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第53話「最後の標的」

 王都内は勇者への不審で溢れているようだった。


 僕は王都内にあるパン屋を数件回り、パンで溢れそうになっている袋を持って、屋根裏部屋近くまで徒歩で向かっていた。


 日中、ローブを深く被り、パンを食いながら歩いている人間など誰も咎めない。おかげであちこちに耳を傾けることが出来る。


 前を歩いている獣人同士の声など丸聞こえだった。聞かれていることすら気付かれていないだろう。犬のような尻尾が目の前でぷらぷらん揺れている。


 周りの雑踏に混じって、前の女性の声が入ってきた。


「ねえねえ、聞いたー? 勇者教会の話」


「あー、あれねー。地下から大量の死体が出たって話でしょ?」


「そうそう。しかも子供ばっかり。その上、聖女様が焼け焦げの死体で死んでたんだって」


「えっ、なにそれ。アタシ、そっちは知らない」


「えー、本当? 勇者パーティーって今大変なんだよ。えーっと、確か人間と竜人、聖女の三人で出来ていたんだけど、今は勇者の人間一人になっちゃったんだって。あとは死んだんだってよ?」


「ちょっと、そんなことここで話して大丈夫なの?」


「大丈夫だって。みんな知ってるもん。むしろ、知らない方がびっくりしたよ。私、結構色んなところで言っちゃってるし」


 勇者教会は表向き、ナンシーは何者かに殺害され、地下の死体は聖女であるナンシーが魔法の研究のためにダンジョンから拾って来たものだと説明しているようだった。というか、そう説明せざるを得なくなって、公表した、という感じだった。


 最初の数日間はなにも言っていなかったのだ。でも、死体処理を手伝ったシスターから漏れたのか、勇者教会の地下に死体があるらしい、聖女様は死んだらしい、という噂だけ流れ、急遽これはこうですと説明を行った。これに関しては、僕は何もしておらず、幸運なことだと思った。なにしろ、どう説明しようにも、勇者教会、引いては勇者への不信感は高まる。


 勇者教会の説明に対し、王都の人間は半信半疑なようだった。そもそも勇者パーティーが魔王軍討伐の自作自演を行っているという僕が流した噂も相まって、誰も額面通りに受け止めていなかった。


「私さー、勇者パーティーが一人しかいない状態ってすごく怖いんだけど。魔王軍来ても大丈夫なのかなー」


「それ、勇者パーティーの自作自演って話じゃなかった。アタシがこないだ組んだ冒険者の男にうざいくらいに話されたんだけど」


「あー、それ、私も聞いたー。でも、本当なのかなー? だって、魔王軍だよ? そんなの自作自演なんて出来んの?」


「アタシに訊かないでよ。でも、アタシたち直接、魔王軍を見た奴なんかいないじゃない。いっつも、『今回も勇者パーティーが迫って来た魔王軍を倒しました』って勇者教会が宣伝してるだけでさ。こんな噂でたら、本当かもと思わない?」


「うーん、そう言われると確かにそうかも……。でも、じゃあさ勇者パーティーってなんの為にあるの? たっかい金貰ってるんでしょ? あのパーティー。あ、今は一人か」


「なんの為かはしらないけど、魔王軍を倒せないというか、必要がないなら、ただの冒険者パーティーに変わりはないね」


「やっぱりそうだよね。ずるくない? 勇者教会から金もらってるんじゃないの? あそこ」


「どーだろーなー? まあ、勇者が本当に勇者なのかっては思うけど」


「勇者なのも自作自演ってこと?」


「そう。魔王軍がそうなら、勇者ってのも怪しくない?」


「確かに……」


 本人がいないことに、言われたい放題だな。でも、ここまで勇者パーティーや、勇者であるアーサーに上手く不信感を抱いてくれているのなら、願ったり叶ったりだ。アーサーがこの噂を聞いているんだったら、さぞかしイライラしてるんだろうな。


 僕は前を歩く二人組の噂に満足した。屋根裏部屋のある家が近くなったため、勇者パーティーハウスの方へ行かないように、路地裏に入った。



 数日後、僕は夜の屋根裏部屋でライラと共に、パーティーハウスの様子を窺っていた。ベッドの上で僕の腕にライラが抱き着いている。


 ナンシーを殺して以降、彼女はずっとこんな感じだ。ライラ本人が言うには、僕がナンシーを殺した強さを目の当たりにして、いたく気に入ったらしい。僕としては、強さうんぬんはなく完全に不意打ちを狙ったものだから、まったくピンとこなかった。でも、彼女にとっては違うらしい。あと強さで人の好みを語る魔族の基準がいまいち理解できない。そりゃあ、ライラは見た目に可愛いし、綺麗だし、性格もいい子って感じで悪い気はしないけど――魔王なんだよな。僕、復讐が終わったら魔王の婿になるのか? まあ、なんにしろ、今はそれどころではない。


 最後の標的、アーサーが残っている。


 僕とライラの前には精霊が浮かんでいる。ピンク色の精霊だ。真っ暗な室内では少々眩しく感じる。ただ、ライラがこの色の精霊を気に入って、これがいいというので仕方がない。どの色の精霊で聞いても内容が変わるわけじゃないんだけど……。


 今日はライラにも聞きやすいように、精霊に音を出してもらっていた。リリー繋がりで精霊の聞いている音を直接頭の中に聞かせてもいいのだが、リリーが最近面倒くさがっているので、この形になった。リリーが「私も聞くことに集中したい」と言うのでしょうがない。


 精霊に音の大きさは小さめにしてもらっていた。あまり大きくすると、床下の本来のこの家の住人に気付かれる。


 真っ暗な闇の中、ピンク色の淡い色が点滅する。アーサーの声が聞こえてきた。彼の声はいつ聞いても高圧的に感じる。


『話とはなんだ、新教会長』


『……分かっているはずです。それとも、今この王都で流れている噂の一つ一つあなたにお教えしましょうか? 勇者殿』


 話しているのは、アーサーとナンシーが亡くなった事件で、新しく教会長となった男のようだった。アーサーのどこか不安そうな声に対して、教会長は責めるような口調だった。

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