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勇者パーティーに追放されたアランが望み見る  作者: 辻田煙
第3章「正義のシスター」
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第46話「夜襲」

 僕は魔法で運んでいただけなので、食事を摂ればヘトヘトと言うほどではなかった。だけど、ライラは違うようだった。


「疲れたー」


 なんだかんだで、半日丸ごと働きづめとは、この教会は中々大変だ。パーティーハウスのせいでこういうのは慣れているけど、ライラは違うようだった。夕食後は自由時間と言うか、みな部屋に戻り、出てはいけないらしい。ジェマからそう厳命され、僕とライラは自室に戻っていた。


 ライラは夕食を食べて、疲労からすぐに眠気が来ているらしく、眠そうな声だった。


「なんでアランは平気そうなのー」


 ベッドの上で隠すはずの角まで出して彼女は、ぐでっとしていた。僕を見ている紫色の瞳がとろんとしている。


「まあ慣れているからな。それに魔法で運んでいただけだし」


「それにしたって限界が……。ああでも、アランは……、ふあ」


 ライラが欠伸をする。平気なはずの僕までも眠くなってきそうだ。これから、探りに行かないといけないというのに。


「ライラちゃん、すっかりおねむね。大丈夫かしら」


「今日は行くのやめるか? ライラ」


「んー、いやひと眠りしたら、殺しに行く」


「おい、ここで言うなよ。誰が聞いているのか分からないんだぞ」


「そうだねー」


 ライラはそのまま目を閉じてしまった。眠ってしまったようだ。僕一人で行ってもいいが、戦力は多い方がいい。本当に夜中に起きれたなら、行くことにしよう。どうせ、ナンシーはまだ勇者教会から出て行かない、と思う。


 ジェナが死んで何日も経ったけど、アーサーの所へ行った様子はなかった。そっちはそっちで精霊に見張らせているけど、変わった様子はなかった。相変わらず酒を飲んで、ぐーたらしているだけ。仲間死んでいるとうのに呑気なものだ。


 僕もライラも万全の状態でナンシーとは戦いたい。最初は油断させ、奇襲をかける。ライラをただの子供だと思っているであるなら、それが可能なはずだった。いくら魔法が使えても力勝負になれば、僕たちの方が強いはず。素早くけりをつければ――殺せれば、魔法だって役に立たない。


「リリー、ライラが起きたら、僕も起こして」


「起きるか分かんないよ?」


「その時はしょうがないよ。万全じゃない状態で行っても無駄死にするだけだし」


「そうねー。まあ、起こしてあげるわ。それまでぐっすり寝てなさい」


「うん」


 僕はライラのベッドに近付き、ぐーすか寝ている彼女の下から掛布団を引っ張り出し、掛けてあげる。


 大分身体を動かしたというのに、彼女はまったく目覚めなかった。よほど疲れていたんだろう。


「おやすみ、ライラ」


 髪を撫で、僕は自分のベッドに戻る。


「随分、ライラちゃんに優しんだねー、アラン」


 リリーの含み笑いを伴ったからかいは、僕は聞こえないことにした。魔法で部屋の明かりを消し、ライラの寝息を子守歌に眠りに入っていった。



〈アランっ、アランっ、起きてっ!〉


 頭の中に響くリリーの声に、僕は内心で毒づく。まだまだ眠く、頭がぼうっとする。


〈リリー、なに? ライラが起きたの?〉


〈アラン、そのまま声は出さないで。目も開けちゃだめ。よく耳を澄ませてみて〉


 何を言っているんだ? リリーの緊迫したような物言いに、僕は意味が分からなかった。だけど、彼女の言う通りに耳を澄ませてみる。何も聞こえない――いや、誰かいる?


〈リリー、誰がいるの。これ〉


〈やっと起きた? ――ナンシーよ。今、ナンシーがライラを抱えているの〉


 リリーの言葉に僕は一気に身体を動かせなくなった。なんで、ここにナンシーが。今、攻撃されたらひとたまりもない。


 一体、何が目的なんだ。


「あらあら、よく眠っているわねー。……いい血が取れそうだわ」


 ナンシーの愉快そうな声が聞こえた。それだけでも、僕はゾッとしてしまった。まるで声に魔力が乗っているようだった。妖しく、僕を絡め取るような声。僕に向けて言っているわけではないだろうに、勝手に身体が硬直してしまう。頭のてっぺんからつま先まで一つでも動いたらバレてしまうんではないか……。そんな想像がよぎる。


 やがて、歩く音、ドアが開く音も聞こえた。すぐにバタン、と扉が閉じられたのが聞こえ――数秒経って僕はようやく長い息を吐いた。


「危なかった……」


 さすがにリリーの力を借りていない状態で戦闘するのは分が悪い。ライラも目が覚めていなかったようだし。……いや、眠っている振りをしていたのだろうか。本当に寝てたら両角が出て魔族であることがバレてたはずだし。もし、そうだとしたら、ライラは怪力があるとはいえ、魔法が使えない状態だし、慎重になっててくれて助かった。


「今なら追いつくよ、アラン」


「行くに決まってるだろ。もともとそのつもりだったんだ」


 僕は全身に魔力を集め、精霊たちを呼び寄せる。目を閉じ全身に集中する。リリーが僕の中に入って来るのを感じる。リリーの精霊としての力。背中を焼くようなこの熱さにもなれた。僕はいつものように想像した。ジェナを殺した、強い自分の姿を。鳥のように鋭い鉤爪を持ち、黒い羽を生やす自分の姿を。


 時間としては一瞬だったかもしれない。でも、この瞬間はいつも長く感じる。気ばかり急いてもしょうがないけど、今日に限って言えば、どうしても連れて行かれたライラのことが気になってしまう。今、この瞬間にも見失ってしまうのではないか――二度と会えなくなってしまうのではないか。そう思ってしまう。彼女の無邪気な笑顔を二度と見れないのは、ごめんだった。あれを見るだけでも、僕は安心するというのに。


〈アラン、行ける?〉


「ああ、ナンシーには死んでもらう」


 僕は身体中に漲ってくる力を抑えながら、低く答えた。僕は負けない。

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