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第55話「魔王軍の正体」

 魔王軍の襲来の噂は、王都中に広まっているようだった。どこに行ってもその噂ばかりしている。もちろん、いつ襲うのかという日付も一緒に。


 僕たちがアーサーを殺す日でもあるその日までは、一定の期間があった。僕としてはアーサーを焦らすために設けた期間だったけど、国は国民の避難の期間にしたようだった。


 屋根裏部屋のある家の屋根で、僕はライラと一緒に道を国外に向けて歩いて行く人の波を見ていた。


「すごいね、こんなに人っていたんだ」


 ライラの声は感心するような呆れるようなものだった。僕も同じ気持ちではある。どこにここまで隠れていたのか。いや、本人たちは隠れているつもりはないんだろうけど……、年齢に関係なくとにかく人が多い。道一杯にいる。荷物を持っているせいか、その歩みは遅々としやものだった。


「まあ、ここは王都だしな。人も多くなる」


「ふうん。魔族は一箇所に、こんなに集まらないから、変な感じ」


「そうなのか。……そろそろ行くか?」


「うん」


〈アラン、ライラちゃん絶対に落としたら駄目よ〉


〈そんなことは分かってる〉


 僕は身体を変化させた状態だった。よく考えたら明るい場所でこの姿になるのは初めてかもしれない。変な感じがする。目立たないだろうか。


「アラン、格好いい」


「……もう、何回も見てるだろ」


「うん、私を助けてくれた」


「それは、まあ、結果としてはそうだけど……」


 ナンシーの時は結果的に囮みたいになっていたし、彼女からそう言われるのはどうも居心地が悪い。今回も似たようなことになっているし。


「しっかり運んでね、アラン」


「当たり前だろ」


 僕はライラを背後から抱いた。薄いお腹に手を回し、がっちりと固定する。魔法はあんなに出来るのに、心配になる体の軽さだ。僕と同じかそれ以上食べているはずなのに、どこにいってしまっているんだろうか。


〈変な事考えちゃだめだよー、アラン〉


〈考えるわけないだろ〉


〈何を言ってるかは分かるんだ?〉


〈……うるさいぞ、リリー〉


 頭の中で彼女の笑い声が響く。本当にやかましい。


「アラン、まだー?」


「まてまて、今飛ぶから」


 待ちくたびれたのか、ライラは僕の手を叩く。僕は足に力を込め――


「行くぞ」


「うん」


 ライラが返事すると、大きくジャンプした。ごうっと耳元で音がし、ライラを掴んだまま、雲一つない青い空に身を乗り出す。飛ぶときは夜が多いため新鮮だった。そして、夜よりもよく街が見える。高さを感じる。僕は冷や汗が出る思いだった。夜だと、精々街の明かりが見えるくらいだけど、今は街並みも人混みも良く見える。


 背中の翼を操作し、空を滑るように国境に向かって進む。どこかでもっと高く飛ばないと。このままじゃ国境の城壁にいる衛兵に見つかる。


「すごーい」


 ライラは空の旅を楽しんでいるようだった。すごい、すごいとしきりに言っている。僕も初めは興奮した……、いや、あの時は必死なだけだったか。


「ライラなら、飛べる魔物に頼んでいつでも空を飛べるだろ」


「そうだけど――でも、こんな感じじゃないよ。すごいよ、すごい」


 僕は飛び慣れはじめているせいか、ライラほど興奮はしなかった。それよりもライラが落ちないようにしっかり掴んでいることに意識を集中する。ここで、ライラを落としてしまえば、魔法の力でどうにかして怪我はしないかもしれないが、街中に魔族が降りたったらパニックなる。魔族かどうかは角で丸分かりだろうし。角を隠せても、空から降って来る少女なんて、怪しさ満点ではある。だから、絶対に落とすことはできない。今は街も「魔王軍襲来」でピリピリしているし、騎士を呼ばれたら面倒なことになる。


 人目のつかなそうな屋根に降り、屋根を壊す勢いで再びジャンプする。さっきよりも遥かに高く、空へと昇り、滑る。ライラの体重の分があるせいか、いつもよりも速く進み、下に落ちやすい。


 国境沿いの城壁の上を誰にも気付かれることなく、すーっと通り過ぎる。


 僕たちが向かっているのは、ジェナの家があった森だ。あそこには魔物がたくさんいる。ジェナが飼っていたものも、普通に森に生息しているものも、とにかく数がいる。


 魔王軍などというものは、当然、そんなものはない。アーサーが言っていた通り、とっくに壊滅させられている。ライラが言うにはその認識に間違いはないらしい。仮に生き残っているにしても、魔王という絶対的な存在を失った今は、散りじりになっていてどこに居るのか分からないと言う。だから、魔王軍で王都を襲撃するなんて不可能なはずだった。


 でも、魔王本人であるライラであれば、魔族を集めることが出来なくとも、魔物なら可能だ。ライラからそれを言われてた時、真っ先に思い出したのは、彼女をジェナの家から救出した時のことだった。


 彼女の歌によって、魔物たちが大人しくジェナの家から出て行った――あの美しい子守歌のような歌声。


 一度見たからこそ、僕は魔王軍と言えるほど魔物を集めることも、彼女なら可能なのだろうと自然に納得した。どれだけの規模になるのかは分からないけど。


 ライラを連れて、森の上を飛ぶ。眼下に広がる大森林。どこまで続いているのかは分からないけど、魔物たちが沢山いることを僕は知っていた。


「ライラ、どこに降りる? ジェナの家にするか?」


「うん。声がよく響く場所の方がいい」


「分かった。このままジェナの家に向かうぞ」


「うん」


 ライラを救出して以来、一度も行っていないけど今はどうなっているんだろう。結局、アーサーがあの家に行った様子はなかったし。そのままなのかな。


 ごうごうと僕の周りを風が流れる。森に入ってから見えていた大樹は、もうすぐ間近に迫っている。見た限りでは特に変化したようには見えなかった。


 羽を操作し、速度を緩める。そういえば、前に来た時はこんなことも出来なかったな。ここ最近で色々なことが出来るようになった気がする。


 ジェナの家だったものは、あちこちがボロボロになっていた。屋根には穴が空き、玄関にも大きく穴が空いている。正面玄関にあった床は下に落ちてなくなっているようだった。


 屋根に降りるしかないな。……降りて大丈夫だよな。二人降りただけで壊れるほど脆くなっていないといいんだけど。


「ライラ、降りるよ」


「うん」


 バサッ、と翼を意識的にはためかせ、屋根に向かって方向と速さを調整する。速度は遅くなり、僕はふわっと屋根に降り立った。その瞬間ぎし、と屋根から音が鳴るが、落ちることはなかった。

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