6-4.黒幕の正体
「A班からE班は所定に位置へお願いします!」
「館内は私たちが見回ります」
「私も手伝うわ!」
ハルジオン中央区の中心にそびえるカタリーヌ邸。
広い庭園にて、騎士や警備団にエリーが指示を出し、ミラノとルージュが館内の警備を取りまとめている。
「こっちはアーたちが守るよ!」
「フハハハハ! 我らに任せるのじゃ!」
「頼もしいっスね!」
屋敷の正面には、腕を組んで仁王立ちするアラーネとプラム。
そして、その二人をサポートすべくソルトが控えていた。
カタリーヌ救出組がヒカリエを発ってすぐ、居残り組はカタリーヌ邸の警備を強化した。
プラムさんの勘とハルさんの推測が重なった以上、ここが襲撃されることは間違いないでしょう。
おそらく少人数で密かにやってくると思われますが、私たちはどんな敵が来てもいいように、万全の状態で待ち構えなければなりません。
指示を出し終えたエリーは、プラムたちが守る正面へ向かいながらそんなことを考えていた。
「ハルさんたちは……大丈夫でしようか」
「ハル様に任せておけば何も問題はないのじゃ」
「そうだよ。ハルお兄ちゃんを信じてアーたちはアーたちの仕事を頑張ろう」
「……そうですね! 私としたことが、少し弱気になっていたみたいです!」
ふと不安を口にしたエリーをプラムとアラーネが元気付けた。
二人の励ましに、エリーもかぶりを振って気合いを入れ直し、まだ見ぬ敵へと意識を集中させるのだった。
――
ハルジオンから数時間。
以前、エリーたちと一緒に依頼を行った林の中。
俺たちはとある洞窟の入り口付近で草陰に身を屈めていた。
「エリーの予想通りだな」
「うん。中にたくさん人がいる。私にも分かる」
『マナ視の魔眼』を開眼した俺は、洞窟内を動き回る無数の人型のマナを視認した。
同じ魔眼を持つルナも間違いないと言うのだから、ここが盗賊団『サルジア』のアジトなのだろう。
「エリーの言ってた通りだったね!」
「流石ですわ。調べていたとは言っていましたが、本当に尻尾を掴む寸前だったようですね」
俺の後ろで、リリィとマリンも小声で頷き合っている。
「早く行こう」
ルディッツは既に戦闘態勢だ。
しかし、一旦落ち着いてほしい。
ハルジオンからこの洞窟まで、かなり警戒しながら進んできた。
おそらく俺たちの行動が敵に筒抜けってことはないだろう。
せっかくバレずにここまで来れたんだ。
焦って見つかっては意味がない。
「落ち着けルディッツ。俺とルナが索敵と捜索をしながら前を進むから、ルディッツたちは背後を警戒しながらついてきてくれ」
俺は行動方針を全員に伝え、慎重に洞窟へと侵入した。
――
入り口付近は特に何もない、普通の洞窟といった感じだった。
しかし、ある程度奥まで進むと、所々に松明が設置され、団員も歩き回っていた。
ちょっとやばいかと思ったが、洞窟内が入り組んでいるおかげで、徘徊する団員を先に察知し上手く避けながら進む事ができた。
「見つけた!」
先頭の俺は声を殺しながら後ろのみんなに告げる。
少し開けた広間のような空間に出た俺たちは、隅の方で拘束されたカタリーヌさんとミーシャを発見した。
「無事でよかったよ!」
「もう安心ですわ」
俺たちが二人へ駆け寄ると、二人とも憔悴しきった顔をしており、俺たちを安堵し目に涙を浮かべていた。
そんな二人を安心させるように、リリィとマリンが声をかけている。
二人は両手足を拘束されているが、特に暴力を加えられた形跡はない。
「怪我はなさそうだな。あとはこの拘束を外せば……」
二人の無事に安堵し、俺はつい気を抜いてしまった。
「な、何だ貴様ら!?」
背後から響く大きな叫び声。
俺たちが慌ててそちらへ振り返ると、どう見てもただの団員ではなさそうな雰囲気を持つ数人の男女が、各々武器を構えて立っていた。
しまった!
索敵を怠った!
二人が無事だったことで油断した俺のミスだ!
自分の失敗を悔いつつも、これからどう動くかを脳内で思考を巡らせていると、リリィがキッと盗賊たちを睨みつけながら叫んだ。
「アタシたちは冒険者クラン『ヒカリエ』! カタリーヌとミーシャの友達だ! 二人を返してもらうよ! ついでにアンタたちを捕まえて黒幕を暴いてやる!」
リリィの叫びに、前に立つ太ったハゲ頭の男が憤慨し、波打つ灰色の髪の美女は笑った。
「なんじゃとーー! ガキが舐めおって!」
「こんなに早くここを突き止めるなんてねぇ。思ったよりもやるじゃないかい。それとも、ハマーの部下がまたヘマでもしたのかねぇ」
「グレース貴様!」
二人は俺たちの前で罵り合いを始める。
仲が悪いのか?
よくこの状況で喧嘩を始められるな。
俺が呆気に取られていると、二人の後ろに立つ背の高い紺色の髪の男が一言、「黙れ」と呟いた。
声に乗った威圧感と二人の反応ですぐに分かった。
こいつがボスだ。
紺色の髪の男は切長の目をこちらに向け、静かに、しかし強烈な威圧を込めて言った。
「お前たちのことは特に依頼を受けていない。後ろの娘二人を差し出せば手出しはしない」
その言葉に一瞬たじろぐも、
「そんなこと、できる訳がないだろ!」
「そうだよ! でなきゃこんなところまで来たりしないよ!」
「俺の仲間も返してもらうぞ!」
俺に続いてリリィとルディッツも吠え返す。
俺たちが抵抗を示すと、男は口の端を釣り上げた。
「クックック……いいなお前ら、面白いぜ。こんな小娘の誘拐なんてつまらねー仕事だと思っていたが、面白くなりそうだ……」
男の目が鈍く光り、右手が剣の柄に据えられた……その時、
「おい、何をやっている? 早く情報を……」
「なっ……!?」
盗賊たちの背後からそう言いながらやってきた男を見て、それが俺の知る顔であったことに驚愕した。
この場には不似合いな、身なりのいい金髪の男。
マルツォーネ・ロッズ・ハイリススフィアが立っていた。
「マ、マルツォーネ……さん?」
特に拘束されている様子はない。
自然なたたずまいで盗賊団と並んでいる。
まるでそちら側に人間であるかのように。
「なぜ……なぜお兄様が、そちら側にいらっしゃるのですか……?」
信じられないといった表情で、カタリーヌさんが弱々しい声でそう言った。
マルツォーネさんはそんなカタリーヌさんを一瞥し、嫌そうな顔で舌打ちしながら答える。
「なぜか、だと? 決まっている。お前が目障りだったからさ」
以前に会った人物とは別人かと思えるほど、その声は低く、憎しみを感じさせる声色だった。
カタリーヌさんはショックのあまり目に溢れんばかりの涙を浮かべ、力なくその場にへたり込んだ。
マルツォーネは続ける。
「私が何年ポルティーニの町長などというくだらない役を務めたと思っている。どれほどの間、あの傲慢な父の相手をしていたと思っている。全てはこの領地を手中に収めるためだ……それなのになんだ!? 迷宮に香水だと!? ハルジオンは我が管理地を抜いて領内トップの成果を挙げた……末娘というだけで父から気に入られ、運よく使い勝手のいい冒険者を引き込んだだけのお前が! 何もしていないカタリーヌが領主候補だと!? ふざけるな!」
「それは違います! お父様は……」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ! あの男は最初からカタリーヌ、お前を領主にする気だったんだ! だから私がいくら成果を出しても認めなかった! お前さえ……お前さえいなければ!」
声を荒らげ、マルツォーネが怒りを爆発させる。
尊敬していた兄からの拒絶に、カタリーヌさんはとうとう泣き崩れてしまう。
マルツォーネの暴言は続く。
「あの男はいつもいつも私にばかり文句を言ってくる! 私の方がカタリーヌより優れているのに! あの男はそれを認めようとしないクズだ!」
「仕方なく私自らの手でお前を失脚させようと、ハルジオンで悪評を流させたり、召喚士を雇って魔物被害を拡大させたり、直接襲撃させたりしていたのだが……今度はそこの冒険者だ! 『ヒカリエ』といえば王都で活躍していた有名クランらしいじゃないか! ふざけるな!」
「だいたい! 何もできないお前がそんな優秀な冒険者たちを仲間に引き込めるものか! どうせお前かミラノ辺りが色仕掛けでその男を引き込んだんだろ!?」
マルツォーネが言葉を連ねるほど、俺の中である感情がふつふつと湧き上がってくるのを感じた。
ふと、俺はカタリーヌさんがマルツォーネのことを話している時の顔を思い出した。
どこか誇らしげで、一切曇りのない、大好きな兄を慕うただの妹の笑顔だった。
その顔を思い出し、俺は……
「カタリーヌ! お前なんて、お前なんて、死ん……」
「ふざけんなぁぁぁぁぁああああ!!!」
マルツォーネの言葉に憤慨する仲間たちも、マルツォーネを守るように立っていた盗賊たちも、誰一人反応できない速度で、爆発した怒りを込めた俺の拳はマルツォーネの顔面にめり込んだ。
「面白かった!」
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