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勇者パーティーに追放されたアランが望み見る  作者: 辻田煙
第1章「ショーの始まり」
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第13話「黒い魔物」

「ど、どうして……」


 僕の呟きが消えていく。彼らには聞こえていないようだった。にやにやとしたまま、話している。


「おい、まだかよ」


「もうすぐだ、すぐに始まる」


「はぁ~、もったいないわ。綺麗な顔してるのに」


 ナンシーが頬に手を当てる。悩まし気に顔を歪ませた。


「ナンシー、死体は持ち帰らないからな。俺たちでもここは面倒だ」


「……しょうがないわねー」


 彼らの声は反響し、よく聞こえた。


 なんだ、何の話をしているんだ。なんで、僕をここに落としたんだ。僕はまた落とされるかもしれないと思ったが、手に魔力を集め脱出しようと思った。しかし、変な音が聞こえ、手が止まる。


「なんだ……?」


 音に訝しがる僕に、アーサー達、三人が話し出す。


「アラン、お前にはここで死んでもらう」


「私達を探っていたようだけど――困るのよねー、そういうの」


「お前はもういらねえんだよっ、ははっ」


「最後の土産だ。教えてやる。お前の村を襲ったのは俺たちだ」


 は? 一瞬アーサーの言っている意味が理解できなかった。妙な音が洞窟内に響き、聞こえ始める中で、僕は目を見開きアーサーを見る。


 彼は――笑っていた。


 彼の言葉が頭を巡る。


 ――お前の村を襲ったのは俺たちだ。


 呼吸が苦しくなる。歯が割れそうだ。ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな――ぶっ殺してやる。


「魔王軍なんて、とっくに壊滅しているんだよ。俺らはお前が知っている通り、自作自演していたってわけだ。お前の村もその一つ」


 アーサーを睨みながら、目に魔力を集める。目が熱くなり、精霊を探す。いない、いない、なんでだっ!


「たまたま生き残っているアランちゃんを見て、私が欲しくなちゃったのよねー。たまには生きている人形が欲しくって。だから、こうなって非常に残念だわー」


 なんで、こんな時まで精霊は力を貸してくれないだ。僕は、ならば、と足に魔力をありったけにこめ、自力で鳥の足をつくろうとする。


「あの村はナンシーがさっさと潰しちまって、つまんなかったな」


「だって、ジェナちゃん、子供の死体まで壊しちゃうじゃない」


 まるでなんでもないことのように、彼らは話す。


 なんで、できないんだ。僕の足は魔力を集めたというのに、まるで変形しなかった。なんで、なんで――


「アラン、お前がどういうつもりで俺達のことを調べようとしたのか知らないが――身の程をわきまえるべきだったな。知らなければ、死ぬことはなかったというのに」


 アーサーは首を振った。僕を軽蔑するような目で見てくる。


 我慢出来なかった。僕は出来損ないの魔法で何倍にも膨れ上がった足の力を使って、アーサー達の方へ飛んだ。


「アランちゃん、ダーメ」


 ナンシーのそこ言葉がやけにはっきりと聞こえた。彼女はいつの間に傘の先端を僕に向けていた。飛び上がった僕の身体が空中でぴたりと止まってしまう。動かそうにもまったく動かない上に、呼吸が出来ない。喉が苦しい、口を開け、呼吸しようとしても出来ない。


「落ちなさい、ふふっ」


 僕には何も見えなかった。ただ、何かがぶつかったのだけは分かった。お腹にハンマーで殴られたような衝撃が襲い、僕は床の水面にまた身体を落ちた。そこに至ってようやく呼吸ができるようになる。僕は四つん這いになり、必死に息をする。


 頭がちかちかする。くそっ、くそくそくそっ! 僕は必死に呼吸し、彼らを見上げる。まだ魔力が残っている足を使用し、飛ぼうとしたところで――頭が床に抑え付けられた。上げようとしても、持ち上がらない。まるで、頭の上に重石が乗っかっているかのような重さ。さっきから、なんなんだよっ、これっ!


「アラン、時間だ。精々がんばれ」


「アランちゃん、さようなら」


 口々に僕に向かって嘲るような声だけが聞こえる。ジェナの声だけが聞こえない。


「――ま――っ――」


 喉が締まり、声が出ない。無理やりに出そうとしても、咳き込んでしまう。


 その間にも、彼らの足音が遠ざかっていく。ふざけるな。このまま逃がしてたまるか。


 ふいに頭の重さが消える。ずっと持ち上げようと力を込めていた僕は、勢い余って、ひっくり返った。


 痛みに呻きながらも身体を起こすと、おかしなものが見えた。


「……なんだよ、これ」


 真っ白な洞窟内の奥には蠢く黒い壁が出来ていた。それが僕に向かってきている。よく見ると、壁だと思ったのは魔物だった。大量の小さいな魔物。黒い翼、黒い体躯。目がどこにあるのか分からない。とにかく同じ種類の魔物が大量に僕の方へ向かってきていた。


 声は出なかった。僕はすぐさまに飛んでくる魔物とは真逆の方向へ走り出す。これだったのか。さっき聞こえた変な音。大量の魔物がわさわさと飛んでいる音。ぎゃあぎゃあ、と赤ん坊のような鳴き声。


 魔力を込めたままの足を使って必死に魔物とは逆方向へ走る。頬を風が通り過ぎ、水音が足元から聞こえてくる。周囲はひんやりとしているのに、僕の身体が熱い。


 だめだ、あの量は。こんなに広い場所を埋め尽くすほどの魔物なんて倒せるわけがない。あっという間に餌にされてしまう。


 襲われる僕、鳥の様なあの魔物が僕の身体を覆い尽くす。黒く僕の人型にこんもりとし、魔物が僕の肉をついばむ。ぐちゃぐちゃとあいつらは美味そうに僕の肉を喰らう――


 頭の中に鮮明に浮かんだその想像は僕の魔力を底上げした。早く、早く逃げなければ。出口が無いわけじゃない。出たところで追ってこないという保証はないけど、このままではやられるのは確実だ。


 どこだ、どこだ。僕は必死に目を動かし、途中までしか伸びていない道を見つける。さっき僕やアラン達が通ったような道。それが何本も一定の間隔であった。


 あった!


 僕は見つけるや否や、足に力を込め跳躍する。力を入れ過ぎたのか飛び過ぎて、少しだけ道の上に影を作る。道の上に落ちるのがやけに遅く感じる。早くっ。ようやく道の床が迫る。


 着地した途端、僕は出口に向かって走り――


「くそっ!」


 歯を食いしばった。なんでだっ! 出口がある場所は、ダンジョンの意思を示すように、まっしろな壁で覆われていた。


 僕は走り出した勢いを止めず、手に魔力を集める。熱くなった手の勢いのまま、出口があるはずの場所を覆ってる壁まで近くなると、腕を振りかぶり――壁を殴った。


 壁は壊れなかった。走って勢いをつけた上に、これでもかと魔力で強化した手で殴ったのに。僕が拳をぶつけた部分は亀裂一つ入っていない。


「なんだよっ、これっ!」


 僕は迫って来る魔物のうるさい音を聞きながら、壁を何度も殴る。派手な音はするが、壁は壊れない。くそっ。魔物の方を見ると、さっきよりもかなり近付いている。ここにこだわっている場合じゃない。


 次の通路までは一足飛びで行ける距離ではなかった。僕はまた、床に降り、走り出す。片っ端から通路に乗っかっては、出口に出ようとするが、どこも壁が塞がっていた。硬さも同じ。僕がいくら殴ってもまったく壊れなかった。


 二度ほど同じことを繰り返し、息が上擦ってくる。まだ、死ぬわけにはいかない。アーサー達の告白を聞いた以上、あいつらを殺さなければ。こんなところで死にたくない。次の通路が見える。


 だが、視線の先、真っ白な洞窟内を僕の行く先からも黒い魔物がやってくるのが見えた。後ろから追ってきているのとまったく同じ。このまま進むわけにいかず、足を止める。その一瞬で次の通路が黒い魔物に吞み込まれる。


 


 逃げ道がない――


 頭が真っ白になる。どこにも行けない。出られない。身体が動かず、呼吸を必死に繰り返す。まずい、まずい、まずい。早くどうにかしなければならないというのに、どうしよう、という言葉ばかりが浮かぶ。


 魔物たちの鳴き声が大きくなる。


 ぎゃあ、ぎゃあ。


 頭の中が鳴き声で埋まる。


 お父さん、お母さん、村のみんな、リリー――誰か助けて欲しい。


 一瞬だった。僕の視界を黒い魔物が覆い尽くす。


「ああああああああああああああああ」


 僕は大声を上げ、腕を、足を、防御魔法で体を覆いながら、纏わりついてくる黒い魔物を振り払う。


 右耳を鋭い痛みが襲う。次いで左。苦痛に喘ぐ暇もなく、腕、肩、腹、足、どんどん痛くなっていく。


 なんで? 魔物は僕の防御魔法なんて関係なしに、僕の肉をついばむ。


 喰われる。さっきの想像が現実になる。


 ぎゃあ、ぎゃあ。


 音が遠くなった。痛い、痛い。どこかしも赤――


 見えなくなった。黒い。痛い。ぐちゃぐちゃ。なにかが僕の中を貪る。


 手が動かなくなった。腕を振り回しているはずなのに、何も感じない。どこが上で、下だ? 声が出ない。開いた口に何か入っている。ぐちゃぐちゃ。


 いつの間にか背中をひんやりとしたものを感じる。


 声も出したい、体を動かしたい。なのに、痛い、痛い、痛い。音もない真っ暗な世界で、なにかが僕を喰っている。ぐちゃぐちゃ。


 いやだ、死にたくない。殺したい。あいつらを殺さないと。


 ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ――背中が冷たくない。身体が揺れていることだけが分かる。


 痛くない――


 死にたくない。あいつらを殺さなければ。

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