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勇者パーティーに追放されたアランが望み見る  作者: 辻田煙
第1章「ショーの始まり」
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第12話「洞窟」

 真っ暗な洞窟、時折水滴が落ちる音がし、どこからか、誰かが戦っているのか戦闘音や魔物か人間か判別のつかない悲鳴が聞こえてくる。光源もなければ、まともに歩けないぬめっとしている足元。ただ進んでいくのだって気が滅入りそうな場所だというのに、階層が深くなればなるほど強力な魔物が現れる。


 まあ、勇者パーティーである彼らには関係ない。なにしろほとんどの魔物は姿を現わした途端に、アーサーかジェナが一発で倒してしまう。これでは地上のその辺を散歩しているのと変わらない。誰かが怪我した時の治癒や、遠距離からの攻撃の役割を担っているナンシーは暇そうにしており、一回も攻撃していなかった。おまけに、なんでなのかは分からないが、彼女はいつも子供の死体を探している。死体を持ち帰っていたこともあったが、あんなもの何に使うのかまったく分からない。


 ある意味、勇者パーティーの中で一番仕事をしているのは僕かもしれない。彼らが片っ端から倒していく魔物の素材を採集したり、時には荷物を下ろして斥候として先の様子を確認しに行ったり。僕だけが妙に忙しない。


 ナンシーあたりは魔法が得意なんてレベルではないくらいに僕よりも上の存在なのだから、僕よりも荷物を多く持てる魔法くらい使えるはずだった。でも、彼女は一切それを使わず、ただ子供の死体を探している。


 今回のダンジョン潜りには一応の目的があった。ダンジョンを十回層まで潜ったあたりで、急にアーサーが言い出したのだ。てっきり、普通に金稼ぎのためか依頼を受けたために潜ったのだと思っていたのだが、そうではないらしい。なんでも魔王軍の拠点がダンジョンの中にあるんだとか。アーサーはその拠点を潰すのが今回の目的だと言っていたが、本当にこんな深い階層にそんなものが存在するのだろうか。大体、今まで魔王軍絡みには一切僕を連れ出さなかったというのに、今更どういう風の吹き回しなのだろう。僕の中では不信感しか募らなかった。


 斥候として先に行くたびに毎回びくびくする羽目になる。慎重に、何かトラップがあっても引っ掛からないように。


「アラン、行け」


 アーサーがまた命令する。彼が指を差す先はダンジョンにしては妙に明るい場所のようだった。僕達が今いる通路の先、ぽっかりと人一人が通れそうな穴が空いている先から、真っ白な光が漏れている。僕はこんな場所は知らなかった。今までアーサー達と一緒に潜った時にも、同じような場所を見掛けたことすらない。僕は不安を覚えながらも、拒否するわけにもいかず、言われた通りに明かりの方へ向かった。


「さっさと行け、アラン」


「遅えぞっ!」


 アランとジェナが口々に僕を急かしてくる。彼らが行った方が圧倒的に安全な上に、確認するのも早いだろうに、何かのトラップや魔物がいた時におろおろするのをそんなに見たいのだろうか。


 穴の向こうから漏れる光へ僕は近付く。後ろの外野がうるさいが、ここまできて構う余裕はない。かなり眩しい。一体どういう場所なのか。


 穴を通り抜けると、上下左右、かなり広大な空間が広がっていた。僕が入って来た場所から真っ直ぐに道が伸び、途中で途絶えている。上はどういう原理か太陽のように真っ白に光っており眩しい。壁が全て白いせいで余計に反射がきつい。左右はどこまで広がっているのかどちらも途中で折れ曲がっており、完全に先を見通すことは出来なかった。


 僕は意味不明な空間に驚きつつも、そっと途中まで伸びている道から下を窺った。真下は、真っ青だった。床一面が水で覆われている。そうでない場所がない。深さは分からないが、空間全体がひんやりとしているせいで、なんとなく冷たそうに見えた。


「まあ、この先は行けないよな……」


 僕がいる方の壁には穴が幾つか空き、同じ様に途中まで通路が伸びているようけど、反対側の壁には行く手を立ちはだかるように、一切穴が空いておらず、行けそうな場所はなかった。ここから先に進めないのは明白だった。


 僕はすぐに戻り、この先に行けないことをアーサー達に伝えようとした、その時――


「えっ」


 間抜けな声が出る。ドン、と魔物がぶつかったような衝撃が背中を襲った。


 通路から足が離れる。


 冷や汗がどっと出る。


 まずい、落ちる――


 一瞬、時間がゆっくりになり、一気に現実に戻される。


 空中に身体が投げ出され、僕は咄嗟に手に魔力を集めて、落ちないように床に向かって風を放った。身体が浮き上がり、元の場所に戻れそうになる。


 これで、戻れる。


 だが――ドンっ、ドンっ。


 息が苦しくなるほどの衝撃が背中に何度も襲った。そのせいで、再び空中を真っ逆さまに落ちていく。


 僕は必死に、床に向かって風を飛ばした。何度も何度も。


 ドンっ、ドンっ。


 でも、僕の抵抗を嘲笑うかのように、背中を衝撃が襲う。


 落ちる、落ちる、落ちる。


 しまいには、風を出し続けて抵抗しているというのに、なにかが乗っかているんじゃないかと思うくらいの力が、僕の背中に押し込められた。


「うあああああああっ」


 叫んで、必死に抵抗しても、だんだんと白い世界の青に向かって、身体が落ちていく。


 だめ、だ。負ける――


 力の差を感じ始めた瞬間、ぐんっと、背中を押す力が強まり、いよいよ僕の身体は真っ逆さまに落ち――床の水に叩き付けられた。身体の中がひっくり返りそうになり、咳が止まらなくなる。水が口の中に入ってくる。喉を氷のような冷たい水が通り、お腹を冷やす。


 くそっ、くそっ。なんなんだっ!


 気付くと押された力は無くなっており、僕は身体を素早く起こした。


「っはあ、はあ、はあ……」


 水は見かけよりもずっと浅く、くるぶしくらいの深さしかない。だが、かなり冷たい。身体の熱が奪われる。


 呼吸を荒げながら上を見上げると、三対の目と合った。彼らは笑っていた。アーサー、ジェナ、ナンシー。みんな同じ笑顔。ひどく楽しそうにしている。

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