プロローグ
窓ガラスがバラバラと崩れ落ちる。ガシャン、ガシャンと、何かの憂さ晴らしのように叩き割られていく。銀色の鉄バットが月の光によって煌めいた。
「フー……フー……」
この惨状を作り上げた張本人は、肩を揺らしながら荒い呼吸を繰り返す。そしてまた、次々にガラスを割っていく。
そんな中、一人の男が空中から現れ、ガラスを割る彼になんの躊躇もせずに話しかけた。
「やあ」
男はまるで神父のような服装をしていた。シルバーのアクセサリーを全身に纏い、その表情は酷く愉快だった。
「楽しそうだね」
「そりゃもう、サイコ―っすよ」
鉄バットを握りしめた彼は、また次の窓を破壊していく。無機物が悲鳴をあげる声を聞きさらに高揚したのか、今度は鉄バットごと窓にぶん投げた。
「やりぃ! ナイスショーット!」
ガッツポーズを決めた彼は、ハイライトのない視線を神父の方に向けた。
「いやー爽快っすね! 窓ガラス叩き割り放題!」
「うん、ここは廃墟だから、好きに壊してもなんも問題ないよ」
「マジ感謝っす! 神父さん!」
紫黒色に染まった瞳を細めると、放り投げたバットを取りに建物内へ入っていく。その様子を見ながら、神父は舌なめずりをした。
「こちらこそ、感謝してもしきれないよ。だって……」
神父がそう言いかけた時、廃墟の中から悲鳴が轟いた。
「なんだ!? なんなんだ!? ぎゃああああ! 助げで!!」
悲鳴をあげた男は、何か黒いものに飲み込まれた。彼の視界が塞がれる直前に見えたものは―――
「ククッ……フフフ……フフッ……アハハハハ!」
神父の皮を被った悪魔だった。




