンデレお姉さまと腹黒子犬系後輩の百合(GL)か、甥攻で国王受の薔薇(BL)のどっちがいいかって聞いてんのよ」

「はわわ、ナイスチョイスです、ご主人様!」

「あ、犯罪者はっけーん!新作触手獣の御披露目にちょうどいいわ!神罰砲発射!!」

「流石です!ご主人様!!わあ、やばーい!!」


 この聖女にして、この神あり。異世界から召喚された聖女は、当然ヤバい神の好みにドストライクであった。

 聖女は自分の性癖を決して強要はしない、だが推奨はする。年下攻万歳、下剋上万歳、ハッピーエンド至上主義。


 聖女と神は、今日もこの世界に植え付けた特殊性癖の種を見守りながら、芽吹くように育て上げ、様々な愛が咲き誇るような国を作っているのだった。

久しぶりの作品がこれとか、本当にすみません。

コミケ最近行ってないな、行きたいなぁと思いながら書きました。


別タイトル付けるなら

「聖女として召喚されたら、性癖ドンピシャな神様に溺愛されました!」

とかですかね。かなり読みたいんですが、自分で書かないといけないのが難点です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
よかった。タイトルを見て 「愛を与える」(第一次十字軍的な意味)かと思った。 注、第一次十字軍は未開の蛮族に神の愛を与える為に中東・アフリカ方面に出かけました。 ものすごくオブラートに包んで表現する…
めちゃくちゃ面白かったです。 呼び出しといて触るなだの女のくせにだのとかヤバすぎ国民なので聖女さまにお黙り!!されて当然すぎますね。 この勢いで罰される民草を5話ぐらいみたいですねw
楽しかったwww聖女の手ほどきを受けた神→で、ごめん あぁウケなんだ?神って思って あ、違うそういう意味じゃなかったわこれって思ったけど、読み進めると合ってそう?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ