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プロローグ(続き)
……空気が、わずかに揺れた。
どこかで誰かの足音がした気がして、少年はゆっくりと顔を上げる。
誰もいない。
それでも、確かに何かが近づいてくる気がした。
この静寂の向こうで、何かが動き始めている。
過去か、未来か、それとも――運命そのものか。
少年は立ち上がる。
もう一度、青い花に目を向けた。
その花は、壊れた世界の中で、たしかに咲いていた。
誰かを待つように。何かを知っているように。
そして、その名を、物語の名を――
「……これは」
少年は言葉を繋いだ。
誰に向けるでもなく、ただ空に向かって。
「……これは、7匹の物語」
その言葉を最後に、夜がゆっくりと明けていった。
――記憶の奥底に沈んだままの真実。
――名前と姿を奪われた“獣”たちの、遠く深い約束。
物語は、今、再び動き出す。