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第3話 殺しの依頼

「立ち話もなんだし、まあ入れよ」

「失礼します」


日陰にうながされ、カラスは室内へ足を踏み入れるが、部屋の中は足の踏み場もないほど物が散乱していて、そしてひどく臭った。

普段は感情がほとんど表に出ないカラスでさえ、苦虫を嚙み潰したような顔になる。


「ほら何してんだよ、遠慮せずに入れったら」

「は、はい」


カラスは、中に何が入っているのかわからないゴミ袋の山を踏みつけながら部屋の中へと進入していった。

そしてクッションのような物に腰を下ろす。


「今日、お前に来てもらったのは上からの指示でな。お前にアレをまたしろってさ」

「はい、わかりました」


日陰の言う上とは、日陰の雇い主のこと。

カラスの雇い主である日陰もまた、とある組織に属する別の何者かに雇われているのだった。

言うなれば日陰は、組織内部の真の雇い主とカラスとをつなぐ仲介役のような存在なのだ。

ちなみにアレというのは嘘発見器のこと。


「んじゃあ、これ頭と腕につけてくれ」

「はい」

「こんなのは形式上のもんだから、まあ気楽にやってくれや」


日陰に手渡された電子機器を頭と腕に装着していくカラス。

このあとカラスは、ひどい臭いが漂う部屋で小一時間ほど日陰とともに時を過ごした。



◆ ◆ ◆



「おっと、そうだ。ついでだから次のターゲットを伝えとくわ」


カラスが帰宅しようと立ち上がったタイミングで、思い出したように日陰が言った。

カラスは日陰が差し出した資料を受け取る。

その紙には一人の男のプロフィールが記されていた。


名前は山川有起哉。

年齢は30歳。

職業は会社員。

住所は東京都。

備考欄には妻と幼い子どもが一人いることが書かれていた。


カラスは写真を見る。

そこには整った顔立ちをした好青年の姿があった。

だがカラスの目を引いたのは、彼の経歴の方だった。

彼は二年前に離婚しており、その理由が暴力によるものだということが記載されていたのだ。


しかも離婚後も彼は元妻に付きまとい、ストーカー行為を繰り返しているということも書かれている。

さらにその元妻は、過去に何度も自殺未遂をしており、現在も施設に出たり入ったりしているとのことだ。


カラスは資料を読み終えると日陰に返す。


「んじゃあ、五日以内に頼むな」

「わかりました」


カラスは日陰の部屋を出た。

外は少しだけ雨がぱらつき始めていた。



◆ ◆ ◆



カラスが住んでいるのは、六畳ワンルームのアパート。

築三十年ほどのボロい建物で、風呂トイレ共同、エアコンなし。

家賃月三万円。


カラスは部屋に入ると、ピストルやナイフ、ライフルやメリケンサックなどの仕事道具一式をテーブルの上に並べた。

そしてそれらを布巾で丁寧に拭いていく。

几帳面な性格のカラスにとってそれは日課となっていた。



カラスは幼い頃、親に捨てられた。

そんなカラスを拾って育てた男は殺し屋だった。


その男は興味本位でカラスに自分の持つ暗殺スキルや格闘術を叩き込んだ。

だが成長するにつれて、カラスの潜在能力を不安視するようになっていった。


こいつはいずれ自分をおびやかす存在になる。


そう思った男はカラスが12歳になった日、カラスを訓練中の事故に見せかけて殺そうとした。

だが、カラスはそれを察知すると男を返り討ちにした。

そしてその一年後、カラスは男の所属していた組織に殺し屋として雇われることになる。



「さてと……行くか」


ズボンの右ポケットにピストルを、左ポケットにナイフを忍ばせたカラスは、ターゲットを監視し、あわよくば始末するために、再び外へと繰り出すのだった。

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