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勇者パーティーに追放されたアランが望み見る  作者: 辻田煙
第3章「正義のシスター」
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第50話「灰色の子供たち」

「まだ、生きてるの?」


「分からない」


〈いや、死んでいるはずよ。さすがに胸を貫かれて生きているとは思えないわ〉


「私はアランちゃんのせいで死んでいるわよー、ちゃんと」


 僕たちを嘲笑うかのように、声はまだ続く。なんなんだ、一体。二つあった石のベッド、階段のある通路の方から声がしていた。リリーもこの声自身も死んでいると言ってはいるが、油断はならない。なにしろ、相手は王国最強の魔法使いとも言われているナンシーだ。何があるのか分からない。さすがに死んでもなお、とは思わなかった。


「まだ、見つけられないの?」


「いや、見つけた」


 ナンシーの頭は階段から続く通路の先に転がっていた。首がちょうど床につき、顔は僕たちを見ている――いたって穏やかで優しい顔で。


 それが口を開き喋っている。一体、何の冗談だ。僕は顔が強張るのを避けられなかった。


「やっぱりアランちゃんね。ふふっ、お久しぶり」


 ライラが僕の腕を組む力をぐっと強くする。狂いそうな光景と空間の中で、彼女の温もりが僕を安心させた。


「さっさと死ねよ」


「あら、随分な言い草。私ならとっくに死んでるわ。念の為と思って準備してたのが、まさか本当に役に立つ日がくるなんてねー」


〈アラン、気を付けて。何か企んでる〉


〈分かってる〉


 顔だけのくせに、ナンシーの調子はいつもよりも上機嫌に見えた。一体何がそんなに彼女を喜ばせているのか。むしろ泣き叫ぶ……、のは想像できないまでも、僕たちを責めるくらいのことは言ってきてもおかしくない。


 なのに、ナンシーは上機嫌で随分と余裕がある。まさか、ここから復活とかしないよな。そんなことになったらさすがに化け物すぎるぞ。


「なんで死んでない。早く死んでくれないか」


「口を開けば死ね死ねって。失礼ねー。私はちゃんと死んでいるわよ。アランちゃんのお望み通りに、ね。これは生前私が仕掛けといた魔法のおかげで話せているだけで長くは持たないわ。楽しみを見せてもらうまでは、いくらでもお喋りするわよ」


 いつもより、やたらと喋るな。さっさと死んで欲しいのに。


「楽しみって何だよ」


「ふふっ、教えるわけないでしょう? それにすぐに分かるわ。ああ、ほら時間ね。後ろを見てご覧なさい」


 素直に後ろを振り向くのは嫌だったが、死に際の彼女が何をしようとしているのか気になった。


〈リリー、ナンシー見といて〉


〈分かったわ〉


 ナンシーの見張りをリリーに任せ、後方を振り返る。ところが、真っ暗な部屋の中、暗がりがどこまでも広がっているだけだった。さっきと何も変わらない。文句の一つでも言おうと思っていると――奇妙な音が聞こえ始めた。


 それは悲鳴だった。最初は一人だけ。泣き叫ぶような悲痛な女の子の声。それがまるで伝播するように、今度は男の子の痛みを叫ぶような声が聞こえてくる。二人、三人――数えきれないほどに増えていく。聞こえてくる声は大人ではない。全部子供だ。なにを嘆いているのか、ひたすらに何かを恐れている。


 僕がいる部屋はたちまち大量の声で埋まった。それに、暗がりの向こうから明らかに足音がしてくる。かなりゆっくりと、だが確かに何かが大量に来ている。


「アラン……」


「大丈夫だ」


 口休めにもほどがあるが、言わずにはいられなかった。不気味な状況に怯えているライラや自分自身のためにも。


〈リリー、これ何だか分かる?〉


〈はっきりとはしないけど――見当はつくわ〉


〈なんだよ? 言ってくれ〉


〈死体人形よ。……村の時にも見たでしょ。あれよ〉


 村の中を徘徊する、灰色の人間たち。燃え盛る炎――


「アラン? アランっ!」


「――あらあら、大丈夫かしら?」


 ライラの揺さぶりで、僕はハッと我に返る。しっかりしろ、ここはあの村じゃない。炎なんかない。腕を組んでいるライラに触れる。支えがないと、倒れてしまいそうだった。ナンシーの方を睨む。


「お前、何をしたんだ」


「お前なんて、酷いわねぇ。……ただの余興よ。二人は観客――いや、演者かしらね? 死体人形は結構強いのよねぇ。だから私が死んだあとに制御を切るようにしてたのよ。ふふっ、楽しいわよ。人でなくなった人間って、なんでああも怪力なのかしらね? それに、あの子らは他の人間を噛むと勝手に増殖していくのよ。すごいでしょ。今までは魔王軍討伐の振りをするためにだけ使ってたけど、街に溢れるのが楽しみだわ。惜しむらくは、私が直接見れないことかしらねぇ」


 ナンシーは笑いを堪えきれないようだった。早口で話しだしたと思ったら、今度は苛つきしか感じない笑いをし始める。


「お前――」


 僕は苛立ちとともに、ナンシーを殴ろうとすると笑いが枯れるようになくなっていった。一歩踏み出した足は止まり、思わず地面を蹴りつけた。地面が凹み、罅が入る。


 ナンシーは微笑したまま、目を瞑り物言わぬ首になっていた。ぴくりとも動かない。


〈死んだわね〉


「最後までふざけた奴だな」


「死んだの?」


「ああ、今度こそ完全に死んだはずだ」


 ライラはじっとナンシーの首を見て、後ろを振り返った。


「ねえ、あれまずいよね」


「当たり前だ。ナンシーがさっき言っていた通りだったら、街に出たらあっという間にこの国は終わるかもな」


 実際には騎士団だの、勇者であるアーサーだのと彼らがどうにかしてしまうだろうが、それまでは甚大な被害が出るだろう。どうやら、増殖する性質も持っているようだし、厄介なことこの上ない。


 しかし、ナンシーの思い通りに被害を出すのは腹が立つ。やっと殺せたのに、その後までなんで苦しめられなければならない。関係ない人間まで巻き込むのも気に入らない。


 ライラが僕からすっと離れる。


 彼女の向かう先では暗がりから徐々に、ナンシーが死体人形だというその正体が姿を現わし始めていた。


 ――子供だった。灰色の子供。わらわら、部屋の横一面を彼らが埋め尽くしている。何体いるのか数えるのもアホらしくなる数。この数だけ、彼女は子供の死体を集めたのか。もしくは殺して調達したのかもしれない。


「ライラ、何をする気だ」


「今日はアランに助けられたから。その恩返し。これくらいなら、私だけでも、どうにでもできる」


 これくらいって、このめちゃくちゃな数を一人で……?


 ライラの前には暗がりから見えただけでも相当数の死体人形がいた。とても一人でどうにか出来る数には見えない。


 僕は慌てて彼女の横に並んだ。呻く声がより近くなり、目に入るものは生々しくなる。


「おい、さすがに一人では危ないだろ」


「本当に大丈夫だよ? 私は魔王だからね」

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