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勇者パーティーに追放されたアランが望み見る  作者: 辻田煙
第1章「ショーの始まり」
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第7話「勇者パーティーへの疑念」

 僕は勇者パーティーに対する一つの疑念がある。それは、魔王軍への恨みの代行者だと信じて、彼らの言動を我慢してきた僕にとって看過できない問題だった。彼らにいたぶられているこの現状が、正解だと信じていた僕自身への証明のためにも。


 いつものように朝、ジェナに痛めつけられ、ナンシーに治され、頬をぶたれ、アーサーの気分次第で、やはりぶん殴られる。いつもの日。だが、今日は王国内の地方に現れた魔王軍討伐のため、彼らは僕を一人にして家を留守にした。だからといって、僕は家を出ることはできない。


 どういう魔法なのか知らないが――大方ナンシーの魔法だろう。彼女は王国で随一の魔法使い、もとい、魔女だ――僕の力でどうすることも出来ないのは確かだった。だから家にいるしかないのだが――最近は魔王軍討伐などで彼らがいなくなるタイミングでパーティーハウスの中を家探ししていた。ここ最近で芽生えた僕の疑念を払拭するために。


 アーサーたち勇者パーティーに助けられて五年。僕はあることに気付いていた。彼らは魔王軍の討伐によく行っているのだが、どうにもタイミングが良すぎる気がしてならなかった。彼らが魔王軍の討伐へ向かう際、国などからの伝令があって戦地に赴くわけではないのだが、どうも彼らが行っている場所で戦闘が行われているとしか思えなかった。


 それに頻度もおかしい。


 家の中をやらされているせいで、彼らの金遣いの荒さには気付いていた。その金が怪しくなり始めたタイミングで魔王討伐に彼らは向かうのだ。金が怪しくなると、彼ら――とくにジェナは気性が荒くなる。以前、なんで数カ月に一度痛めつけが激しくなるのか分からなくて理由を必死に探した結果分かったことだった。


 勇者パーティーは、ナンシーが所属する「勇者教会」、そこから資金援助をされているらしいのだが、どう考えてもそれだけ足りるとは思えない生活をしていた。具体的な支援金額を知らないので、単には破格の金額を貰っている可能性は否定できないが――食料にしても酒にしても、強靭な体躯のせいか、彼らは信じられないほど消費する。相手が勇者だからか街では噂になっていないみたいだが、アーサーは相当に女性をとっかえひっかえしているし、この家にも時々持ち帰って来る。しかも毎回と言っていい程違う女性。ジェナはジェナで、いつもどこかで喧嘩や賭けをしているらしかった。勝てば、よくナンシーやアーサーに自慢していたのを聞いていた。ナンシーは……、魔法の研究でよく高い材料を買っているようだった。お酒を飲んでたまに愚痴ることがあると、決まってその内容だった。


 ともかく魔王軍討伐に行くのはいいのだが、彼らに都合の良すぎるタイミングなのだ。僕はなにかある気がしてならなかった。一番彼らの近くにいるからこそ、気付けるなにか。


 一度、魔王軍討伐に向かえば、二、三日は戻ってこない。彼らは、今日の昼出発したので、少なくとも今日一日は戻ってこないはずだった。似たような機会を使って、家の中はあらかた探し終えていた。自分でも何を探しているのか分からない。でも一度芽生えた疑念は払拭しないと、気が気ではなかった。


 事によっては、僕が勇者パーティーのもとにいる根本的な理由が根底から揺るがしかねないものだからだ。


 パーティーハウスの中で唯一見られていない部屋は、後一つ。勇者パーティーの三人がよくたむろしているリビングの向かいにある部屋。僕は時々この部屋に彼らが集まっているのを知っていた。一度入りかけて、ジェナに身体を半壊にされるほど痛めつけられたこともあった。あの時はナンシーにも半日ほど放置され、酷い目をみたなんてもんじゃなかった。それ以来この部屋には近付けていない。部屋の扉には鍵が掛かっており、二階の全員の自室はすでに確認しながら、ついでに鍵を探したが、結局鍵は見つからなかった。


 部屋の扉の前に立つ。ジェナにあれほど痛めつけられたのは前にも後にもこの部屋に入りかけた時が最後だった。念の為、今も鍵が掛かっているのか確認しようと、ドアノブに触れようとするが、手が震えて上手く行かない。片手で抑えてようやくドアノブに触れられた。


 息を震わせ、ドアノブを回して手前に引っ張ったが、扉はガタつくだけで開きはしなかった。押してみても同じ。


 一つ息を吐き手をドアノブから離すと、次に出来そうなことを考える。


 僕は勇者パーティーにずっと秘密にしていることがある。というか彼らの前だとなぜか出来ないのだ。五年前、リリーに教えてもらったもの。今なら、それが精霊魔法だと知っている。ぐるぐると呼んでいた魔力を目に集める。次第に目が少し熱くなり――周りに様々な色の光が飛んでいるのが見えるようになった。あの森の中ほどではないけど、ふわふわと飛んでいる光の玉は意志を持っているかのように、僕の周りを飛んでいる。


 リリーの言葉を思い出す。


 そうそう、上手いね。アラン。じゃあ、次は喉にそれをしなさい。


 喉に魔力を集め、特別な声を出す準備をする。勇者パーティーに救出されて以来彼女の声は聞いていない。まだ、僕の中にいるのだろうか。


『あ』


 自分が二重になったような低い声が出る。


 リリーの言葉が再び蘇る。


 いいね。その声で見えている光りの玉が自分の脚に集まるように、言ってごらん。きっと面白いことが出来るよ。「トクベツな遊び」がね。


『僕の足に集まれ、精霊たち』


 僕は命令する。彼らの力を糧にして、この扉を開けなければならない。もうここ以外にはなにかありそうな場所は思い当たらないのだから。


 光の玉――精霊達はふわふわとゆっくりとしたスピードで、僕の足元に集まり始める。足が徐々に熱くなり、熱を持っていく――


「止まれ。もう集まるな」


 五年前は制御できず、リリーに助けられて何とかなったが、今は止められた。割と一か八かだったが上手くいった。


 イメージを形にする。あの時見たモノ。鳥の足。巨大な鉤爪。じっと自分の足を見る。熱を形にする。僕が望む形に。

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