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ロジパズ少女  作者: 軌条
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三つ子マドリング

作中に登場する論理パズルは、一応私が作成したものですが、小野田博一さんの著作を大いに参考にしたものです。「論理パズル『出しっこ問題』傑作選」(講談社)に影響を受けてこの小説を書きました。最近の著作だと「論理パズル100」(講談社)がたくさん問題が載っていておすすめです。

登場する論理パズルはかなり難易度が高い(たぶん)ので、なんとなく目を通しただけでは、ほとんどの人は解けないと思いますが、パズル部分を読み飛ばしても楽しめるように執筆したつもりなので、是非楽しんでいってください。


 帰りの学活、教室にて。


「誰か欠席した桜井にプリントを届けに行ってきてくれ」


「しーん」


「誰だ今しーんとか言った奴は。織井か?」


「あ、あたしじゃないですよ、先生。ていうか今男子の声でしょ」


「織井な。お前は桜井のご近所さんなんだから、こういうとき率先して手を挙げなさい」


「嫌です。美鶴は親友だし役に立ちたいけれど、あの子のウチには行きたくないです」


「どうしてだ」


「最近便秘だからです」


「……は? 誰がだ」


「あたしがです」


「ええと、こういうときどう返事したらいいんだ。『下剤飲め』か『恥じらいを持て』か『脈絡のある会話をしろ』か……」


「『事情は分かったから織井司奈に頼むのはやめよううんそうしよう』を所望します」


「行ってこい」




     *




 隠坂中学校の正門を出た私は長い溜め息をついた。

 指定鞄を背負い、赤ネクタイを緩めて、赤青に塗り分けられた路面を喬木の新緑が彩る遊歩道を進む。

 右手には鉄製の柵に囲まれた小さな池(隠坂池)があり、左手には緑色の金網フェンスを隔てて隠坂小学校の小さなグラウンドが見える。

 遊歩道を真っ直ぐ進んで突き当たりを右に向かい遊歩道から外れると、数多の公園の向こうに隠坂高等学校の大層ご立派な裏門があるが、いつも閉まっている。

 環状に敷設された遊歩道周辺には学校の他に市営塾や保育所、託児所がある。

 遊歩道の環に内接する市営ホールでは、育児に熱心な近隣住民の支えもあって年に幾数回教育シンポジウムが催され、ここ隠坂市北区が『育英都市』だの『すくすく特区』だのと呼ばれる所以となっている。

 隠坂小学校と中学校は公立であり、受験などしなくても学区内に住む子供なら誰でも入れる。

 だが隠坂高等学校は偏差値七〇を超す名門校であり、特に医学部系の大学受験において実績がある。

 ときどき小中高一貫校だと勘違いしてわざわざこの近辺に引っ越してくる家族があるが、そんな間抜けな家庭の子供はとんだ道化である。


 私だ。


 両親の結婚生活はたった一年で終焉を迎え、男手一つで小生意気な娘を育ててきた父を私は尊敬している(離婚の原因が父の浮気だと判明したときは、さすがに幻滅したけれど)。

 だからといってろくに調べもせずにこんな地方都市に引っ越してしまう間違った方向性の行動力を評価するわけにはいかない。


 別にこの街が嫌いなわけではない。

 住みやすい街であることは間違いないし、クラスメートも概ね気の好い連中ばかり。

 特にこれからプリントを届けに行く桜井美鶴は、可愛くて頭が良くて性格も良い、完璧超人のカテゴリーに入れるべき人だった。

 幸運なことに、私は桜井美鶴と親友と言えるような間柄だった。

 彼女のおかげで、この街に引っ越してきて良かった、と思えることが度々あった。

 結果オーライだが、私は父の軽率さを危ぶんでいた。

 その隙の多さが女性の母性本能をくすぐるのか、父はやたらとモテた。

 ただしやっている仕事は下請けの下請け、年収は推して知るべし。

 優良物件とは言い難い。

 浮気をしちゃうような意志薄弱だし、授業参観日に油まみれのツナギで来るようなボンクラだし。

 どうして私は遊歩道を歩きながら父にムカムカしているんだろう、きっと私が父に似た部分を抱えていることを、心のどこかで自覚しているからだ。

 本当、うんざり。


 どの辺が父に似ているのかと言えば、たとえばいつも泥まみれであるという点である。

 男子主体のサッカー部にムリヤリ入部し、雨にも負けず風にも負けず、年中スライディングを繰り返している(今日は美鶴の家を訪れるということで部活はサボった)。

 教育熱心な地区だけあって、私が夕刻、ズタボロの状態で下校していると、あらぬ想像をして騒ぎ立てる人がいる。

 きちんと説明するのが面倒でテキトーに応対して問題を大きくさせてしまうのも、父と似ているかもしれない。


 警察を呼ぶと頑固に言い張ったおばさんを必死に宥めすかした思い出の遊歩道にて、私は立ち止まった。

 今日配布されたプリントは三種類、『保険便り』と『五月の献立表』は問題ないが、三枚目の『家庭訪問のお知らせ』には引っ掛かった。

 父は仕事漬けの毎日で、深夜に帰宅し早朝に出立する。

 家庭訪問に適した時間帯に在宅している可能性は低い。

 去年は無理に仕事を休んで家庭訪問に応じてくれたが、さすがに心苦しかった。


 桜井美鶴の家庭も似た状況であった。

 母親が夭逝して男親しかいないのだ。

 しかもあそこには三つ子の弟がいる。

 四人姉弟だ。

 ウチの父は一人娘の世話だけでも悲鳴を上げているのに、いったい美鶴の父親はどういう手段で育児をこなしているのだろう。

 職業は弁護士で、そこそこ忙しいというような話を聞いたことがあるが……。


 桜井美鶴の家は遊歩道の北端から少し坂を上り国道を跨いだ先にある。

 巨大な歩道橋をせっせと昇っているとき凄まじい倦怠感に襲われて引き返したくなった。

 私の家はこの歩道橋を渡らず国道沿いに進んだ先にあるのだ。

 だがプリントを受け取ってしまった私は美鶴の家の、少なくとも郵便受けには到達する義務がある。


 どうか、あの悪しき三つ子と出会いませんように……。


 私はかなり必死に祈りつつ向かったのだが、三つ子の内の誰かが必ず家の前を監視しているらしく、そろりそろりと郵便受けに近付いた私の目の前で玄関の扉が開いた。


「司奈だ! 司奈が来たよー!」


 三つ子の内の誰かの甲高い声が響き渡る。

 私は郵便受けの前でフリーズしたが、ひょこひょこっと姿を現した三つ子を一瞥するなり、脱兎の如く逃げ出した。

 近くを通りかかっていた同じ中学校の生徒を唖然とさせる。


「待てー!」


 プリントを郵便受けに入れる余裕がなかった私は、せっかく三つ子をぐんぐん引き離していたというのに、結局は止まらざるを得なかった。

 とぼとぼと美鶴の家の前に戻ると、三つ子が腕組みして待っていた。


「お姉ちゃんの」


「プリントを」


「持ってきたんでしょ?」


 誰が誰なのか分からないが、とにかく似ている三つ子にそれぞれ一枚ずつプリントを渡した。

 三つ子はしげしげとプリントの中身を見ている。

 自分は食べられないくせに「明日はカレーだ!」と歓声を上げていたりする。


「じゃ、あたしはこれで」


 引き攣った笑みを浮かべながら退散しようとした。

 が、予想通り手足をがっちりと掴まれて家の中に引きずり込まれた。

 三つ子の六つの瞳から逃れるのは容易ではない。


「ちょっと待って、きみたち、これからあたしは友達とショッピングの約束が……」


「嘘ばっかり」


「どうせ司奈に友達は」


「美鶴姉ちゃんしかいないんだろ」


 見事な指摘をした三つ子に私はうなだれた。

 こいつらは妙なところで勘が働くので必死に抗弁しても無駄だろう。

 ああ私は美鶴のことは好きだけどこいつらには慣れそうにないよお父さん助けて油まみれで構わないから。




     *




 正確に言うと私は男友達ばっかり、女友達が美鶴しかいないのである。

 お上品なクラスメートと私はあんまり馴染めず、そしてなぜかとびきりお嬢様な美鶴とだけ話が合った。

 美鶴とだったら何時間おしゃべりしても飽きないのだが、彼女の弟どもときたら、私が避けたい話題ばかり差し向けてくる。


 たとえば、


「司奈ぁ、最近勉強どう?」


 とか、


「司奈ぁ、最近お尻大きくなったんじゃない?」


 とか、


「司奈ぁ、最近ニキビ多過ぎじゃない?」


 とか。


 ねちねち三方から責めてくるのでこちらは泣きたくなる。

 泣くと攻撃はやめてくれるんだろうけど、小学三年生のガキどもに泣かされたなんて、死ぬまで後悔してしまいそうだ。

 お尻の穴を締めるイメージで、ぐっと踏ん張る。


 私は居間に通されてソファに行儀良く腰掛けていたが、正面に立って私の足を蹴飛ばしながらねちねち責める研一だか健二だか賢三だか分からない少年を見据えた。


「あのさ、一つ聞きたいんだけど……」


「なんだよ、司奈」


 私は三つ子たちの顔を順番に見回した。

 顔も服装も全く同じなので見分けがつかない。

 しかし今日の彼らは一風変わっていた。


「どうしたの、その額の付箋は?」


 三つ子たちの額には、AだのBだのCだの書かれた付箋が貼り付けてあった。

 三つ子たちは肩を竦める。


「付箋じゃなくてポストイットだよ。家の中でぼくたちの区別がつくように、お父さんが装着を義務化したんだ。まるでキョンシーみたいで気に喰わないけどね」


 だったら三つ子の服装とか髪形をそれぞれ変えてしまえば良いと思うのだが、分かりやすいのは良い。

 普段からこのガキどもの分身の術の如き佇まいには辟易していた。

 私は早速、Aと書かれた付箋の少年に、


「じゃあ、研一、お客さんにお茶持ってきて。紅茶がいいな、お茶請けは煎餅で」


 しかしA少年は首を横に振った。


「ぼくは健二だよ」


「えっ、Aが研一で、Bが健二、Cが賢三じゃないの」


 三つ子は揃って腕を組み、大人びた動作で首を傾げて溜め息をついてみせた。


「誰がそんなこと言った?」


「Aが研一でBが健二だって?」


「騙されやすい人間の典型ですな」


 三つ子の言葉に文句を言おうと思ったが、いつもと状況が変わらないだけなのだから、そうカッカすることもあるまい、と思い直した。

 こいつらが私を歓迎してくれたことなんてない、もとより覚悟はしてきている。


「アンタたち、そんな調子で大丈夫? ちゃんと美鶴の看病をしてあげてるんでしょうね」


 私の猜疑に満ちた眼差しを、心外そうにC少年が受け取る。


「ぼくたちはちゃんとやってるよ。おかげでお姉ちゃんの具合もだいぶ良くなってきてるんだ」


 私は早いところ美鶴にお見舞い申し上げたかったが、三つ子はもっと相手をしてくれよぅという顔をしている。

 美鶴が弟たちの相手をしてあげられなかったので、ストレスが溜まっているのかもしれない。


「ええと、Aが健二でCが賢三じゃないとなると……、ああ、きみが研一だね」


「ぼくは賢三だよ」


「えっまさかのフェイント?」


 三つ子は少し呆れたように、


「本当、騙されやすいよね、司奈は」


「詐欺師の良いカモだよ」


「クーリングオフとか今の内に勉強しておきな」


 小学三年生が憐れむ中学二年生。

 色々と反駁したいが、このガキどもは無駄に利口であり、きっと私がムキになってああだこうだ言っても、詭弁を弄して難なくいなしてしまうだろう。

 どうしてこいつらには美鶴が完備している慈悲深さだとか優しさだとかが備わっていないのだ。

 美鶴のような素晴らしい女子中学生と一つ屋根の下で生活していれば、自然と他人を思いやり尊ぶ精神が身に付くものなんじゃないのか。


 私が理不尽な怒りを感じていると、スリッパがフローリングに擦れる音が聞こえてきた。

 私と三つ子が視線を動かすと、ちょうど桜井美鶴が居間に顔を出した。

 殺伐としていた私の心に大輪の薔薇が咲く。


「あ、司奈ちゃん」


「美鶴」


 美鶴は熱が治まっているのか、普段通りの顔色に見えた。

 ピンク色の寝巻きを着ているおかげもあるかもしれない。

 裸足で登場なんて、レアだ。

 無防備な姿の彼女を見た私は何故だか少し興奮した。

 もちろん私はサッフィズムでもバイセクシュアルでもないけれど、綺麗な女の子を見て、ああ撫でたいなあ仲良くしたいなあ食べちゃいたいよ、という欲望とは無縁ではいられない。


 美鶴は天使の微笑みを見せて、


「私の部屋においで。風邪移しちゃうかもしれないけど……」


 私は思わずウフフと笑みを零した。


「ああ美鶴の風邪ウイルスならお上品だから大丈夫。ふふ」


 バッカじゃねえのとかウイルスも司奈相手には遠慮しねえだろうなとか三つ子が口々に言って私の袖を引っ張ったが、美鶴がたしなめるとあっさり手を離した。

 この弟どもは姉に滅法従順なのだ。


「じゃね」


 私は病床の美鶴が助けに来てくれないのではないかと心配していたから、いつも以上に三つ子たちを恐れていたのだが、取り越し苦労だったようだ。

 三つ子の恨めしそうな表情を眺めながら、美鶴の部屋に入った。




     *




 美鶴の部屋は異次元空間である。

 生活感がないわけではない。

 ごみ箱が部屋の隅に置いてあるし、栞が挟まった本が学習机の上に置かれているし、本棚に収まっているのは学校の教科書や小説ばかりでもなくマンガもある。

 綺麗に掃除してあるが全く埃がないわけではないしベッドのシーツにも皺が見られる。


 なのにここには世の汚穢が皆無なのである。

 私はこの部屋を訪れる度に、不思議に思う。

 部屋の壁紙は淡い桃色でポスター一つ貼られていない。

 部屋上部が狭まっていて実際以上に広く感じる空間だった。

 行儀良く重ねられたカラーボックスからはうさぎだのくまだののぬいぐるみが溢れ返っており、まるでこれまで気ままに動いていて私の登場に驚き慌てて元の居場所に戻ったかのような躍動感があった。

 ゴリラのぬいぐるみが手を振っているように見えるがきっと錯覚だろう。

 クローゼットの上部の壁には校外ボランティア活動を称えた賞状が黄金色の額に収まっている。


「ごめんね、いつも。研一たちが失礼してしまって」


 ああ何と慎み深い「失礼してしまって」なのだろう。

 私のような卑俗の人間はその清廉なる声音と瞳にドギマギし、ひたすら恐縮するしかない。


 美鶴は絶世の美少女である。

 もしかすると実際にはそれほど美人ではないのかもしれないが、もはや彼女の立ち居振る舞いに魅力をキュンキュン感じてしまっている私や同級生や近隣住民の人々は、彼女こそが美少女の典型なのだと盲信していた。

 だからたとえ美鶴のことをよく知らない人が美鶴を指差して「大したことない。ウチの近所にはもっと綺麗な女の子がいる」と言ったところで、私たちは全く動揺せず「きみの目は節穴か? 普段から美しいものに触れていない証拠だな、これ、美術展のチケットね」とでも反駁して自らの審美眼を一片たりとも疑わないに違いない。


「お見舞いに来てくれてありがとう、司奈ちゃん」


 美鶴がいつの間に用意したのかティーカップを小卓に並べながら言う。

 私はカーペットの上に腰を落ち着けて曖昧に笑った。

 学校帰りなので見舞い品なんか持っているわけもないが、用意してこなかった自分が何とも愚かしく思え始めた。


「えーとね、もちろんそれもあるけど、今日学校で貰ったプリントを届けに来たんだ」


「あっ、そうか。私、初めて学校休んだから、よく分からなくて。休むと友達がプリントを届けに来てくれるんだね。ありがとう」


 ありがとう、という言葉は何気ないものだ。

 しかしその言葉の響きに私はいたく感動した。

 感涙してもいいくらいだった。

 美鶴の独特の抑揚には何者も屈せずにはいられない。

 心の芯から暖まると言おうか。

 無限の母性が滲み出ていると言おうか。

 触れてはいけないサンクチュアリが剥き出しになり向かい立つ者を厳粛な気持ちにさせると言おうか。


 女子である私がこうなのだから多感な中学男子が美鶴の前で正常でいられるはずがない。

 ああ今日は良い天気ですねえ、雪降ってますけど、というぎこちない会話の典型をなぞるのが関の山である。


 だから美鶴がこんなにも魅力いっぱいなのに彼氏がいないという事実は驚くに値しない。

 弟の世話で忙しい彼女は部活にも所属していない。

 生徒会長だって狙える人気者なのに地味な図書委員に甘んじている。

 彼女の慎み深さは世の淑女の模範である。


「風邪、大丈夫? 治ったの?」


 私が思い出したように言うと美鶴は弱々しく笑った。


「元々大したことなかったんだけど、お父さんが休んでいけって。今日は家事しなくていいって研一たちも張り切っちゃって。おかげで楽させてもらってる。得しちゃった」


 いたずらっぽく笑った彼女に私は見惚れた。

 よだれが垂れそうになったのですする。

 そして咳払いする。


「じゃあ、明日、来れるの。クラスの皆、心配してたよ。美鶴休んだことなかったから」


「うん。行けると思うよ。だけどお父さんがどう言うかなあ。単なる風邪なのに大学病院にコネがあるって言って電話かけようとしたんだから」


 美鶴は苦笑した。

 父親の行為に少し呆れているようだった。


「へええ」


 私はしかし大袈裟だとは思わなかった。

 美鶴に何かあっては人類全体の損失である。

 この太陽系における一大事と言っても過言ではない。


「お父さんと仲が良いんだね。ウチの父親なんか」


 私は父親がいかにダメダメな人間なのか長々と披瀝するつもりだったが、美鶴の笑みが薄まった。

 美鶴が誰かの悪口の話題になると悲しげな表情になるのを思い出し、急遽方向転換した。


「……ウチの父親なんか毎日帰ってくるの遅いし、料理は下手だし、過保護だし、ファッションセンスはないし、安月給だし、休みはほとんどないし、音痴だし、未だに娘と一緒に風呂に入ろうとするし、浮気で離婚しちゃうし、夜中にいかがわしいDVD見て娘にばれてないと思ってる痴愚魯鈍だけど、この前の家庭訪問とか授業参観じゃあ仕事休んで来てくれたし、他人から見たらそこそこイケメンらしいし、早起きだし、あたしに遺伝子分けてくれたし、食事中ゲップしないし、これまでちゃんと育ててくれたし、まあ良い父親かな、うん」


 美鶴は何度も頷いて笑っていた。


「仲が良いんだね。お父様、確かに凄くカッコいいものね」


「あ、そうかな。そこそこだよ。でも、ありがとう」


 私のありがとうは美鶴の真似をしたものだったが、似ても似つかなかった。

 月とすっぽんと喩えてみてもいいのだが、私は月を観賞する習慣がないしすっぽん料理は好きである。

 何だかそぐわない気がしたので「凄く違う」とだけ言っておく。


 その後も何だかんだと話したが私は美鶴と話しているだけで心が洗われるのだ。

 どんな話題でも楽しかった。

 問題は美鶴がどう感じているかだが、私がそろそろ帰ろうとすると寂しそうな顔をしてくれたので、きっと彼女も楽しんでくれていたのだろう。

 良かった。徳を積めた。これで来世も美鶴の友達だ。


「じゃあ、また明日ね」


「うん。今日は来てくれてありがとうね、司奈ちゃん」


「毎日でも来たいよ。明日からそうしようか?」


 私が廊下に出ると、ドアの前に整列していた三つ子が慌てて退散した。

 聞き耳を立てていたらしい。

 まだ付箋を額に貼っており、キョンシー状態だった。


「おいで。ほら、司奈お姉ちゃんにバイバイは?」


 美鶴が手招きすると三つ子がひょこひょこ近づいてくる。

 そして私を取り囲んでバイバイ三唱した。

 彼らは私を物欲しそうに眺め、何かに飢えているように見えた。

 美人のお姉さんと別れるのがそんなに名残惜しいのかい?

 それとももっとイジワルしたかったのかな?


「あー、バイバイ……」


 私は苦笑しながら玄関に向かった。

 靴を履き鞄を背負い直す。

 重厚な扉は鍵がかかっていたが、それが特殊な形状をしており、外すのに少し手間取った。

 やっと鍵を外し、手間取ったことが気恥ずかしくて美鶴を振り返ろうとしたそのとき。

 美鶴が息を呑んだ。

 そして、


「ぎゃあああああああああああぁあああーす!」


 私は私の叫び声を聞いた。


 肛門が爆発した。


 肛門の括約筋が役割を放擲し腸壁の蠕動が過剰に活発となり直腸膨大部が歪む。

 急遽捻じ込まれた異物が巨きな連鎖爆発を起こしスタングレネードよろしく痺れの衝撃波を伝播する。

 相対論が基づくのは特殊相対性原理と光速度不変の原理であるが私の身に起こった異常はあらゆる慣性系を超越しなお光の速度で脳髄を打擲するまさしく相対論でないと説明不可能な体験であった。

 お花畑が一瞬見えたが脳組織に刹那的な虚血が発生した所為であろう。

 あるいは私に死んだほうがマシかもしれないと神がお告げを下したのかもしれぬ。

 恐れていた事態が起きてしまった。

 これこそが私の恐れていた……。


「わーい、カンチョー成功だ!」


 三つ子が飛び跳ねて喜んでいる。

 私は玄関の扉に手をかけたその姿勢のまましばらく硬直していた。

 首だけ捻じ曲げて三つ子の忌々しきダンスを目視する。

 お尻の筋肉に力を入れようとしても躰の芯を貫いた衝撃が、ちょうど避雷針がさっさと電流を流し捨ててしまうのと同じように、あらゆる活力を分散させ消し飛ばしてしまう。


 美鶴が青褪めていた。


「大丈夫、司奈ちゃん――研一健二賢三! お姉ちゃん怒るよ!」


 美鶴が珍しく声を荒げると三つ子はさっさと退散した。

 ABCシールを額に貼りつけたまま。

 私は少し遅れてお尻を両手で押さえた。

 くねくねと躰を曲げ、少し前屈みになりながら美鶴に引き攣った笑みを向ける。


「ごごごめん美鶴。……トイレ貸してもらっていい? 今ならまだ間に合うかも……」


「う、うん。どうぞ、こっちよ」


 遅々として動作で靴を脱ぎ、鞄をスリッパの上に落とし、よちよちと、初めて二本足で歩く幼児のように、進んだ。

 三つ子が雁首揃えて私を見ている。


「わーい、ダメージは甚大だぞー」


「きっとこれからお通じがあるんだよ」


「音を聞こう、音を!」


 私は泣きたくなった。

 泣いたらきっと三つ子も私に同情してくれるのだろう。

 いやこの状況だと笑って指差すだけかもしれない。

 ああああ漏れそうだ……。

 三つ子がケタケタ笑っている。

 ふと美鶴を見ると、顔面蒼白、三つ子を凝視したまま動きが硬直していた。

 表情は悲愴であり、自分の弟たちがこんなことをするなんて信じられない様子であった。

 そして、淡々と、静かな怒りを込めて、三つ子に言い放った。


「研一健二賢三。あなたたちは、最低です」


 三つ子は途端にしゅんとなって居間に引っ込んだ。

 私は脂汗を浮かべながらなんとかトイレに辿り着き、美鶴の心配そうな顔に精いっぱいの笑顔を向けた。


「ごごごめんねなんか」


「どうして謝るの。ウチの弟がこんな……」


 だって、美鶴の家のトイレを穢してしまうじゃないか。

 私はそれ以上何も言えずトイレに飛び込み、スカートとパンツを勢い良く下げた。

 便座に腰掛けてその暖かさにむしろ罪悪感を肥大させた。

 そしてどうしても発生してしまう種々の悪しき音を掻き消すべく叫んだ。


「だから言ったんだ便秘だってぇええええ!」


 一週間ぶりの秘結解消であった。




     *




 トイレから出た私は大層やつれていたと思う。

 洗面所で手を洗い、恥ずかしさと無念さで顔を赤黒くさせながら玄関に向かう。

 美鶴の姿がなかった。

 私にはちょっと意外だった。

 きっと慰めてくれるだろうと思っていたのだ。

 あの子の無限の優しさは万人に等しく分け与えられる。


 もしかすると合わせる顔がないだろうと思って気を遣ったのかもしれない。

 しかし今は美鶴の微笑を網膜に焼き付けておきたかった。

 あの子の微笑にはあらゆる不浄を消し飛ばす神秘的な力がある。

 今の私にこそ必要な力である。


 居間を覗くと三つ子が悄然と立ち尽くしていた。

 表情は一様に険しい。

 もっとも、彼らが別個の表情を浮かべていることは稀なのだが。


 こっそり家に帰ろう。

 そう思って歩を進みかけたとき、居間の長テーブルの下から白い足が見えた。

 裸足である。

 形の良い親指の爪がこちらを向いている。

 微動だにしない。

 三つ子はテーブルの脇に立っている。

 一人として欠けていない。

 そして三つ子は一点を見つめている。

 ちょうど白い脚の持ち主の顔があるであろう位置。

 私は驚いた。

 何に驚いたって、己の頭の回転の遅さにである。

 鳥肌が立つ。

 あの足は美鶴のではないか!


「どいて」


 私が居間に踏み込みテーブルを廻り込むと、苦しそうに息をしている美鶴が顔を私以上に赤くして倒れていた。

 風邪がぶり返したのか。

 さっきまで元気そうだったのに?

 美鶴が私の姿に気付いて微笑する。


「ああ、司奈ちゃん。何だか急に躰がちょっとだるくなって、今、休んでるの……」


 倒れているようにしか見えなかった。

 すぐそこにソファがあるのに、そこまで移動する元気さえないのか。

 私は冷や汗をかいていたが、躰の芯まで凍りついた心地だった。


「とにかく、ベッドまで行くよ」


 私は美鶴の腋下と膝裏に腕を回し、何とか持ち上げようとした。

 普段運動していて一部の男子からゴリラと綽名されている私のマッスルであっても、私よりも身長の高い美鶴を運ぶのは至難の業であった。

 中腰になったとき、今まさに私はカンチョーされるのに適した格好をしているなと自覚した。

 三つ子は不安げに私をただ見つめている。

 きっと美鶴に「心配しないでいいから。ここでちょっと休めばすぐに回復するから。大丈夫だから……」的なことを言われ、手を出すに出せないのだろう。


「手伝え、おら、悪ガキども!」


 怒鳴るつもりはなかったのだが、もしかすると先ほど三つ子に食らった一撃を根に持っていたのかもしれない。

 三つ子はびくりとして、慌てふためき、美鶴を支えた。

 四人がかりで一人の人間を運ぶというのは、実際にやってみると恐ろしく非効率的な行為だった。

 廊下は狭くて通り難いし、互いにぶつかって躰を支え難いったらないし、三つ子は意思疎通ができるかもしれないが私は奴らの考えなんて読めないし。

 私は腋だけ持って、足は三つ子に任せておけば良かったかもしれない。

 そんな反省をしたときには美鶴の部屋のベッドに到着していた。

 私は苛立ちを隠さず、三つ子を見る。


「薬は? 何かないの」


 三つ子はもごもごして何も言おうとしない。

 ABCの付箋が依然額でひらひらしているのが滑稽だったが、もちろん私の口角はぴくりとも持ち上がらなかった。


「もう、飲んだよ……」


 美鶴が重たそうな瞼を持ち上げて言う。

 私は美鶴に精いっぱいの笑みを向けた。


「寝てて良いよ。あたしが見舞いに来て美鶴が症状悪化させちゃったら、本末転倒だからね」


「ごめんね……」


「どうして謝るの。――ほら、三つ子、濡れタオルとかないの。熱が凄い」


 私はあれこれ指示を下しながらも、じわじわと湧き上がる罪悪感と戦っていた。

 私が来なければ美鶴は風邪をぶり返すことはなかったのではないか。

 だって、明らかに、美鶴は私がカンチョーされたことにショックを受けて熱を出したのだろう。

 私が便秘なんかしているのがいけなかったのだ。

 私がカンチョーされても平気な顔をしていたら、きっと美鶴へのショックも少なく済んだに違いないのだ。

 美鶴は責任感が強い。

 だから自分の弟が友達を傷つけたことに堪えられず、感情と肉体がおかしくなってしまったのか。

 私が悪い。

 私が……。


「司奈のせいだからな」


 美鶴の部屋を三つ子と共に後にすると、Aと額に貼りつけた健二たぶんが言った。

 私は耳を疑った。

 健二は口を尖らせている。

 研一と賢三は不安げに私と次男を見比べている。


「……あたしのせい?」


「そうだよ。司奈がトイレでウンウン唸っている間、姉ちゃんはぼくたちを並べて正座させて、説教したんだ」


 説教? 私は美鶴がそんなことをするシーンを想像したが、全くうまくいかなかった。


「姉ちゃんがこんなことするなんて初めてだった。説教している間、姉ちゃんはどんどん顔が赤くなっていって、声が掠れていったんだ。それでも説教はやめずに、声が裏返って、涙をぽろぽろ流して、ついには――」


 うええええん、と研一が泣き出した。

 それにつられて賢三もべそをかく。

 健二は一人頑張っていたが既に涙ぐんでいた。


「司奈のせいだよ! 司奈のせいだからな!」


 私は三つ子に軽い怒りを感じていた。

 美鶴に怒られて多少は反省しているかと思っていたのに。

 三つ子たちの言葉を聞いたら美鶴はますます体調を悪くするだろうな。

 それと共に、私は三つ子たちに憐れみを抱いた。

 怒りよりもずっとずっと大きかった。

 きみたちの大切な姉の具合を悪くさせちゃってごめん。

 そうやって深く頭を下げたかった。

 私さえ見舞いに来なければ司奈は元気になれたのだ。

 私が無防備に三つ子に背中を向けたのがいけなかったのだ。

 三つ子たちにカンチョーされたのは初めてではなかったのだから警戒すべきだった。

 美鶴の前ではカンチョーしないだろうという油断がこんな事態を招いたのだ。

 私が便秘なんてしていなければ。

 今朝遅刻覚悟でトイレに粘っていれば、もしかしたらこんなことには……。


 私は青褪めていた。

 私と研一は睨み合い、世界が硬直して悠久の時間が過ぎたような心地がした。

 そのとき玄関から物音がした。

 私と三つ子が弾かれたように玄関を見る。

 黒いスーツに身を包んだ小柄の中年男性が、スーパーのビニル袋を両手に提げて、家に入ってくるところだった。

 髪はふさふさで色白で目元に僅かばかりの皺がある。

 口元が柔らかく美鶴とそっくりだった。


「ただいまー。美鶴の好きなレモンヨーグルトを買ってきたよー。三つ子どもにはプレーンで十分だなー。こら誰だー、プレーンを馬鹿にしたのはー。プレーンが基本なんだぞ。基本をおろそかにする奴にヨーグルトは相応しくなーい」


 そう言って男性は玄関に置いてある鞄を発見し動きを止めた。

 そして廊下に立ち尽くす私を見る。

 三つ子が走って父親に抱きついた。

 三人とも号泣している。


「お父さーん! お父さーん!」


 おいおい涙と鼻水を擦りつけてくる三つ子に驚いていた美鶴の父親だったが、私を見据えると首を傾げた。


「もしかして、織井司奈さんじゃないかな? 美鶴のお友達の」


「あ、ええ……」


 私は美鶴の父親と会ったことはなかった。

 どうしてあちらは私を知っているのだろう。


「いつも美鶴から聞いているよ。活発かつクールで、ミステリアスかつ可愛らしい女の子だと。見舞いに来てくれたんだね? どうもありがとう」


「ああ、ええ、でも……」


 美鶴の中で私はそんな評価なのか。

 活発というのは分からないでもない。クールというのも、授業中でのやる気のなさを見たら、理解できなくもない。

 だがミステリアス? そんなこと誰にも言われたことない。

 天然の上品な言い換えだろうか。

 可愛いって評価は、まあ、当然だが。


「こいつ! 姉ちゃんを殺そうとしてんだよ!」


 A少年こと健二が私を指差して叫ぶ。

 父親は目を丸くした。

 私は唇を噛む。


「殺すって……、どうやって?」


「ウンコを垂れ流して殺すんだよ!」


「ウン……、それでどうやって人を殺すんだ? 臭いを嗅がせるのか、それとも無理矢理喰わせて窒息させるのか? そりゃむごい」


「とにかくそれで殺そうとしたんだから間違いないよ! ケーサツ呼ぼうよ!」


 ああだこうだと三つ子が叫ぶ。

 父親は苦笑して私を見た。

 私も笑みを返した。

 子供の支離滅裂な発言に困惑しているのだろう。

 その心情は理解できる。


「織井さん。一つだけ聞いてもいいかな?」


「はい」


「どうして美鶴を殺そうとしているのかな?」


 あ、信じるんだ。私の笑みは引き攣った。





     *





「教育ってのは難しいものでね」


 美鶴の父親、桜井規夫さんは、私を書斎に招き、オレンジシュースを勧めてくれた。

 私はそれが暖かいことに戦慄し、すぐに口をつける気にならなかった。ホットオレンジ?


「子供は親に信じてもらいたいものなんだよ。親はどれだけ荒唐無稽で阿呆なことだろうと、とりあえず最初は子供を信じてあげないといけない。もちろんちゃんと誤りは正してあげないと単なる甘やかしになるが、頭ごなしに否定することはよろしくない」


 規夫さんは煙草の煙をくゆらせる。

 規夫さんの書斎には換気扇がついており、煙の筋が直線的に伸びていく。

 バリバリバリという換気扇の騒音には辟易したが、不思議と会話の邪魔にはならなかった。


 客間としても頻繁に使われる部屋らしく、二対のソファにガラス製の丸テーブルが据えられていた。

 種々の雑誌が置かれたラックが傍にあり、まるで歯医者の待合室みたいだった。

 辺りに漂う仄かな緊迫感も、それと共通している。


「……申し訳ございませんでした」


 私は規夫さんの言葉に共感するわけではなかった。

 悪いことは悪い。

 即座に叱ってあげなければ子供が大人の曖昧な態度に首を傾げて、何かしら勘違いしてしまうということもあるのではないだろうか。

 あるいは大人を侮ることも。


 しかし私は深く頭を下げた。

 私にとって、美鶴を傷つけるもの全てが悪であり、すなわち私は悪であり、謝ること以外に何もできやしなかった。

 数秒待ってから顔を持ち上げると、規夫さんは明後日の方向を見ていた。


「……つまり、あれだ、一から説明してくれるかな? 美鶴に話を聞いても、私が悪いの一点張りでね」


 私は、一抹の恥ずかしさはあったが、全てを説明した。

 便秘のことも、カンチョーが招いた悲喜劇のことも、一切合財。

 説明を終えてふと時計を見ると午後五時半を回っていた。

 しばらく規夫さんは言葉を発さなかった。

 煙草の灰をガラス製の透明な灰皿に落とし、窪みに沿って置いた。

 顔面を両手で覆い、何度も瞼をこすった。

 そして、ふふふという吐息を漏らし始めた。


「……おじさん?」


「織井さん、きみは全く悪くないじゃないか。ウチの三つ子が全面的に悪い。女性にカンチョーするなんて、これは厳しく叱らないといけないな」


「いえ、でも……」


「親として、謝るよ。済まなかった」


 規夫さんは頭を下げた。

 私も負けじと頭を下げる。

 それを見た規夫さんは上げかけた頭をもう一度下げ、それを確認した私も頭を下げ続ける。

 二人してそんなことを続けた。


「……そろそろいいかな」


「はい。そうですね」


 私と規夫さんは頭を持ち上げて笑い合った。

 美鶴と似ている、と思った。

 人を安心させるような笑みに、柔らかな声。

 少し間延びしている口調だが不快感はない。


「三つ子はね、悪気があるわけじゃないと思うんだ。ただ、大好きな美鶴が風邪を引いてダウンしてしまっているから、少しナーバスになっている」


「ええ……」


「織井さんへの攻撃が望外の結果をもたらしてしまったので動揺し、しかも普段は聖母のように穏やかで優しい美鶴から怒られた。まさしく二重のショックで、そこに美鶴が倒れてしまうという追い打ちがあった」


 親をして聖母と言わしめる美鶴の人徳に感服しながら、頷いた。


「そうですね……」


「だから錯乱していたんだ。研一たちも根は優しい良い子なんだ。嫌いにならないでやってくれるかな?」


「ええ、それは……。三つ子にカンチョーされたの、初めてじゃないんです。美鶴は知らなかったみたいなんですけど」


「そうなのかい。初めてじゃないのか。なおさら厳しく叱らないといけないな。でもどう切り出すかね。今叱っても頭に入らないだろうなあ……」


 規夫さんが肘をついて考え始めた。

 私はそろそろ帰らないとなあ、と時計の文字盤を凝視した。

 壁に掛けられた時計にはイルカの絵が描かれていてその鼻先がちょうど六時になっている。

 時計の長針がたった今イルカの鼻先を横切ったところだ。


 コンコン。

 規夫さんの書斎のドアにノックがあった。

 美鶴のはずがない。三つ子だ。

 私に謝りに来たのだろうか。

 一瞬そう思ったが、敵意のこもった彼らの眼差しを思い出した。


 寂しかった。

 あの子にあんな眼で見られるなんて。

 美鶴はこの街に引っ越してきて初めて出来た友達だ。

 その弟とも親しく遊んできたつもりだ。

 カンチョーされるようになったのは最近だが、それまではなかなか仲が良かったと認識している。

 カンチョーされるようになって私が三つ子を避けるようになった。

 とにかく連中は容赦がないし女子の恥じらいというものを理解していない。

 何よりカンチョーされる瞬間を誰かに目撃される女性の気持ちというのは複雑なのである。

 猛然と怒りたい気持ちはあるが、あんまり騒いでも自分の名誉に関わる。

 一緒になって笑えば再び狙われてしまうだろう。


 ドアが開く。

 果たして、三つ子の一人が入ってきた。

 額には付箋が貼られていない。

 したがって誰なのかは分からない。

 三つ子の内の誰かは私を目指してぎこちなく歩み寄ってきた。

 眼が充血している。

 泣き腫らした双眸が痛々しい。

 規夫さんが立ち上がる。


「どうしたんだ、ええと、研一か?」


 父親でさえも三つ子の区別はつかないらしい。

 私は美鶴の弟を見つめた。


「何か用、研一?」


「オマエに挑戦する!」


 えっ?


「桜井家に代々伝わる由緒正しい決闘法に則り、オマエに決闘を申し込む!」


 ええっ?


「今から三人の証言者が現れる。カンチョーの犯人が三つ子の内の誰かだったのか、当ててみせろ! さすれば三つ子一同オマエに陳謝します」


 ぺこりと頭を下げた研一だか健二だか賢三だか分からない少年は踵を返し書斎を出て行った。

 訳が分からず規夫さんを見た私は、彼が頭を抱えて苦笑しているのを発見した。


「……これは、いったい……?」


「三つ子たちめ、今度TPOという言葉の意味を教えないといけないな……」


 規夫さんは首を振りながら説明する。


「以前、三つ子たちが、自分が研一なのに健二だと言い張ったり、賢三じゃないのに賢三だと嘘をついたりすることがあってね。私も美鶴も三つ子の区別がつかないからほとほと困り果てていたんだ。誤った名前で呼んでも無視されてしまうからね。色々と苦悩して紆余曲折あったんだけど、論理パズルで解決できるんじゃないかと思いついたんだ」


「論理パズル?」


 奇妙な響きだと思った。

 ジグソーパズルとかクロスワードパズルとかならやったことはあるけれど、論理のパズルなんて……。


 規夫さんはしばらく笑みを隠せずにいたが、私がひたすら困惑しているのを見て、申し訳なさそうに頷く。


「そう。論理パズル。二人までは嘘を言ってもいい、けれど一人は必ず真実を言うんだよ、という条件を三つ子に約束させたんだ。そしてもし私が誰が誰なのか当てることができたら、こんな風にからかうのはよしなさいと言ったんだ」


「へええ……」


「そのとき、三つ子の興味を惹く為に、さっきのような言い回しをしてね。決闘だ、お前らに決闘を申し込む! っていう感じで」


「ああああ。それでですか。でも私に決闘を申し込む理由は……」


「三つ子と私の決闘は、私の勝ちだった。三つ子は悔しかったみたいで、彼らは独自に論理パズルのトレーニングを行っているらしいんだ。彼らは論理パズルでの勝者こそ正義だと信じている節があって、そう、クラスの苛めっ子に挑戦したときも、論理パズルを使ったと美鶴が話していることがあった。論理パズルは彼らにとって正式な戦いにおけるツールなんだよ。欠くべからざる要素なんだ」


 論理パズルで決闘を申し込む?

 決闘という言葉の響きも何だかダサくて使いたくないのだけれど、論理パズルで雌雄を決するって、何だかずれている気がする。

 展開も急でついていけない。


「ええと、もし私がその決闘に負けたら、私が悪いということになるんですか?」


「彼らの言い分からすると、そうだろうね。もちろん、こんなことで善悪を画定することは許されない。決闘での結果がどうであろうと、三つ子は織井さんに謝るべきだ。織井さんが必ずしも決闘に応じる必要はない」


 そのとき書斎の扉が開いた。

 現れた少年の額にはAの付箋が貼り付いていた。

 何度も剥がしたり貼ったりしているのでクタクタになっている。


 A少年はルーズリーフを一枚持っていた。

 それを無言で私に突き出す。

 私が唖然としていると「読めや読め」とジェスチャーしてきた。

 私は納得していなかったが文面に目を落とす。



《桜井家に突如現れたゴリラ女織井司奈が何者かにカンチョーされてしまった。

 カンチョー罪の容疑者は、ABCの三人、研一と健二と賢三である。

 誰がどのアルファベットに対応しているのかは、付箋を貼り換えたり貼り換えていなかったりしているので分からない。

 容疑者の内、常に真実を述べる正直者は一人だけ。残りの二人は常に嘘をつく。

 額に付箋を貼り付けていない証言者をXと呼ぶ。XはABCのいずれかだ》



 何だか本格的だった。

 本格的なパズルなんてやったことはないし本格の意味なんて分かりはしないがとにかく本格的に本格的なパズルであった。


「ええと、じゃあ、今私の目の前にいるのは研一じゃないってことかな?」


 私がAの付箋を貼り付けた少年を指差して尋ねても、彼は答えてくれなかった。

 規夫さんが身を乗り出して文面を確認する。


「いや、もしかすると研一かもしれない。誰かは分からないが、とりあえず先入観は持たないほうがいい」


 あれ、パズルに乗り気じゃないの、おじさん。

 私はちょっと拍子抜けした。

 てっきり三つ子を呼びつけてやんわり説教するものと思っていたのだ。

 我が子の成長を見届けるという意味で、三つ子の考え出した論理パズルに興味があるのかもしれない、……ただそれだけであって欲しい。


「正直者がカンチョーの犯人である!」


 Aの付箋を貼った少年が吠えた。

 私はあまりの声量に驚いた。

 すると少年は踵を返して書斎から出て行った。

 バタムと荒々しくドアを閉める。


「今のは……?」


 私はひたすら圧倒されていた。

 口もぽかんと開く。


「きっと今のが証言だろうね。問題を解く為の」


 心なしか規夫さんの目がきらきらしている。

 少年のようだ。私は困惑する。


「えっと、あたし、問題を解いたほうがいいですか。全く自信ないんですけど」


「とりあえず全ての証言を聞いてみよう」


 何だかもう私に興味がないみたいだった。

 肩を竦めるしかない。

 結局、親ばかなのか、この人。


 次に部屋に入ってきた少年はBの付箋を貼り付けていた。

 そして早速叫ぶ。


「Cが健二なら研一はXである!」


 入れ替わり、額に何も貼っていない少年が現れた。

 次はCじゃないのか。

 規夫さんが隣で「これはつまりXということだね」と教えてくれた。


「Aが嘘つきならぼくも嘘つきである!」


 私は証言を覚える余裕さえなかった。

 そもそも問題の内容を理解していなかった。

 解くことなどできるはずもない。

 しかし振り返ると規夫さんがきっちりメモを残していた。

 しかも私に分かり易いように書き直してくれている。

 私は問題を解く気など全くなかったけれども、とりあえずそれを覗き込んだ。



 カンチョー罪の容疑者ABCが証言した。彼らは三つ子(研一、健二、賢三)であり、見た目での判別は不可能である。

 Aの証言「真実を話している者が犯人である」

 Bの証言「Cが健二なら研一はXである」

 Xの証言「Aが嘘つきならXは嘘つきである」

 ABCの内、真実を常に話す正直者は一人だけ。残りの二人は常に嘘をつく。なおXの正体はABCのいずれかだが、誰なのかは分からない。さて、カンチョー犯は誰か?



 問題文は以上だったが、規夫さんはそのすぐ横に補足を書いた。



《Xの正体は不明であり、XはCかもしれないし、AやBが二度目の証言をしているのかもしれない。

 もしAが正直者で、XがAであったなら、Xの発言も真実となる。あるいは、もしCが正直者で、XがC以外のいずれかだったら、三つの証言は全て嘘ということになる。

 なおこのパズルでは、ABCのどれが三つ子に対応しているのか、誰がXなのか、誰が真実を話しているのか、誰が嘘つきなのか、全てを論理によって解き明かすことができる》



 さっぱりである。

 考える気さえ起こらない。

 規夫さんの補足を理解することも容易ではない。

 しかしそんなさっぱりな頭を持つ私にも理解できることはあった。

 規夫さんの嬉しそうな顔を凝視する。


「もしかして、おじさん、この問題の答えがもう分かっちゃったんですか」


「うん、まあね。それほど複雑な問題ではないし――見た目はいかついけどね」


 どういう頭をしてるんだろう。

 文字が輻輳しているようにしか思えない。

 誰が嘘をついていて誰が本当のことを言っているのか分からないというのに、誰が犯人なのか割り出すのは不可能のように思える。


 しかもABXの証言はいずれも奇怪である。

 Aの証言はまだ役立ちそうだが、他の二人の発言は何を言いたいのか理解できない。

 Cが健二だったらとか言ってもしCが健二でなかったらどう解釈すればいいんだ。

 場合分けして考えていかないといけないのか。

 誰がABCなのか分からない上に、Xとかいう意味不明の存在が現れてCの出番を奪ってるし。

 ヒントが少な過ぎるんじゃないのか。


 私は規夫さんのメモを睨み、ものの五秒で降参した。


「こういうの苦手なんですよね。考えようとしただけで疲れますよ。あははん」


「ははは。そうかもね。確かに考え始めるのに躊躇しちゃうかもしれないね」


「答えを知ってるんでしょう。教えてくださいよ。さっさと三つ子に答えを言えば、決闘はあたしの勝ちですね」


 私がそう発言すると、規夫さんの表情が険しくなった。

 あれ、と私は不安に思った。


「……決闘は織井さんがズルなしで勝負すべきではないかな。もちろん、決闘の勝敗に関わらず、三つ子たちには猛省を促すことになるけど。それに考える手助けはするから安心して」


「手助けだけですか」


 私はうんざりした。

 こんな問題を押し付けられても、素直に取り組む気になれない。

 規夫さんは思案顔になる。


「……三つ子は決闘を申し込むとき、自分たちが負けたら陳謝するとは言ったけど、自分たちが勝ったらこうしてくれ、とは言わなかったよね」


「え」


 私は記憶を探る。確かにそんな気はするが……。


「それがどうかしたんですか。たぶん三つ子が勝ったら、あたしにカンチョー一日フリーパス券を格安で発行させて、買い占めるつもりでしょう」


「そうかもしれないけど、きっと三つ子は織井さんに論理パズルを解いてもらって、自分たちを負かしてもらいたいんじゃないかな」


「ええ?」


 どういうことだろう。

 私がドアを一瞥すると、うっすら開いていて、そこに三対の瞳が並んでいた。

 私と視線が合うとぱぱっと退散する。


 私は苦笑していた。


「……それってつまり、素直に謝るのは気が引けるから、勝負に負けて無理矢理謝らされる形にしたいということですか」


「そうだと思うんだけど、どうかな。織井さん」


「ますますおじさんに答えを教えてもらいたくなりましたよ。だったらあたしが自力でパズルを解くという形にこだわる必要はないじゃないですか」


「だけどね、織井さん。これはね、小学三年生の研一健二賢三が一生懸命考えて作ったパズルなんだよ。それをあっさり解いてしまうというのも……」


 私は唖然とした。

 規夫さんはいたいけな女子中学生に悩み苦しめと言っているのか。

 規夫さんは私の表情に気付いたか、慌てて手を振った。


「もちろん、織井さんがそれに付き合う『必要』はないさ。もちろん、もちろん。もう夕方だし、そろそろ帰らないといけない時間だよね。だけど、できれば……」


 何と厚かましい親だろう。

 自分の子供の我が儘だぞ。

 カンチョー被害に遭った可哀想な女子中学生に無理矢理付き合わせるなんてどういう神経をしているのだ。

 これだから子供が我が儘に育ってしまうのだ。

 悪戯の度が過ぎているのだから毅然と叱り飛ばしてくれないと――


 とは、思わなかった。


 私だって鬼畜ではない。

 三つ子は美鶴が可愛がっている弟だし、それなりに可愛い奴らだし、そもそも私は子供好きだし。

 もしこれで三つ子と険悪なまま別れたら、美鶴とも気まずくなるだろうし、彼女も悲しく思うだろう。

 美鶴が風邪でダウンしている間に、むしろこれ以上ないほど仲良くなっておきたい。

 私はそう思うのだった。

 しかし私は論理パズルなんてやったことがなかった。

 改めて問題文を眺める。


A「真実を話している者が犯人である」

B「Cが健二なら研一はXである」

X「Aが嘘つきならXは嘘つきである」


 やっぱりさっぱりだ。

 本当にこれだけのヒントで一人だけいる正直者や、犯人が分かるというのか?

 犯人について言及しているのはAだけだ。

 つまり犯人を突き止めるには、BとXの証言だけで誰が真実を言っているのか判断しなくてはいけない、ということになりそうだ。

 問題は、三つ子の誰がAでBでCでXなのか分からない点であり、それが分かったとしても、そこから更に誰が真実を言っているのか推理しなくてはならない。

 不可能だと、改めて思った。

 一瞬でこの問題の答えを見抜いた規夫さんを天才だと思った。

 こんな問題を考えつく三つ子を宇宙人だと思った。


「本当に、解ける問題なんですか? これって、つまり、細かく場合分けして、虱潰しに可能性を消していくといけちゃいそうですか」


「その方法でも答えは分かるだろうね。ただし、少なくない数の組み合わせを一つ一つ検討していかないといけないから、時間がかかるよ。しかもケアレスミスが頻発して頭が混乱してきて途中で全てを投げ出したくなるだろうね」


 それはさすがに嫌だ。

 私はどちらかと言えば報われる努力だけをしたいタイプである。

 規夫さんが一瞬で答えを見抜いたのだから、何か簡単に答えを知る方法があるはずだ。

 Cの発言がないのはどういうことだろう。

 XがCなのだろうか。

 もしそうならどうなるんだろう。

 ABCが揃うのだから、真実の証言は一つで、偽の証言が二つということになる。

 ……しかしその先は何がどうなるのか分からない。


 ギブアップした私を元気づけるべく規夫さんが微笑を浮かべた。


「やる気になってくれたんだね。じゃあ、基本的なレクチャーをしておこうかな」


「レクチャーですか。勉強は苦手ではないですけど、好きではないですよ……」


「ははは。まあ、勉強っぽいけど、少しずつ考えていこうか。じゃあ、織井さんは、Bの発言の意味が分かるかな」


「Bですか。分かりますけど……。『Cが健二なら研一はX』なんでしょう。Cが健二じゃなかったら、研一はXなのかXじゃないのか分からない感じですね」


「Bが真実を言っている場合はそう。じゃあBが嘘つきだったら?」


「『Cが健二なら研一はXではない』でしょう。嘘なんだから」


 規夫さんは首を横に振った。


「残念ながら、それは違うんだ。Bが嘘をついている場合、証言は『Cが健二であり、かつ研一はXではない』という意味になる」


 私は顎に手を当てて沈思した。


「……ええと、あたしの言ったことと、どう違うんですか?」


 規夫さんは呆れるわけでもなく、優しげな笑みを湛えていた。


「口だけで言っても分かり難いね。メモしながら一緒に考えようか。織井さん、好きな果物ってある?」


「え? 果物ですか? 突然ですね」


 そう言えば甘いものが恋しいなあ。と思いつつ、私は大好物のショートケーキをイメージした。

 父と二人で開催した誕生日会で食べたきりだものなあ。


「イチゴなんかいいですね。甘いやつです」


「イチゴか。女の子らしいね。じゃあ、イチゴと、私の大好きなミカンで考えてみよう」


 そう言って規夫さんは紙に模式図を書きつけながら説明してくれた。


「ここに果物がある。それはイチゴかミカンのどちらかであり、かつ甘いか甘くないかのどちらかであるとしよう。誰かが『イチゴならばそれは甘い』と証言してくれた。この証言が真実であった場合と、嘘だった場合、二つに分けて考えてみようね。真実だった場合、果物を食べてそれがイチゴなら必ず甘い。これは確実だ。では食べた果物がミカンだった場合、味はどうであろうか。おじさんはミカンについては何も言っていない。だから甘いか甘くないかは分からない。これは直感的に理解できることだね。じゃあ、ミカンを実際に食べてみたら甘かったとしてみよう。おじさんは嘘をついたことになるか?」


「ええと……。嘘ではないですよね。ミカンについては何も言ってないんですから」


「嘘ではないということは真実だということでOK?」


「真実? 真実って言われると疑問符が付きますけど、ミカンについては関係ない発言だってことじゃないですか」


「実は論理的には、ミカンが甘かった場合でも甘くなかった場合でも、おじさんの発言は真実だということになるんだ。だから、おじさんはミカンについても『正しい』ことを言っていたことになる。嘘じゃないんだからこの問題においては正しい、ということだよ」


「ふうん。そんなものなんですか」


 まるで詐欺師の理屈だと私は思った。

 あるいは年寄り相手に強引に契約を取り付けるやり手の保険外交員か。


「では、おじさんの発言が嘘だったとしてみよう。これは真実だったときの発言を裏返せば良い。どういう意味になるだろうか?」


「ええと。それがイチゴだったなら、それは甘くない、ということですよね」


 規夫さんは首を横に振る。


「実は違うんだ。もしそうだとすると、ミカンを食べたとき、甘かろうが甘くなかろうが真実を言っていることになる。おじさんは嘘をついている、という前提で話をしているのに」


「それでも別に、いいんじゃないんですか。ミカンについては何も言っていないんですから」


「じゃあ、おじさんが『嘘をつく為に必要な条件』を揃えてみようかな。ちょっと書くよ」


 規夫さんは紙に典麗な字を書き並べる。



 正体不明の果物を食べたとき、それは、

1.イチゴで甘い

2.イチゴで甘くない

3.ミカンで甘い

4.ミカンで甘くない



「果物を食べたときのケースは、全てでこの四つが考えられるね。では、おじさんが真実を言っている場合、1234のどのケースで矛盾はないか?」


 私はややこしいなあと思いつつも、規夫さんにバカだと思われたくないので、慎重に答えた。


「矛盾ですか。おじさんはイチゴなら甘い、と言っているんだから、1は明らかに真実ですよね。2は矛盾してます。3と4は……、イチゴとは全く関係のない話ですから、論理的には、真実だということになるんですよね」


「そうだね。つまりおじさんの『イチゴならそれは甘い』という発言は、134のケースにおいて真実だと言える。じゃあ、嘘だった場合はどのケースかというと、その裏返しで」


「2……。2だけ、なんですか。じゃあ、3と4は含まないということなんですか?」


 私はここにきてやっと理解した。

 いや理解しかけた、と言ったほうが正しいかもしれない。

 本当に腑に落ちたわけではなく、規夫さんの言いたいことの一端が見えた気がしたのだ。


「整理してみようか。おじさんの発言が嘘となるケースは2だけ。その果物がイチゴで、かつ甘くない場合だけに限られる。果物がミカンだった場合は嘘のケースに数えることはできない」


「ええと、つまり……」


「改めて言うと『イチゴならば、それは甘い』の嘘は『それはイチゴであり、かつ甘くない』ということになるんだ。これを、さっきのBの証言に当てはめてごらん」


 私はメモに視線を飛ばす。



B「Cが健二なら研一はXである」


 Bが嘘をついていた場合は……。『イチゴ』が『Cが健二』に対応し、『甘い』は『研一はXである』に対応するから……。


非B「Cは健二であり、かつ研一はXではない」



 つまりはこういうことだったんだ。

 まだ完全に理解できたわけではないし、この問題文の意味を十分に咀嚼できたとは思えない。

 しかしXの証言も同じ要領でもみほぐすことができることには、さすがに気付いていた。

 規夫さんが何か言う前にXの証言が嘘だった場合の内容を書きつけた。

 規夫さんはAの証言が嘘だった場合も一応書いてみたら、とアドバイスしてくれた。

 私はこうしてメモを書き換えたのだった。



A「真実を話している者が犯人である」

非A「真実を話している者は犯人ではない」

B「Cが健二なら研一はXである」

非B「Cは健二であり、かつ研一はXでない」

X「Aが嘘つきならXは嘘つきである」

非X「Aは嘘つきであり、かつXは真実を話す」



 まだ何も解決したわけではなかったが、一仕事終えた気分だった。

 規夫さんは私の書いたメモを眺めて満足そうに頷いていた。


「……何だか余計こんがらかった気分ですよ。本当に問題は解けるんですか?」


「まあまあ。ここまでくればあとは簡単だよ」


 そんな、バカな。

 まだ何も進捗していない。

 ただ整理しただけだ。

 私は規夫さんにバカにされた気分だったが、このにこにこ顔を眺めていると、ふて腐れることさえ躊躇われる。

 私は自分の書いたメモを眺めた。


「それで、これから、どうすればいいんですか?」


「矛盾点を探してごらん。その六つのヒントの中に、明らかに異常なものが含まれているよ。最初は複数の証言を重ね合わせて考えてみようとか、背伸びしなくていいから」


 異常……。

 私はこの六行の証言を眺めるだけで頭がくらくらしたが、とりあえず規夫さんの「あとは簡単」発言を信じ、一つ一つ吟味していくことにした。


 まずAだ。

「真実を話している者が犯人」

 うん。何も分からない。


 非Aも同じだ。

「真実を話している者は犯人ではない」

 別に変なところなんてない。


 こんな感じでいいのか。

 早くも反省する。

 そうだ、非Aと仮定しているとき、Aは嘘つきということだ。

 真実を話している者は犯人ではない、のだから、Aは犯人の可能性がある、ということだな。

 そしてAの証言が真実であったとしても、Aは真実を話していて、真実を話している者が犯人なのだから、Aが犯人である可能性は残ることになる。

 Aがどのように証言しようとAは犯人候補だ、臭いぞコイツ。


 Bはどうだろう。「Cが健二なら研一はXである」のか。

 Cが健二だったら研一はXなんだ。

 そのままだ。もしCが健二でなかったら、研一はXではないのか。

 いや違う。

 Cが健二ではないのなら研一がXかどうかは分からない、ということしか言えない。それだけの文章だ。


 非Bはどうだ。「Cが健二であり、かつ研一はXではない」か。

 これはかなり具体的な証言のように思える。

 もしBの証言が嘘だとするなら、Cは健二と決定する上に、健二と賢三のどちらかがXであると判明する。

 他の二つの証言と合わせればもっと何かが分かる気はする。

 しかしもしBが真実だったらどうするんだ。

 Bが嘘だったら、という仮定の上で考えるのは博打だ。

 それでもし全てが矛盾なく説明できたとしても、Bが真実である場合もきちんと考えなければ答えが分かったとは言えないだろう。

 論理パズルに慣れていない私でもそれくらいのルールは分かる。

 規夫さんがせっかくヒントをくれたのだから、まずはそれを考えるべきだろう。

 三つの証言とその嘘を加えた六つの要素。

 ここに異常な発言があるはずなんだ。


 難物Xの証言を考えてみよう。

 本当はもううんざりしてたのだが、一通り考えてからギブアップする。

 そう決めてホットオレンジをちびちび飲みながらメモを睨んだ。


 Xの証言が真実なら「Aが嘘つきならXは嘘つきである」のだ。

 これもBの証言と同じで何とも言えない。

 Aが嘘つきであったならXも嘘つきであると言えるが、Aが真実を言っていたら、Xが真実なのか嘘なのか何も言えない。


 いやちょっと待てよ。

 Bの証言の中にはCとXが登場した。

 Bそのものは登場していない。

 しかしXの証言の中にはXそのものが出てきている。

 奇妙な気持ちがした。

 これが規夫さんの言っていた異常であろうか。

 自分自身について言及しているのだ。

 これだけでは何とも言えないような気はしないでもないが、異質を感じたのは確かだ。


 うん、ちょっと待って。Xの証言が真実なら「Aが嘘つきならXは嘘つきである」のだろう。

 もしそのときAが嘘つきなら、Xは嘘つきになる。

 本当に?

 Xが真実なら、という前提で色々考えているのに、結論は「Xが嘘つきである」になるのか。


 おかしい。明らかにおかしい。これはどういう意味だろう。

 Aが嘘つきという状況がありえない、ということなのだろうか。

 それともXが真実なら、という前提がおかしいのだろうか。

 何度も同じ考えがぐるぐる回り、何度もこの思考を辿った。

 きっとAが嘘つきではないか、Xが嘘つきなのか、あるいはその両方なのではないかと結論した。「あるいはその両方」は論理的な思考の産物ではなく、何となく付け加えたものだ。


 最後に非Xを考えてみる。

 最初問題文を見たときはちんぷんかんぷんだったが「Aは嘘つきであり、かつXは真実を話す」のだ。

 そして私は早々に気付いた。これは明らかにおかしい。


 Aが嘘つき、というのはどうでもいい。

 しかしその後、「Xは真実を話す」なんてことはありえない。

 前提が非Xなのだから、明らかに矛盾している。

 矛盾しているということは、この場合はありえないということになる。

 何がありえないのか。

 非Xがありえないのか。

 「Aが嘘つき」というのは、非Xを採用する以上、絶対に避けられないのだから「Aが嘘つき」を否定しても矛盾が発生している。


 非Xが矛盾しているのだ。

 ということはつまり、Xは常に真実だってことになりはしないか。

 なる。

 きっとなる。

 私は規夫さんに視線を向けた。

 規夫さんは優しげな笑みを湛え続けている。

 私はそっとペンを取り、メモに、丸とバツを書き加えた。


 

X「Aが嘘つきならXは嘘つきである」〇

非X「Aは嘘つきであり、かつXは真実を話す」×



「そうだ」


 規夫さんが嬉しげな声を発する。


「よく気付いたね。Xは正直者。そこからはトントン拍子で論理が進むよ。この問題の最も難しい部分を、きちんと解けたんだ」


 まさか褒められるとは思っていなかった。

 ここがこの問題の最も難しい部分?

 ちょっと信じられない。

 私は特別難解な論理を駆使したわけではない。

 ちょっとおかしいな、と思っただけなのだ。


「じゃあ、もう解けたも同然なんですね」


「まあ、半分ってところだね」


 何だか調子が良い。

 私は自分の頭の回転の良さに満足した。

 きっと便秘が解消されて集中を頭のほうに振り分けられるようになったからだろう。

 ちょっとだけ楽しくなってきた。


 Xは真実なんだ。

 Xが真実なら何が分かる?

 Aが嘘つきならXは嘘つきである――これはどういう意味だろう。


 Xが嘘つきである、という結論部分は、明らかに間違っている。

 Xは絶対に真実の証言なのだから。

 何かがおかしい気がする。

 その正体がよく掴めないので、とりあえずその点は保留にして、Aを真実だと仮定してみる。


 Aが真実ならどういうことになるか。

 そうだ、Xも真実の証言だ。

 そして、三人の証言者の内、真実を語るのは一人だけなのだから、AとXは同一人物ということになりはしないか……。


 絶対になる。そうだ。条件から、それが分かる。

 Aが真実なら、Aそのものの証言「真実を話している者が犯人」なのだから、犯人はAということになる。

 犯人はA!


 私はとうとう全てを突き止めた心地になった。Aが犯人、Aが犯人、Aが犯人なんだ!


 で、Aって誰なんだろう……。

 私はBの証言を吟味しようと思ったけれど、その前に、もしAが嘘だったら、ということも考えておかないといけなさそうだ。

 Aが嘘だったらXの証言はどうなる?

 Aが嘘だったらXも嘘なんだ。

 でもXは真実だということが判明している。つまり?

 つまりどういうことだ。

 明らかに矛盾している。

 Aが嘘つきという前提は全く当てはまらないわけだ。

 要するに、Aは正直者であると断言しても構わない。

 Aは正直者! Aは犯人!


「Aが犯人ですね。犯人だけ真実を語るというのも、おかしな話ですけど」


 私が(たぶん)キラキラした眼で言うと、規夫さんは小さく拍手した。


「そうだね。あとはBの証言だけだ。正直者がAだと判明したということは?」


「ええと……。真実を話しているのは一人だけなので、Bの証言は嘘です!」


「その通り。あと一息だね」


 私は頷いた。こんな私でも論理パズルを解けそうだ。私はメモを書き換える。



A「真実を話している者が犯人である」〇

非A「真実を話している者は犯人ではない」×

B「Cが健二なら研一はXである」×

非B「Cは健二であり、かつ研一はXでない」〇

X「Aが嘘つきならXは嘘つきである」〇

非X「Aは嘘つきであり、かつXは真実を話す」×



 非Bの証言は明確である。Cは健二なのだ。そして研一はXでない、すなわちAではなくBである。

 残る賢三がAとなる。

 Aは犯人だから、賢三が犯人なのだ!


 犯人はAの賢三。Bは研一で、Cは健二。Xの正体も正直者も賢三であった。


「やった、解けた、解けた、解けましたよこれ!」


「お見事。織井さんはパズラーの素質があるね。最初はなかなかできないものだよ」


「ほ、本当ですか? なんか目覚めそうです、あたし! うひひ!」


 実際には規夫さんのヒントとレクチャーがなければ解けなかっただろう。

 いったいどこから考えればいいのか分からず途方に暮れていた私に、まず何に取り組むべきかを教えてくれた。

 そして、こんな問題を一瞬で解いた規夫さんはやはり凄い。

 問題を解いた後だからこそ、規夫さんの頭の回転の速さがとんでもないものであることが分かる。


「賢三ですよ、あたしの肛門の括約筋を破壊したのは賢三だったんですよ!」


「織井さん、もうちょっと恥じらいを持ったほうが……。あれ、意外とカンチョーされること嫌じゃなかったりする?」


「いやあ、同年代の男にされたらさすがに嫌ですけど、三つ子はまだ子供ですからね。そんなには気にしてはいませんよ。もちろん、嫌は嫌なんですけど程度が違うっていうか」


「あ、そうなんだ」


 規夫さんは少し拍子抜けたしたように笑った。

 私が思っていた以上に、親としての責任を感じていたのかもしれない。

 ドアが開いて三つ子が雪崩れ込んできた。

 いずれも憤怒の表情を顔面に張り付けている。


「何だよそれ!」


「僕たちは謝らないぞ!」


「司奈のばぁか!」


 私は彼らの相変わらずの態度に苦笑した。

 まあ、彼らが気に病んでいたことの何よりの証左なのではあるが。

 私は鼻息荒い三つ子の頭を順番に撫でた。

 三つ子は不意打ちを食らった顔をしていた。


「よくこんな問題思いついたね。なに、何かの本を参考にしたの?」


「ぼくたちの創作だよ」


 とAの付箋を額に貼った健二が言う。

 いや、もしかすると問題を踏まえて、賢三がAの付箋を貼っているのかもしれない。

 まあ、どちらでも大差ないことだ。


「創作に決まってるだろ」


「本に書かれてるパズルを出しても」


「お父さんには通用しないもん」


 なるほど、いつもは規夫さんがパズルの相手なわけか。

 こんなキレ者のお父さんを相手にしても勝ち目はなさそうだが、強敵と戦っているからこそこんなシンプルかつ小難しいパズルを思いつけたのだろう。

 いや、でも、これはパズルとしてはどれくらいのレベルの問題なのだろう。

 私ごときでも解けたということは簡単なほうなのだろうか。

 三つ子たちだって私に解いて欲しかったのならそうそう極端に難しい問題を出すわけがない。

 三つ子が私の着ている制服を引っ張ったり背中をつついたりしている間に、何と、美鶴が自分の部屋から出て書斎に顔を出していた。


「美鶴!」


 私は驚き彼女の血色の良い顔を見つめた。

 彼女はばつが悪そうに笑っている。


「ごめんなさい。何だか汗掻いたらすっかり気分が良くなって。病は気からっていうけど本当みたいだね。気が落ち着いたら熱も引いたわ」


「本当に大丈夫なの?」


 美鶴はぐっしょりと濡れた寝巻きを整えながら頷く。


「うん。それより、司奈ちゃん、まだ帰らなくて良いの? もうすぐ六時だけど」


 この季節、六時となるともう暗い。

 もちろん六時に出歩いている中学生なんて掃いて捨てるほどいるけれど、私の父は心配性で、六時ごろまでに家に帰っていないとああだこうだと説教を喰らわせてくるのだ。


「あ、そろそろ父さんが家に電話をしてくる時間だ! 帰らないと」


 私が慌ただしく帰宅の身支度を始めると、三つ子が私を取り囲んで来てじっと見上げてきた。

 眼が潤んでいる。


「きみら、どうしたの」


「司奈。ごめんね」


「もう司奈が便秘のときはカンチョーしないから」


「ぼくたちとまた遊んでよ」


 とうとう三つ子たちから謝罪を引き出せた。

 私はこれも論理パズルを解いた自分の実力によるものだと信じることにして、胸を張った。


「もういいよ。そんなの。また遊びに来るから、そんなしょげないでよ。あとさ、別に便秘のときだけじゃなくて、基本的にカンチョーはやめてもらいたいんだけど。将来痔とかになったら、きみたちの所為だかんね」


 後半の言葉は聞こえなかったようで、三つ子が小躍りして私の周りを回った。


「やった、やった、司奈とまた遊べる!」


「今度の土曜日、一緒に買い物行こうよ!」


「一緒にゲーム買おう! いいでしょ?」


 ゲームなんて興味はないし折角の休日をこいつらに潰されるのか。

 と思ったが美鶴と規夫さんが見ている。

 美鶴も「私も一緒に行こうかな」と言っている。

 まあ美鶴が一緒なら変なことはもう起きないだろう。


「ああ、じゃあ、今度の土曜ね。雨が降らなかったらね。部活サボる良い口実だよ」


 三つ子は阿波踊りとソーラン節を足して二で割って爛漫さを隠し味にしたような踊りを見せた。

 一応、喜んでいるらしい。


「やった、やった!」


「司奈と友達だ!」


「やった、やった」


 さっきまで険悪だったのに、掌返しが早いな。

 まあ、子供なんてこんなものだろう。

 私は思わず笑みをこぼしながらも玄関に向かった。

 因縁の瞬間だったが、三つ子は私にカンチョーをする素振りなど微塵も見せなかった。

 家を出るとすっかり辺りが暗くなっていた。

 寝巻きのまま見送りに来てくれた美鶴が手を振っている。


「じゃあね、美鶴! 明日会おうね!」


「うん、司奈ちゃん、今日はありがとうね!」


 三つ子たちも手を振っている。

 私は彼らが依然付箋を額に貼っていることに苦笑してから、道路の端を歩き始めた。


 グゥとお腹が鳴った。

 きっと頭を使い過ぎて糖分を大量に消費したのだろう。

 お腹が減って背中にくっつきそう。

 力が出なくて、ろくに教科書も入ってない超軽量鞄さえも、重く感じる。

 歩道橋の急な階段を昇りながら、私は今日解いた論理パズルに想いを馳せていた。


 ああいうパズルってたくさんあるんだろうか。

 初めて目にしたときは頭がクラクラして吐き気さえしたが、解いたときの快感と言ったらもうスゴイ。

 今度書店に行く機会があったらそれっぽい本を探してみようかなあ。

 でもお小遣いが限られてるし、図書館辺りで探したほうが経済的かもなあ。

 階段を昇り切り、歩道橋をぷらぷらと渡りながらふと大量の車が行き過ぎる道路を見ると、偶然父の愛車の軽トラを発見した。

 度肝を抜かれた。

 そして慌てて走り出す。

 あのひしゃげた荷台に薄汚れた脚立。

 間違いない。きっと家に電話して、私が帰宅していないことを察知したのだ。

 それで様子を見に家に帰ってきたのか。

 嬉しいような迷惑なような。

 これだから一人娘は疲れるよ。

 私は歩道橋の上を疾走した。





○本章のパズルについて

 Xの証言「Aが嘘つきならXは嘘つきである」においては、勘の良い人なら一発で「Aが正直者であり、犯人である」と看破したことだろう。X自身が「Xは嘘つきだ」と語ることは、Xが正直者であろうと嘘つきであろうと不可能であり、したがってAは正直者であることが確定する。

 なお、「PならQである」の否定「PかつQでない」は今後の論理パズルを解く際の重要なポイントになるので、論理パズルを自力で解こうと思ってくださっている方は、是非活用して頂きたい。




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