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勇者パーティーに追放されたアランが望み見る  作者: 辻田煙
第3章「正義のシスター」
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第43話「大聖堂」

「ここが大聖堂です。二人とも上を見てください」


 ジェマに言われるがまま、僕たちは天井を見上げる。真っ白な壁とガラスから入り込む陽が見え、どこまでも続く壁の先――そこには巨大な金色の玉があった。その周囲に玉を囲むように金色の筒が僕たちに向かって開いている。


 なんだ、あれ? かなり大きい。あんなものが落ちてきたら、みんな潰されるな。


「あれが、我が勇者教会の『大鐘』です。あの鐘が王国内に日々時間を知らせているのです」


 ジェナはどこか誇らし気に語った。あれがそうだったのか。僕が勇者パーティーに連れられてこの王都にやって来て、ほぼ毎日聞いていた鐘の音の元。こんな形で見ることになるなんて、思いもしなかったな。


「大きいー……」


 ライラが呆けたように呟く。そろそろ首が痛くなってきた。僕がジェマに視線を戻しても彼女はまだ鐘を見ていた。この教会の人間はみなこうなのだろうか。


「知っていますか。あの鐘の音は魔王を、魔族を、魔物を遠ざけると言われています」


 ジェマは今度は鐘の素晴らしさついて語り出した。正直聞いていられない。僕にとって、あの鐘が何の目的でいつ造られたものかなど、どうでもいい。大体、すぐ側に今代の魔王本人がいるけど、鐘の音を聞いてもまったく平気だったはずだ。僕は半分ジェマの言葉を聞き流しつつ周囲の様子を窺う。


 ここも案内されるだろうと思ってはいたが、精霊たちの探りで気になっていた場所でもあった。精霊たちが言う入れない場所はいくつかあり、ここもその一つだった。といっても、「大聖堂」全体が入れないわけではなく――勇者の剣を模したものが書かれている旗の真下、あそこが行けない場所らしい。リリーも一定以上近付けないでいて、イラっとした顔で、入り込もうとしては透明な壁があるかのように防がれていた。なんで、あんな場所がそうなのか分からないけど怪しいことには違いない。今日の夜あたり探ってみるのもありだな。……リリーはそろそろ戻って来て欲しいな。どういう仕掛けがあるのか分からないのだから、下手に触れないで欲しい。


「――聞いてらっしゃいますか?」


 ぼうっと、旗がある方を見すぎていたらしい。眉根を寄せ、ジェマが僕を見る。


「あ、すみません。……ここ意外と人が少ないんですね」


「ええまあ、シスターの礼拝は決まった時間にやりますし、お家でする方もいますから……。次に行きましょうか」


「はい」


 なんとか誤魔化せたようだった。まあ、本当に見えることを言ったところで、頭がおかしいと思われるだけだろうけど。


 その後、僕とライラは勇者教会の建物をジェマとともに歩き回った。教会内の図書館や調理室、事務を行っている者がいる部屋など。


 一通りの説明が終わると、昼時になってしまった。僕たちはジェマとともに食堂で昼食を摂ったが、やはりライラは現れなかった。精霊が入れない場所と言えば食堂にもあった。正確には、ナンシーが食堂に出てくる時の扉、その向こうもやはり精霊が行き来できないようになっていた。


 他にはさっき案内された場所で勇者教会の長の部屋もそうだった。精霊たちから聞いただけでもなにかある気がしたが、実際に来てみるとやはり怪しく感じた。これで怪しい場所にナンシーもいれば、すべて解決だけど……。どうだろうか?


 ライラと黙って昼食を食べた後、僕たちはまた大聖堂に来ていた。なんでもお祈りするらしい。ジェマによれば、教会の全シスターが集まってするのが恒例なんだとか。だからなのか、道中は混雑しており、大聖堂に入ると、さっきとは打って変わって同じシスター服を着た者たちで溢れ返っていた。


 ジェマの後をついて、大聖堂の端っこで立ったまま鐘の音を待つ。鐘の音がなるとお祈りタイムになるのだとか。正直お祈りすることなんて皆無……、むしろ勇者教会からしてみればバチ当たりなことを考えて実行しようとしているわけだけど、それもお祈りしたら叶えてくれるだろうか。ジェマはさも当然のように「みんなでお祈りするんです」と語っていたが……、すごい光景だな、と思う。


 大聖堂の端から端までずらっと真っ白なシスター服に身を包んだ女たちが並んでいるのだから。これだけでも、異様に感じる。一人一人考えの違うはずの人間が一様に一つのことだけに考え集中しようとしてる――僕はなんだか不気味に思えてならなかった。


 大聖堂にはいつの間にか、新たに入ってくる人間はいなくなり、みな長椅子に座っていた。長椅子はパンパンで、僕たちは座る場所もなく、立っているしかない。見れば、ちらほらと似たような者たちがいた。これだけ広くて数があってもあぶれるのか。


 僕たちにはちらちらと周囲のシスターたちの視線が刺さり居心地が悪かった。ただでさえ、僕が男とバレないか不安だというのに。


「長たちが来ました。お祈りに入ります」


 ジェマが大聖堂に入って来た人間を見て、僕たちに忠告する。


 奇妙に静かになっている大聖堂に、カツカツと音を立てながら何人かの人間が大聖堂の真ん中を歩いていく。昨日の夕食時以来だった。ナンシーと今の勇者教会に長らしい人物、それに他幾人か。


 長たちはシスターたちを前にして、勇者の剣の旗のもとに行くと、一歩、教壇の前に立った。一つ息を吐き――すっと目を瞑った。


 この教会、こういうことばかりなのだろうか。退屈し過ぎてどうにもつまらない。あくびを噛み殺しつつ、長の様子を観察する。


 いつになったら目を開くのだろうか? 僕が飽き飽きし始めた頃――鐘の音が鳴った。荘厳で、聞くものの背筋を伸ばさせる音。かなり大きい。真上にあるからか、頭がおかしくなりそうな大きさだった。頭の中に鐘の音が隅々まで響いて来る。毎日こんな大きさで聞いているのか? 正気とは思えない。


 ふいに耳を押さえていない左手がぎゅっと握られた。横を見ると、ライラが妙に不安そうな顔で僕を見ている。……さっき聞いた話がよぎったのだろうか。鐘の音は魔王を遠ざける、と言う話。あんなものは出任せだと言いたいが、鐘の音が大きすぎるし、声を張り上げるわけにもいかない。僕は彼女の手をぎゅっと握って、大丈夫と訴えかけるように、首を横に振った。すると、ライラはさらに不安そうな顔になって僕の手を痛いほどに握ってくる。駄目だ、伝わらない。


 そうこうしている内に鐘の音がやんでしまった。よく考えればリリー伝えに言えばよかったかもしれない。


 ライラはあからさまにホッとした顔をしていた。街の中でも散々聞いているだろうに……。なにがそんなに不安なんだろうか。僕だっているのに。

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