第九話 嘘と罪
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俺たちの密かな関係はあれから二年続いた。
俺が十六歳で高校一年生、奈波が中学三年生の頃。お互いの学校生活の近況を話し合い、家庭科部の部長となった奈波は少ない部員数でも楽しくやっていた。
そして、俺は当時のクラスの女子と付き合っていた。話せる相手としては好きだったが相手から告白されたから付き合った。恋愛というのがどんなものか興味があったのはあったから。
相変わらず、俺は奈波のことが好きでいた。それなのに他の女と付き合っていた。
「七樹は高校どうなの? もしかして、彼女とか出来ちゃった?」
からかいながらそういう奈波に俺はなんて言うか迷った。奈波のことが好きなのに、彼女がいることを伝えていいのだろうか。一番大切なのは奈波。都合がいいのは彼女。
「んなわけないって。好きなやつはいるけど彼女はいないな」
俺はこの日、初めて奈波に嘘をついた。ちくりとした小さい罪悪感が、胸を刺したような気がした。
「そういう奈波はどうなんだよ」
話題を変えようとも迷ったが、奈波の恋愛事情は知りたかったから、聞いてみた。
「あー、私……? んー、えっとねー」
歯切れが悪い回答でもじもじとしている。そして、頬が心無しか赤くなっているような気もする。
「……えっと、好きな人はいるかなぁ。ずっと私の片想いで勘違いかもしれないけど」
赤らめた笑顔で笑う奈波は、きっと世界一可愛い。その好きな人が誰なのかは聞けなくて。聞いてしまえば、俺じゃなかったときの拒絶が怖くて。俺は薄っぺらい励ましを送ることしか出来なかった。
奈波の父親から短期のバイトの紹介をされたのは晩ご飯を食べ終えた頃だった。友達と遊ぶときに金がなくて困っている、面接に落ちて萎えているとの話をすれば、奈波の父親は爆笑して、それならなと言葉を繋いだ。
「俺は副業で楽器屋もやってるんだが、お前そこの店員やってみたらどうだ?」
「いや、俺楽器のことなんて分からないっすよ」
「覚えたらいいだろ。これ、俺のおさがりな。昔はよくお前らの前で曲弾いたのに覚えてねぇだろうな。俺は悲し〜」
四十超えたオッサンが泣き真似するところ見てるとね、吐き気がしてくるよね。
奈波の父親──彰人さんから赤を基調としたエレキギターをもらったのはそのときだった。無数の傷跡や日焼けの跡があるが、それでも光沢は失われずに、たくさんの音と人生を紡いできたのだとひと目で分かった。
「……ありがたくいただきます」
受け取ってからさっそくギターを担ぐために必須なストラップと小さいアンプとの繋ぎ方を教えてもらった。
「ほぉ、サマになってんじゃねぇか。チューニング……音合わせはしてあるからさっそく何でもいいから弾いてみろ」
何やらアンプの音量などをいじっていた彰人さんから、手渡されたのはプラスチック製の三角形の物体だった。ピックというやつらしい。
一音、弾いてみる。幸いにも右手の動きは良好だった。楽しくなって知ってる限りの色々な演奏法を試すが、音が違ったりしていて、それをアドバイスを受けるのが楽しかった。
「難しいけど楽しいですね。なんか弾いてください。学びたいので」
「無茶ぶりすんなよ。いいけどさ。お前にとっておきのやつ聴かせてやるよ。──んじゃあ、BUMP OF CHICKENでカルマ」
そう言って彰人さんは慣れた手つきでチューニングとやらをし、それから軽く音を鳴らした。少しの静寂のなか、アンプから流れるのは俺が聞いたことのない音と多忙な指さばきだった。
「──ガラス玉ひとつ落とされた 追いかけてもうひとつ落っこちた」
彰人さんの歌声を俺は初めて聴いた。会うとき、カラオケに行ったりすることがあるが、彼は全く歌わなかったから。気がつけば酒を飲んでいるし、子どもみたいにドリンクバーのドリンクを飲んだりするくらいしかしらない。
かっこいい。心の底からこの人に憧れた。
最後の一音を鳴らし終えたとき、俺はこの人みたいな人間になろうと思った。実の娘を性的な目で見て、自然とえろいことを言う。奈波の母親曰く、酒豪で、ダメダメで、女好きらしいが。
俺はこの人のいいところを知った。この感動は忘れないだろう。
「ありがとうございました……。すご……」
「お前が上手くやったら、一緒に弾いてやるよ。それまで頑張りな」
彰人さんはそう言って、俺にギターを返した。これが俺の知る限りの最初で最後の彼の演奏で、この言葉が本当になることはなかった。
なぜなら、一年後、彼は女子高生への強制わいせつ罪で捕まった。
ココロのケモノは、誰にも止められない。最低なケモノになるしかないのにな──。
そんな言葉を残し、最低なケモノに成り下がった彼を、このときの俺は信じられなかった。そして、憎んだ。
彼が襲った女子高生は──俺の恋人だったからだ。
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