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勇者パーティーに追放されたアランが望み見る  作者: 辻田煙
第1章「ショーの始まり」
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第8話「精霊の福音」

 僕の想像通り、足は変貌する。家の中では裸足の僕の足が、黒い羽を生やし、足自体が大きくなる。指は長くなり、鉤爪になった。凶暴で巨悪な見た目。ぐっと足を曲げることを意識すると、目の前の黒い羽を生やした足も曲がった。この足ならジェナにも勝てるかもしれないのに、でも、勇者パーティーの前では、なぜか僕のもとに精霊たちが集まってくれない。その原因がずっと分からない。


 よし、これで開けられる。鍵で開けられるのならぶち破るしかない。鍵を作る方法もあるが、そんな器用な魔法は僕には出来ない。


 ドアを前にして、足を構える。変貌した片方の足で床に踏ん張り――扉を思いっきり蹴り上げた。けたたましい音を立てながら、ドアが向こう側へ吹っ飛び、何かにぶつかって床に落ちた。


 しまった、ちょっと壊すだけのつもりだったのに、盛大に壊してしまった。これでは魔法で自力で直すにも半日は掛かる。……早く中を探索しよう。


『散れ』


 足に集まっていた精霊たちに命令すると、すーっと熱が引いていく。同時に足が元の形に戻って行く。


 床が軋む音が聞きながら、室内に入って行く。ちくちくとドアの破片が痛むがしょうがない。軽い治癒魔法くらいなら僕にだって使える。部屋の中には大きい長テーブルが一つと、本棚だけが見えるが、窓もないせいで暗く、いまいち判別がつかない。


 暗い……。僕は手に魔力を集め――手の平を上に向けて、集まった魔力を丸め込むように意識して、手の平から放出した。すると、丸い光の玉が手の平に浮かぶ。丸く眩い光。僕はそれを部屋の上部に浮かべた。


 明るくなった室内、あるのは暗くなる前に見えたのとそう変わらなかった。暗くて見えなかった奥の方も本棚しかない。


「なんの部屋なんだ?」


 長テーブルに近付いていくと、そこには地図があった。僕が動く度に床が軋む。パーティーハウスの中で唯一と言っていい程窓がない部屋。


 地図は以前食料の買い出し途中に寄った本屋で見たものと似ていた。僕達のいる国の地図。地図にはたくさんのバツ印があった。よく見ると僕の村にもバツ印がついており、印が付いている村には見覚えがあった。どれもこれも魔王軍に襲われたところだ。全部知っている訳ではないけど、聞いたことがあるところもある。


「なんでこんなことを……?」


 魔王軍の動向を探るためだろうか。前に襲ったところから分析しているとか? 分からない。


 せっかく何かありそうな部屋を見つけたのにこれでは何にも分からない。テーブル以外にはナンシーの趣味らしい、魔法学に関係していそうな本しかない。僕はテーブルから離れ、一応本段に並んでいる本を見たり、触れたりしてみるが変な所はなにもなかった。


 この部屋でも何も分からないようでは、もう探りようがない。かといって、彼らに対する不審をこのままにも出来ない。どうしよう……。あとは彼らが部屋にいる時の様子を探るしかない。現実的に出来そうなのはそれくらいだった。しかし、一度ジェナに見つかった記憶が邪魔する。ドアの前で盗み聞きとかはできない。


 ……アーサー達がここに集まるのは、たしか決まって魔王軍の討伐に行く前と後だったはず。部屋に何か仕掛けられないかな。盗み聞きする魔法みたいのもあるけど、この部屋にそんなの仕掛けられるのだろうか。ナンシーあたりにバレてしまいそうな気がする。精霊に関する魔法はアーサー達の前だと使えないし。うーん……。


 僕が悩んでいると、ふわふわと周囲を飛んでいる精霊たちが僕の身体に纏わりつき始める。なにかを主張したいらしいのだが、まったく分からなかった。


「なんだ? なんなんだ? なにかあるのか?」


 僕が尋ねると、赤い火の様な色をした光の玉が僕の目の前にスーっと上って来た。光が明滅する。


『なんの部屋なんだ?』


 それは僕が言った言葉だった。ぽかん、と聞いていると、足音らしき音が聞こえてくる。床が軋む音、バキバキ、と何かを壊す音、そして――


『なんでこんなことを……?』


 また僕が言った言葉。再び床を歩く音。音はしばらく続き、光の明滅が止まると、音も聞こえなくなった。


「まさか……、今のって僕の声か? それを録音した? 魔法みたいに」


 赤い光の玉は、そうだ、と言わんばかりにまた明滅する。正直、驚き過ぎて信じ難い。自分の声だって初めて聞いたので、その通りなのか分からない。でも、言った内容はそのまんまだ。


 そんなことが出来るなんて知らなかった。ん? でも、なんで僕が考えていることが分かったんだろう? ……まさか、僕の心が読めるのか?


「なあ、なんで僕がこの部屋の様子を盗み聞きする方法が欲しいって分かったんだ?」


 僕が目の前の精霊に向かって訊くものの、それはうんともすんとも言わなかった。ただ、そこに浮かんでいるだけ。なんの反応もしない。


「なあ?」


 僕に纏わりついている他の精霊達にも訊いてみるが、やはり微動だにしない。どうやら答えるつもりはないらしい。やや不満を感じながらも、僕はまた赤い精霊に訊く。


「お前なら、アーサー達に隠れて、録音できるのか?」


 赤い精霊は、今度は明滅した。できるらしい。


「ナンシーにバレないか?」


『ば、れ、な、い』


 精霊が突然言葉を発し、驚く。話せるなら最初から話していてほしい。


『ば、れ、な、い』


 よく聞くと、声は僕のものらしい声だった。いつ録音したんだろう。それとも、聞いたもの全部再生できるのだろうか?


「本当か? 今度バレたら、僕半殺しじゃすまないぞ、多分」


 言っていて、自分で恐ろしくなる。前回、ジェナに半殺しにされた時には、偶然だった。でも、今回は故意に、それも精霊を使って彼らの話を無断で聴くのだ。ただじゃおかないだろう。


『だ、い、じょ、う、ぶ』


「……うーん」


 悩む。他に手段がないのは分かっている。このままでは、疑惑が頭にチラついて、彼らに反抗したくなるのを我慢できなくなるのも。疑惑は払拭したい。しかし、精霊たちを完全に信じ切る、というのが難しかった。彼ら? 彼女ら? は、肝心な時――勇者パーティーの面々を目の前にした時に使えなくなる。散々試したのだから分かる。それに、いきなり録音できたり、話し出したり――どうにも、胡散臭い。いや、精霊相手に何を言っているんだという話だが、意思は確実に存在しているように見える。ともすれば、人間を陥れることだって可能なはず。危険すぎる、かもしれない。


 でも、知りたい。


 精霊なんて、いつもその辺にふよふよ浮かんでいる存在。魔力を通してでしか基本見えないし、見ない。それはアラン達、特にナンシーも同じはず。


「本当に『録音』出来るんだよな?」


『で、き、る』


「……分かった。この部屋の『録音』をしてくれ。絶対にバレるなよ」


 僕が念押しで言った言葉に、赤い光の玉――精霊は、ピカピカとこれまでよりも威勢よく点滅した。

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