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第31話「ライラ」

「僕はアラン。……君は魔族なの?」


 なるべく大きな声で言ったのだが、彼女は首を傾げるだけだった。またも、彼女の唇が動くが、やはり何も聞こえてこない。


 ダメだ、ここで話していても埒が明かない。魔族なのだとしたら、協力者になってくれるのかもしれないのに。


〈アラン。……その娘、魔力が異常だわ〉


「異常? 量が多いってこと?」


〈そう。量も質も、ただの魔族じゃないわ。もっと上の――それこそ魔王に近い存在じゃないかしら〉


 そんな強いやつがこんなところに? 僕は彼女を見る。彼女は手にも足にも枷が付いていた。ただの枷にしてはやたらと堅牢で太い。あれで魔力を防がれてるのかもしれない。……いや、ジェナのことだからそんなことはしないか。本気で戦って、叩きのめすのを好むだろう。


 どうしよう。彼女を助けるべきだろうか。単純に考えれば協力者が増えるのは今後のことを考えればいいことだった。だが、この女の子が信頼できるかも分からない。勇者パーティーを倒すという意味では信頼できるかもしれないけど……、彼女は魔族だ。それだけでも、僕を恨んでもおかしくない。


 だけど……。彼女は傷だらけだった。血を流している。おそらくジェナにやられたんだろう。毎日毎日僕がやられていたように。でも、この様子だとナンシーのように誰かが傷を治してくれることは無かったようだ。耳は聞こえているのだろうか、目は見えているのか。僕は彼女を見ていると湧いてくる怒りを抑えられなかった。


 僕は痛かった。苦しかった。でも、それが魔王軍を倒すために必要なことなんだと愚かな考えで、どうにか耐えられていた。我慢できていた。


 でも、彼女は? いつから、ここにいるのかは分からない。今の所完全に壊れてしまっているようにも見えない。彼女がどのくらい暴力の嵐に晒されていたのか分からないが、短いとも思えない。


 終わってしまった過去は救えない。


 聞きたい。彼女が何をしたいのか。ジェナが死んだ今、彼女は自由だ。彼女がジェナをどうにかしたいと思っても、もう出来ない。僕が先に殺してしまった。他の勇者パーティーへの復讐くらいだ。彼女はそれを望むのか分からないけど。


 ……とにかく、ここから出そう。このままにはしたくない。


 数日経てば、ナンシーやアランがジェナが姿を消していることに気付く。ダンジョンに来る前にどこかに寄っていれば、ダンジョンに来たことも分かる。なにか情報を探ろうと思えば、この家にも来る。僕と同じように。そうすれば――この魔族の女の子もバレる。いや、ナンシーやアランたちは知っているのかもしれない。


 アランはこういうのを面倒臭がるだろうから、引き取るとしたらナンシーだろう。勇者教会にも所属している、彼女だ。正直、勇者教会にはいい印象がない。そもそもアランたちが村を襲っているのだって、彼ら教会の指示でもあるはず。……魔族が勇者教会に引き取られても碌な目に合わない気がする。


 誰かが助け出した可能性が残ると面倒だ。この子が逃げ出した風を装った方がいいか。僕は檻に手を掛ける。思いっきり鉤爪で檻の棒を切ってもいいけど、それだとこの子がやったとかどうか分からない。不審がられる。魔族は基本的に力が強いし、強引に行ったと分かれば多少は納得するはず。


 檻に掛けた手に力を込め――ぐぐっと曲げていく。今の僕ならこれくらいは簡単にできる。すぐに僕二人分は通れるくらいの大きさは開けられた。


 魔族の女の子が僕の方に顔を向ける。鼻のあたりまで髪が掛かっているけど、見ているのかな。僕が一歩、檻の中に入ると、彼女はビクッと後ずさった。怯えている。いや、なにかを嫌がっている。彼女は自身の身体を抱き抱え、僕が近付くことを拒否していた。


 彼女に繋がっている鎖は檻の四隅に繋がっていた。


「リリー、分かっていると思うけど、僕この子をここから出すよ」


〈うん……。でも、まさか、こんなことになるなんて〉


「ねえ、リリー」


〈んー?〉


「この子のこと知ってるの?」


〈なんで、そう思うの? 私はこの子のことは知らないよ?〉


「いや、なんとなく……」


〈そう。……怯えちゃっているから、早く鎖を外してあげた方がいいんじゃない?〉


「うん……」


 僕はどこか釈然としないながらも、魔族の子に繋がっている鎖に手を伸ばした。彼女は固まったまま動かない。なるべく彼女を怯えさせないように、少しだけ離れた場所で、鉤爪を思いっきり振り上げる。ガチャンっと金属音がして、鎖が一つ寸断できた。


〈アラン、力入れ過ぎじゃない?〉


「分かってるよ。ちょっと間違えちゃっただけ」


 ちらっと女の子を見るが、まだ身体を竦ませて固まったままだった。僕は一つ息を吐き、同じ要領で鎖を切っていく。最後の四本目を切っても、魔族の女の子は僕を見てすらいなかった。


 僕は彼女に近付く。一応いつでもこの檻から逃げ出せるように、羽に力を入れておく。万が一襲われても、すぐに後ろに下がることができる。


「えっと、名前はなんていうの?」


 話しかけると、彼女はようやく顔を上げた。髪の毛で目は見えないが、見られている感じはする。


「僕の名前はアラン。君の名前は?」


 もう一度訊くと、彼女の唇が動く。閉じ、開き、言葉を出す。


「ライラ……」


 小さいけど掠れた声で、そうはっきり言えるのが聞こえた。ライラ、か。


「ライラ。いいか、今から僕の言うことをしっかり聞いて」


 ライラはこくっと頷く。あまりに素直で少し心配になる。前の自分もこんな感じだったんだろうか。


〈そうだよー。素直で可愛かったなー。今はちょっとやさぐれちゃったけど〉


〈余計なお世話だ〉


 すかさず僕をからかってくるリリーに、僕は閉口する。こういう時、無駄に早い。普段は割とおっとりしているのに。

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