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勇者パーティーに追放されたアランが望み見る  作者: 辻田煙
第3章「正義のシスター」
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第48話「地下墳墓」

〈なにが入っているんだ、これ? 臭すぎて匂いもよく分からない〉


〈……匂いはこの中からよ。つまりは棺桶ね、これ〉


 死体が入っているのか。だけど、なんの為に? それに誰の死体なんだろう。ここにあるすべての箱が棺桶だとすると、すごい数の死体があることになる。それこそ数百は、ある。


 匂いがきつくなってきた。こんなところにナンシーは籠っているのか? 頭がおかしくなるぞ、これ。ナンシーの頭を疑いながら、階段を降り、通路の先を窺う。


 両側に天井近くまで箱が並んだ通路は、ところどころに松明が浮かんでいた。それが上にも奥にも続いている。わざわざ火の明かりにしているせいで、炎の揺らぎで景色が揺らぐような錯覚を覚える。


〈いたわね。……何してるのかしら?〉


〈リリーでも分からなきゃ、僕も分からないよ〉


 僕の視線の先、箱は途中で途切れているようだった。向こう側に広い空間があるのかもしれない。ナンシーはそこを右に左にと忙しなく動いていた。声も聞こえてこない。


〈ライラは寝かされてる……、あれ、起きてると思う?〉


〈私が見た時は寝ていた思うけど……、寝るほど鈍感とも思えないわ〉


 というか起きててもらわないと困る。この通路は一本道。隠れられる横道があるのかも分からない。ナンシーを襲った時にライラの協力なしには厳しい。僕もライラもどちらかと言えば、力押しだ。ライラの魔法が使えれば、もっと違ったのかもしれないけど……、それをどうにかするためには、ナンシーを殺さないといけない。どうせ、ナンシーが魔王であるライラの魔法が使えるようになどしてくれないのだから。流石に死ねば枷になっている魔法は解ける。


 ……結局、ライラの力を借りてしまってるな。戦力は多い方がいいとは思っていたけど、ここまで頼る羽目になるとは。いいことなのか、悪いことなのか分からない。


〈なに、ぐだぐだ考えてんの。ライラちゃんが一緒にって言うからいいじゃない〉


〈勝手に心を読むな〉


 どうせ言ったところで無駄なんだろうけど。


 どうするか……。ここでうだうだしいてもしょうがないか。なるべく音を立てないように進もう。ここ以外に道は無いし。他の入口を探している暇もない。


 僕はそっと足を踏み出す。篝火が僕を照らし、喉が鳴る。足の裏がじとっとしてくる。鉤爪が床に引っ掛かり音が鳴りそうだった。ナンシーは僕に気付いた様子はなかった。右に、左に、一体何をしているのか見当もつかない。


 近付けば近付くほど、火の光に焼けそうな思いだった。自分の立てる足音やのどの音だけがやけに大きく聞こえる。


 一本道だと思っていたが、歩いていると脇道があった。発見されず近寄れる道があるなら、そこから行きたい。僕は右側にあった脇道を見つけると、すっとそこへ入った。


 まだ戦闘もしていないのに、呼吸が荒い。どうもナンシーには苦手意識が出てしまう。肉体的にはジェナだが、精神的には一番ナンシーがきつい。アーサーはそう意味では一番殺しやすい。ただ、首謀者だから、一番憎い相手だけど。


 ナンシーは初めの頃は優しくしてくれたのだ。それを喜んでいた過去の自分が憎いほどには慕っていた。いざ、殺すとなると過去の記憶がチラついてくるのが余計に苛つく。感情をかき乱される。こんな状態では隙を与えるだけだと分かっていても、頭は理解してくれない。


 ――アランちゃん?


 ナンシーはいつも優しく語り掛けてくる。それは今も昔も変わらない。ただ行動が変化しただけ。


 偽りの優しさを持って、僕の名を呼んでいた彼女。腹が立つことに、当時の僕は彼女の見かけの優しさに縋ってしまった。ある意味で、彼女こそが一番危険だというのに。


 脇道は一本道だった。後ろを振り返れば、今まで歩いてきた通路を挟んで向こう側にも同じように壁際まで一本道が続いている。もっとも、道と呼んでいいのか分からない。ただ単に箱同士の感覚をここだけは広く取ってあるだけとも言える。人一人分くらいしか通れない隙間。ここも両側にうず高く箱が折り重なっているけど――ナンシーのいる方だけやや高さがなかった。これから箱を重ねる予定なのか片方が天井までびっしりだというのに、半分くらいの高さしかない。


〈こっちから行けないかな?〉


〈今の足の力ならジャンプで行けるわよ。足りない分は私たち精霊が助けてあげる〉


〈それは頼もしいね〉


 ジャンプか。僕の感覚だと結構ギリギリなんだけど……。箱は石で出来ていて取っ掛かりがないし、よじ登るのも難しい。あとは壁を蹴って上に行ければ一番いいけど……、空間が広すぎるのか、壁際までが遠い。


 あまり悠長にしていられる時間はなさそうだし、僕はリリーの言う、助け、を信用して、思いっきりその場でジャンプした。


 ぐん、と身体が跳ね上がり、箱がどんどん下へ流される。あともう少し、箱二個分、手が天辺に届く間際で勢いを失った。


 やっぱり届かないか。僕が着地をどう静かにしようかと考えていると――ふわっと僕の身体が浮いて――いや、浮き過ぎだ。どんどん高度が上がり、ついには登ろうと思っていた箱の天辺を越えてしまった。


〈リリー、ちょっと……〉


〈待って、今話しかけないで〉


〈ええー……〉


 僕が理不尽に困惑していると、急に身体を浮かせていた力がなくなった。やや前に出ていた僕はもともと辿り着きたかった箱に向かって落ちていく。


 僕は急いで羽に魔力を回し、静かに降りれるように調整する。すーっと僕は箱の上を移動し、大きな音を立てることなく降り立つことが出来た。


 結構、危なかった。無事に降り立てると、一気に冷や汗が出てくる。あのまま一直線に落ちてたら、確実にバレていた。


〈リリー? 降りる時は言ってくれないと、怖いんだけど〉


〈なによ、文句が多いわね。上に降りれられたんだからいいじゃない。……まだ、慣れてないのよ〉


 リリーが僕の中にいてもこんなことが出来るなんて。あまり慣れてしまっても、勝手に暴走しそうで怖い。まあ、彼女が勝手にそんなことをするとは思えないけど。


〈随分、広いわね……。嫌な場所だわ〉


〈そうだね。僕もいい感じはしない〉


 高い場所に上がれたことで、よりこの地下空間が見れるようになっていた。僕が居いる場所よりも前の方にも箱は並んでいる。途中でなくなっているあたりから向こうにはナンシーが居るんだろう。


 明かりが松明しかないせいで、完全に奥の方までは見ることは出来なかった。ただ奥行きがありそうなことだけが分かり、ひたすらに真っ暗だ。

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