第十一話 縁
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──列車がまもなく、到着する。
俺が見慣れたビル郡が立ち並ぶ景色から一変、田舎特有の山々に囲まれ、空が澄んで見えるような爽やかな雰囲気が広がっている。
もう見ることのないと思っていた景色。そして、全てだと思っていた小さな世界。ここに俺はぜんぶ置いてきた。恋も過去も嘘も。
正直、今さらどんな顔して会いに行けって思う。兄がいなければ俺はこうして帰ることもなかっただろうし。
照りつける日は窓ガラス越しでも暑く感じる。さっきまでの眠気も飛び、夢の内容を忘れ去ったとき、どうやら腹をくくれたように思えた。
──俺は奈波に謝るためにここに来た。だから、こうして空を睨みつけることも出来る。
停車後、駅から離れた俺はこの町の変化に少し驚いていた。
当時も確かに駅周辺は商業施設があったがここまで発展はしていなかった。小さなカフェ、ガソリンスタンド、商店街などの昔ながらの店と共に、大型のショッピングモールやネットカフェがあたり前のように点在し、昔ながらの個性を残しつつ、景観を崩さない独特な雰囲気の街が形成されていた。
「変わっていってるんだな……。この町も」
その点、俺は何も変わらない。奈波への後悔を持って、半ば強制的にここに来た。
きっと、俺が見ないうちに親戚の子どもたちは大きくなって最年少のさきはもう高校三年生……受験生だろう。一体皆どうなっているのか検討もつかない。俺を受け入れてくれるのだろうか。何年も帰ってこない人間を。顔を見せない人間を。
俺は記憶との違いに少し気分を悪くしながらこの上手く変化した街並みを歩く。
記憶との相違点は多々あった。小学生の頃、七夕祭りのシンボルだった神社はこじんまりとした場所ではなく、ひとつの象徴として規模を拡大させて大きな神社へと変わっていた。
俺たちが昔よく来ていた大型のショッピングモールはここが原点と言わんばかりに店舗の規模はもちろんのこと駐車場の規模が拡大し、恐らく地域最大のショッピングモールへと変貌した。
タクシーも充実していることを知り、それを拾って乗り込む。祖父母宅への道のりは以前よりかなり整備されており、くぼんだ道でおしりを痛くすることもなかった。
タクシーで進んでいくと、景色も都会チックな場所から少し山道に入り組んだような森林の多い景色が広がった。
「お兄さん、今日は帰省?」
突然、タクシードライバーに話しかけられて、俺は数秒反応に遅れてしまった。
「あ……、えぇ、そんなところです。あと、従妹が結婚するのでその前祝いに……」
「へぇ、そりゃめでたい。素敵な会になるといいな。ならこれもなんかの縁だ。ちょっと時間くれないか?」
「大丈夫ですけど……」
タクシードライバーはその言葉で進路を切り替えて、駅の方面へと戻った。そして、ショッピングモールで駐輪、客を置いてタクシーから飛び出した。
その神経を疑うが、次の瞬間に手渡されたのはご祝儀とお祝いの品らしきものを渡されたのだからたまったものじゃない。
「これ、お祝い。お兄さん、なんも持ってないからな。無難なやつ選んどいたから従妹ちゃんも喜ぶはずだ」
「ありがとう……ございます」
確かに俺はお祝いの品とか何も持っていなかった。この人はそれを見かねて買ってきてくれたのだろうか。
タクシーが俺の指定した目的地に着き、料金を払うと同時に俺は声をかけた。
「あの、ご祝儀と品物代ですが……」
二万円とタクシー代をセットして手渡すと、なんと二万円を俺に押し返してきた。
「いらんいらん。気持ちだけで十分だよ。……わりぃけどこのあと予約している客いるんよな。だから、じゃあな兄ちゃん」
突然変わった口調に俺は懐かしさを覚えた。そして、今はっきりとタクシードライバーの顔を見たときに白髪が増えたうねりのある髪と切れ長の目に見覚えがあった。
ドライバーの左胸には「堀田彰人」と書いてあり、俺の知る無精髭のオッサンで奈波の父親だった。
「……じゃあな──」
完全に親戚の子どもと接する態度を最後まで果たしたお人好しのタクシードライバーに一礼し、そのタクシーが見えなくなるまで見続けた。
オッサンめ、去り際に「七樹」って呼ばれたらもうあんたしかいないじゃないか。
なんだよ、ぜんぶ知ってたのかよ。このオッサンは本当に損な人間だな。実の娘に会えないからとその思いを従兄に託したというのだろうか。
「……俺も頑張りますから。彰人さん」
この人はこれからもひょうひょうと罪を償いながら生きていくんだろうなと思った。何食わぬ顔をして人を助ける。まるでギターヒーロー。大嫌いだ。俺の元カノを傷つけたし、奈波のことも傷つけた。だけど、尊敬はこれからも変わらない。
俺はこの先待ち受ける山道を臆することなく見据えることが出来た。
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