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勇者パーティーに追放されたアランが望み見る  作者: 辻田煙
第3章「正義のシスター」
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第45話「精霊の入れない場所」

「ライラ、できそう?」


 少し心配になって、ライラを見ると、こくこくと彼女は頷く。彼女は今魔法が使えないし、手で運んできてもらうしかないか。見れば、ライラ以外にも魔法を使っていない人はいる。床を清掃していたり、乾かしたらしい衣服を籠の中に積んで別の部屋に持っていっている。


 それにしても……、侮れないな。僕は空中を文字通り歩いている少女たちを見て、警戒心を上げた。ただのシスターだけがいる場所だと思っていたけど、よく考えたら、ここにはナンシーがいる。この国で魔法が最も強いとされる人間。不老不死なのではと疑われる彼女が。


 まだ分からないが、シスターたちがその教えを受けていないとは限らない。直接ではなくとも間接的に学んでいる可能性はある。数が数なだけに敵に回したくないな。


 僕はナンシーの後を追った精霊たちの報告を待って、シスターの仕事に精を出した。昼食を食べたあともあって、眠気が誘ってくるが、表向き善良で優秀なシスターを演じる。


 単純作業は無心に身体を動かすことが出来て良かった。ライラは手で、僕は魔法で洗濯物が詰まった洗濯籠を、洗濯室の中に運んでいく。


 せっせと運んでも、洗濯物はすぐに新しいものをシスターの女性が樽の中に魔法で詰め込んでいく。まるでキリがない。だが、今は有り難かった。下手にうろちょろするよりも、こうやって馴染んでいる方が怪しまれない。それに体力は使うが頭を使うわけじゃない。色々と考えることが出来る。


 気になったのは、やはり、さっきのナンシーの視線だった。彼女がライラを見つめていた理由――そこが引っ掛かる。仮に魔王だとバレていない場合、彼女はなんであんなに熱心にライラを見ていたのか。


 理由を考えるものの、納得できるものが思いつかない。


「リリー」


「んー? なにー?」


 僕とライラは他の作業しているシスターたちと離れている。こうしてリリーと話してもなにも聞こえないはずだった。それに、ここに居て分かってきたが、意外とみんなお喋りだ。誰が誰だか知らないが、静かなわけではない。


「今日の夜、いや、今からでいいか。ライラを守っててくれないか?」


「急にどうしたの? ライラちゃんなら大抵のことは一人でどうにかすると思うけど……」


「大聖堂でナンシーがいただろ? あの時にライラがナンシーに見つめられていたんだ。なんか怪しい感じする。だから、寝ている時とか特に、気を付けて欲しんだ」


 僕はいくつもの籠を魔法で指定場所に運びながら、リリーにお願いする。彼女なら眠ることもないし、ライラに何かあってもすぐに気が付くだろう。


「んー、まあいけど。アランは良いの?」


「僕に付いていても、何もない。ライラは強いけど、色々とバレたら一番マズいし」


 主に魔族が勇者教会にいると知られたら、かなり騒ぎになる。それに、狙っている相手がナンシーだったら、リリーくらいしか対処できない。僕が一緒にずっといるのも不審がられてしまうし、見えない彼女が一番いい。


「ふーん……。まあ、いいけどー」


「なんだ、その気持ちの悪い笑みは?」


 なんかこう気恥ずかしさを感じさせるぞ、その笑顔。正直、うざったいから止めて欲しい。


「べつにー。アランはライラちゃんのことが心配なんだねー」


「本当に心配だったら、そもそもここに連れてきてない」


「そーなんだー」


 もう用件は済んだ、と僕はリリーの言葉に蓋をした。しばらくの間、やっかんでいたけど、僕が何も答えないでいると、ライラの方へ行った。


 ライラは一つ一つ籠を運んでいた。魔法が出来ないのでしょがないけど、魔王と言っていただけあって、こういう作業には慣れていなさそうだった。動きがぎこちない。リリーはそれについて回り、彼女の補助をしてあげているようだった。バレない程度になにかしているらしい。ライラの顔が見るからに楽そうになったのが分かった。


 少しは手伝いが必要かもと思ったけど、あの分なら大丈夫そうだ。それに、リリーが見ててくれれば、いざという時に気付ける。ここでは僕よりもライラの方が危ないのだから。


 ナンシーのあとをついていった精霊たちが、僕に報告してきてくれたのはしばらく経った後だった。作業中の僕たちにスーっと飛んでくる光を見た時には、ふう、と一息つく思いだった。ただ、ナンシーの後をついていくだけなのに、随分と遅かった。


 僕は洗濯物のある通路で、籠を魔法で五個程度浮かしながら、精霊に小声で訊く。


「随分遅かったじゃないか」


「ここ、不明。分からない。発見」


 ああ、ジェマに連れられるがままにここに来たから場所が分からなかったのか。それで、やっと見つけたと。まさか、精霊のことまでバレたのかと思った。


「それで? ナンシーがどこにいるのか分かった?」


「途中まで。先、行けない」


 またか。ナンシーのやつ、警戒心高過ぎじゃないだろうか。どんだけ精霊が入れない場所があるんだ。精霊も入れないとなると、リリーも連れて行けないし……。いや、リリーが僕の中にいる時はどうなのだろう。リリーが言うには、僕は精霊たちに近いものになったみたいなことを言っていたけど、根っこは人間のままのはず。もしかして、身体を変化させた状態なら、リリーと一緒に行ける……?


「途中ってのはどこだ?」


 浮かせた洗濯物籠を通路から出し、洗濯物の汚れを落としている樽の前に置く。僕の周りで、精霊たちは洗濯物よろしくくるくると回りながら、言葉を発する。


「食堂、大聖堂」


「……なんで、二箇所?」


 樽に背を向け、僕はまた通路に向かう。向かいからはライラが体いっぱいに籠を一つ持って、重そうに足を進めていた。僕の周りに精霊がいるのを見て、何か言いたげにする。リリーはそんなライラを足を止めないようにと「ライラちゃん、足を止めちゃだめ。怪しまれる」と、彼女の動きを止めないようにしていた。


「食堂、入る。大聖堂、出る。してた」


「ふーん……」


 確かに食堂のほうから、夕食時に出てくるのは見てたけど……、あの扉が入口なのか? 精霊がそこから先に行けない以上探れないし……。


 精霊たちはそれ以上分からないようだった。特になにか話していたわけでもなく、一人でその入口に入り、出口から出てきたのだという。そのまま、今度は本棟の事務室の方へ行って、また食堂から入ったのだとか。事務室では、魔法薬に関する注文をしていたようだった。名前を聞いただけでは分からないけど、パーティーハウスで同じような名前の注文をよく受け取っていた。そこは別に不思議ではなかった。この勇者教会でもなにか研究しているんだろう。なにをしているのかまでは知らないけど。


 夜、か。日中はジェマと一緒にここで仕事をしないといけなようだし、行くとしたら夜中しかない。


 僕はナンシーを殺すため、探索場所を決めた。

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