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アンチューサ  作者: クロス
第一章
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第二話「引き金の音と獣の直感」

 西の区画は、地図から消えかけていた。

 崩れた高架。空っぽの団地。剥がれた広告に、誰の視線もない。


 だが、ガーベラの足取りは止まらない。

 サングラスのレンズが、次の動きを導いていた。


 《熱源探知──上層階に複数反応》

 《対象:シュウ・ミナト──ID確認》

 《銃器反応:有り》


 「……やっぱり武装してやがるか」


 舌打ち一つ。

 コートの内ポケットに手を入れ、愛用のリボルバーをゆっくり抜いた。


 “ジャキン”


 重たい金属音が、この静寂に溶けていく。


 階段をひとつ飛ばしで駆け上がる。

 瓦礫を踏みしめながら、遮蔽物の影に身を隠す。


 そして次の瞬間──


 「来たな、刑事デカァ!」


 銃声。


 鉄板の角を削るような音とともに、火花が弾ける。

 ガーベラは瞬時に身を引き、柱の陰に潜った。


 「三点バーストか……カスタムされた安物のサブマシン。悪くねぇ選択だが、調子乗りすぎだ」


 小さく吐き捨てて、構えを整える。

 その目は、すでに次の“跳弾角度”を読んでいた。


 「……弾倉の切れ目。スイッチは──ここだな」


 “パン!”


 リボルバーが唸る。

 廊下奥のパイプに当たった弾丸が、鋭角に跳ね返り、男の背後の壁を貫いた。


 「ちっ……!?」


 気配が揺れる。

 男が半歩ずれた瞬間を狙い、ガーベラはもう一発撃ち込む。


 “ドン”


 コンクリに跳弾。

 煙と粉塵が上がり、犯人の銃口がわずかに逸れる。


 「避けると思ったよ。その距離で“見せ弾”を躱すのは慣れてる奴だけだ」


 “ズダンッ!”


 ガーベラは一気に距離を詰めた。

 瓦礫を踏み台に跳び上がり、空中から正確に二発──


 弾丸が男の銃を弾き飛ばし、右肩を貫いた。


 「ぐああっ!!」


 シュウ・ミナトが崩れ落ちる。


 ガーベラは足音を立てずに近づき、銃口を静かに彼の額に突きつけた。


 「……終わりだ。もう逃げ場はねぇ」


 荒い呼吸。床に広がる血。だが、その奥に確かな“違和感”があった。


 「……お前、誰に雇われてた?」


 ガーベラの声は低く、鋭く。

 ただのチンピラが使うには、サブマシンガンも逃走ルートも“整いすぎていた”。


 だが、ミナトは口を開かなかった。

 その顔に浮かんだのは──恐怖ではない。覚悟だった。


 「……“またすぐ来るさ”……お前らは、止められねぇよ」


 何かを知っている目だった。

 そしてそれは、始まりの合図にも似ていた。


 「……チッ。面倒な匂いがしてきたな」


 サングラスの奥、ガーベラの目が細められた。

 そして彼は、通信端末を開きながら、煙草を取り出す。


 「……バコバ、聞こえるか。1人確保。……だが、こいつ、ただの駒だ」


 次に動くべきは、もっと深い場所にある。

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