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勇者パーティーに追放されたアランが望み見る  作者: 辻田煙
第3章「正義のシスター」
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第47話「聖女の向かう先」

 幸い、ライラを運ぶナンシーにはすぐに追い付くことが出来た。館内で飛ぶことも出来ないため、周りを飛んでいる精霊たちに教えてもらいながら、彼女の後を追い、階段を降りる姿を発見した。


 館内は真っ暗だが、窓から差している月光とナンシーの魔法らしき光の玉で彼女の姿はよく見える。


 僕と同じ魔法でも、ナンシーが使うとなぜか輪郭がぼやけ妖しく見えてくるから不思議だ。次の瞬間にはふっと消えていそうで怖い。


〈いたね。それにしてもこんな真夜中にライラを連れてどこに行こうとしているのかしら〉


〈それは僕も分からない。そもそもなんでライラなのかも分からないし……〉


 夜中は基本的に部屋の外から出ないことになっているからか、人の気配はまったくしない。みな、眠っているんだろうか?


 まるで幽霊のようにナンシーはすーっと階段を降りていく。ナンシーはライラを連れたまま、二階へ着くと、さらに階段を降りて行った。この先は食堂しかない。


〈やっぱり食堂が入口なのか……〉


〈そうね、私達入れるかしら?〉


〈僕の身体は精霊寄りになっているだけで、基本は人間なんでしょ? なら行けるんじゃないかな?〉


〈私も多分大丈夫だとは思うけど、確証が無いのよねー〉


 足音を立てないように、僕はナンシーの後をついていく。夜闇の静寂の中、ナンシーは脇目もふらず進んでいく。


 やがて、ナンシーは食堂の扉の前につき、彼女から紫色の光の帯が出ると、扉の取っ手に絡まり、両扉の片側だけを開けた。ぎいい、大きな音が鳴り、バタン、と閉じる。


 困ったな。これではすぐに行けない。扉を開けてしまったらすぐにバレてしまう。僕はさっと両扉の前まで階段を降り、精霊たちに中の様子を探らせる。


 精霊はリリーを通して僕に伝えた。


〈例の食堂の入口、入ったみたい。行くなら今よ〉


〈分かった〉


 僕はそっと両扉の取っ手に手を伸ばす。この身体だと繊細な力加減が難しい。取っ手を壊さないように引っ張る。どう静かに開けても音はなってしまうのだろう。事実、僕がいくら慎重に開けても、ドアの音は鳴ってしまった。


 音にびくびくしながらも、一人分入れるくらいだけ開けるとすぐに中に入った。真っ暗な食堂内を睨みながら、後ろ手でそっと扉を閉める。


 早く閉めたいのは山々だが、大きな音は立てられない。ナンシーに気付かれては困る。


〈扉ってどこ?〉


〈待って、今、案内してくれるみたい〉


 暗い食堂。精霊たちの淡い光だけが見える。一つの黒い光を出す精霊が僕の前に出てきて点滅する。不思議だ。周りだって真っ暗なのに、見える。その精霊だけが浮き出ているようだった。


〈付いてこいって〉


 僕は前を行く精霊たちの案内に従って食堂内を進む。黒い光のせいかいまいち見づらい。だが、目立ちたくない今なら、むしろちょうどいいとも言えた。身体大きくなった分、テーブルや椅子にぶつからないように気を付け、前に進む。


 今更だが、この身体隠れて行動するのに向いてないんだよな。ただ思いっきり戦うだけならいいんだけど。


 少しすると、行く手を阻むかのように横長のテーブルが僕の前に現れた。ナンシーや長たちが席に着いていたテーブルだろうと思い出し、回り込めるような場所もなかったと気付く。しょうがない。僕はテーブルの上に乗り、片足を乗っける。体重を乗せ、テーブルを越えた。なんか、抜けそうで怖かったな。


 若干ヒヤッとしたものの、精霊はすーっと左側の方へと向かって行く。精霊はやがてピタッと止まった。


 僕がそこまで行くと、暗くて見づらいが確かに重厚そうな木製の扉があった。触れると――なぜか少しだけ痺れるような感触を感じる。


〈ここね。……入れそうではあるね〉


〈うん。でもなんか少しだけ手に違和感がある。触れているだけなのに〉


〈しょうがないわね。私が思っているよりも、アランの身体がこっちよりなのかも〉


 僕は息を吐く。この先がどうなっているか分からないけど、ナンシーを殺すということには変わらない。


 扉の取っ手に手を掛けると、鍵が掛かっているようだった。蹴り破るわけにもいかないので、魔法で開ける。パーティーハウスに居た頃、外に出るために覚えたから、これくらいは出来る。


 カチャン、と鍵の開く音がした。


 僕はもう一度、扉の取っ手に手を掛けた。


 さて、何が出てくる――僕は心をナンシーへの殺意で埋めながら、扉を開けた。



 扉の先は下へと進む石造りの階段だった。かろうじて見る範囲の先、真っ暗な闇に中、かなり先に光があった。距離はかなり遠そうだ。


〈やっぱり、なんだか動きづらいわね〉


〈うん、なんか水の中にいるみたい〉


 僕が普通の人間だったらそう感じなかったのかもしれない。だが、今はどうしようもない。あまり悠長にもしていられない。ライラはきっと僕たちを待っている。


 扉をゆっくりと閉め、ヒタヒタと階段を降りていく。それにしても臭い。なんの匂いだろう。勇者パーティーは臭いところに居ないとおかしくなる呪いでも掛かっているのだろうか。ジェナのあのライラと魔物たちが居た場所ともまた違う。あっちは獣臭かったけど、ここはなにかが腐ったような匂いがする。


〈リリー、この匂い、なんだか分かる?〉


〈……ええ、これは死体の匂いよ〉


 その言葉に僕は思わず足を止めてしまった。


〈死体って、本当に?〉


〈間違いないわ。死体が腐った匂いなのよ、これは〉


 意味が分からない。なんで、勇者教会の――おそらく地下に繋がっているであろう場所からそんな匂いがしてくるんだ。墓でもあるのか?


〈とにかく行ってみましょう。行ってみれば分かるわ〉


 確かにリリーの言う通りだった。ここで固まっていてもしょうがない。それに死体なら何度も見ている。ダンジョンやジェナ、かつて僕がいた村でも。別に珍しいことじゃない。


 僕は階段を降りていった。


 階段は一直線だった。結構な深さまで降りてきているはずなのだが、一向にナンシーの姿が見えてこない。まさかとは思うが精霊が間違ったのだろうか? そんな考えまでよぎり始めた時――ようやく階段先の明かりの近くまでやってくることができた。


 暖かみのあるオレンジ色。魔法の灯りの色じゃない。火の明かり、それが階段先を照らし出している。


 一体、この先になにがあるんだ。階段の途中で左側の壁はなくなっており、僕はそっと階段から中の様子を窺うことが出来た。


「なんだこれ……」


〈すごい数ね〉


 中がかなり広い空間だというのは分かる。そのほとんどに大量の岩で出来ている箱が並んでいる。一つ一つは人間がちょうど一人分入れるくらいの大きさ。縦にも横にも、地面に並んでいるものと空中に浮かんでいるもの。階段を降りた先だけ、左側に箱の中を通れる通路があるようだった。箱と箱の間が空いている。


 姿が見られるかもしれないと思ったが、ここまでびっしりと並んでいればその心配はなさそうだった。僕は階段を降りていく。

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