6-3.重なるピンチ
俺たちが広場へ戻ると、そこにはミラノさんとソルトが倒れていた。
「おい! ソルト! ミラノさん! 無事か!?」
ルディッツが慌てて倒れた二人に駆け寄る中、俺はその場にカタリーヌさんがいないことに気付き、周囲を見回した。
しかし、『マナ視の魔眼』を使用しても、カタリーヌさんを見つけることはできなかった。
それどころか、何があったのかを聞こうにも目撃者すらいない状況だ。
失敗した!
カタリーヌさんの気疲れを考慮して人の少ない時間と場所を選んだのが仇になった!
俺は焦る気持ちを押し隠し、ルディッツの元へ駆け寄る。
「二人は無事か? カタリーヌさんがいない……それにミーシャも」
「二人とも気を失っているだけだ。命に別状はない。すまないハル……俺がこの場に残っていれば」
「ルディッツが気にすることじゃない。護衛は俺の仕事だった。それより今は、これからどうするかを考えよう」
「うう……」
俺たちが気持ちを切り替えていると、ミラノさんが意識を取り戻した。
「ミラノさん! 大丈夫ですか!?」
「ハル……さん……? ……ッ!!」
ミラノさんは一瞬戸惑ったものの、直前の記憶を取り戻したのか、血相を変えて飛び起きた。
「カ、カタリーヌ様!」
「落ち着いてください! ミラノさんも怪我をしてるんですから!」
俺は慌てふためくミラノさんの肩を掴み、冷静になるように呼びかける。
そのすぐ後にソルトも目を覚ました。
二人とも殴打されたようなアザがあるものの、とりあえずは問題なさそうだ。
俺は落ち着きを取り戻したミラノさんに、何が起こったのかを聞くことにした。
「ミラノさん、一体何があったんですか?」
「ハルさんが不審者を追っていった直後、同じようなフードを被った者たちに襲撃を受けました」
やっぱりそうか。
あの足の速いやつは囮だったんだ……クソッ!
俺が内心で悔やんでいる中、ミランさんの話は続く。
「私たちを囲むように数名、おそらく男性でした。ソルトさんが私たちを守るように動いてくださったのですが……」
なんでも、ソルトが女性たちを守ろうと立ちはだかったらしい。
しかし、元々戦闘能力の低いソルトではその数を相手には数秒ともたなかった。
背後で魔法を使おうとしたミーシャの詠唱時間を稼ぐこともできず、すぐに倒されてしまったそうだ。
その男たちはそのまま二人を守ろうとしたミーシャへ迫り、あっという間に無力化、拘束した。
そしてカタリーヌさんを守るミラノさんに襲いかかった。
「私も腕には多少覚えがあったのですが、後からやってきた小柄な二人組……声を聞いた感じでは少女だと思います。その二人に全く歯が立たず……」
以前、カタリーヌさんに厳しい言葉をかけた時、それに憤慨したミラノさんにナイフを突き立てられたことがある。
そんな俺から言わせてもらうと、ミラノさんはかなり強いと思う。
闘気と『マナ視の魔眼』を使用しない素の俺では相手にならないかもしれない。
ミラノさんはミーシャさんを助けようと孤軍奮闘。
あと一歩というところで、乱入してきた子供二人に妨害され、そのまま為す術なく敗れたらしい。
薄れゆく意識の中、カタリーヌさんとミーシャを拘束した男たちが「どっちだ?」、「両方連れてけ」という話をしていたそうだ。
悔しそうに話すミラノさんに、俺は思わず聞き返してしまう。
「ミラノさんが負けたんですか!? 子供に!?」
「はい。申し訳ありません」
まだ信じられないが、事実なのだから信じるしかない。
誘拐か……
急いで二人を探さないと……
でもその前に。
「俺はヒカリエに戻って仲間たちに状況を伝えてきます。ミラノさんは一度、館に戻ってもらえますか?」
「分かりました。皆にこのことを伝え、急ぎ対策を検討します」
「俺とソルトは警備団に通報してヒカリエに向かう」
俺たちは焦る気持ちを抑えつつ、急いで行動に移った。
――
俺は念のためミラノさんを館まで送り届けてから、全速力でヒカリエへ戻ってきた。
「みんな聞いてくれ! カタリーヌさんが……」
「許せないよ!」
俺が叫びながら勢いよく店の扉を開くと、中からリリィの怒声が響いてきた。
営業日であるはずの店内に客の姿はなく、代わりにヒカリエのメンバー全員がホールに集まっていた。
「ど、どうしたんだよみんな揃って……なんでそんなに怒ってるんだ?」
突然の大声に出鼻を挫かれ、俺はおずおずとリリィにそう尋ねた。
「あ、ハル! 聞いてよ! アタシたちの研究工房が誰かに荒らされてたんだよ!」
そう言って説明してくれた内容を聞いて、俺は目眩がしそうになった。
花の商品を開発・製造していた工房に何者かが侵入したらしく、機材や書類がめちゃくちゃに荒らされていたらしい。
たまたま誰もいなかったから人的被害はなかったらしい。
収穫祭直前でソアラさんたちも忙しかったのは不幸中の幸いだった。
それでも、工房の復旧にはすぐにはできない状態らしい。
ただでさえカタリーヌさんが誘拐されて大ピンチだってのに、ピンチは重なるものなのか。
その話に俺が呆然としていると、ルナが心配そうな顔で聞いてきた。
「ハル大丈夫? 何か慌てていたみたいだったけど……」
「そ、そうだった! こっちも大変なんだ! カタリーヌさんが誘拐されたんだよ!」
俺の発言に、今度は他のみんなが驚愕した。
「ハ、ハルくん! 誘拐ってどういうことなの!?」
「そうですわ! そちらにはあなたやミラノさんがいたのではないのですか!?」
「実は……」
俺は先程の襲撃をみんなに伝えた。
俺の説明を聞いたメンバーはさらに怒りをあらわにする。
声を荒らげ、みんなが誘拐犯に対して憤慨する中、
「むむむ、もしかすると、『サルジア』という盗賊団の仕業かもしれません」
と、腕を組みながらエリーが言った。
盗賊団『サルジア』。
ここ最近ハイリススフィア領内で勢力を拡大している盗賊集団だ。
神出鬼没な連中で、領主が先導して捜索してはいるものの、なかなか尻尾が掴めていない。
それがつい先日、ハルジオンの近くで目撃情報が上がっていたらしい。
「カタリーヌさんが狙われていると聞き調べていたのですが……先を越されてしまいました」
「エリーよ。今落ち込んでも何も変わらないのじゃ」
「そうだよ。今はカタリーヌちゃんとミーシャちゃんを助ける方法を考えよう」
悔しそうにうなだれたエリーを、プラムとアラーネが慰める。
「我が思うに、犯人はカタリーヌの功績を盗もうとしておるのではないか? 我にはこの誘拐と工房荒らしが繋がっているように思えるのじゃが」
ふと、プラムがポンコツらしからぬ鋭い考察を述べ、みんなの視線が一斉にプラムへと向けられた。
確かにそうかもしれない……
まだ何の確証もないが、なぜかそうじゃないかと思わせられた。
「おそらく次は、身代金として研究成果を渡せと要求が……」
プラムがそこまで言った時、バンと店の扉が開かれ、警備団に通報に行っていたルディッツたちと、なぜかミラノさんが入ってきた。
「ミ、ミラノさん? 館で待っているように言ったはずじゃ……」
「ハルさん……これを……」
困惑する俺に、ここまで走ってきたのであろう息を切らせたミラノさんが、一枚の紙を差し出してきた。
「これは……まさか!?」
俺はその紙の内容を読んで驚愕した。
その紙は手紙になっていて、差出人はカタリーヌさんを誘拐した犯人であると思われる。
「カタリーヌを返してほしければ……花の商品についての製造方法を渡せ……」
ついこぼれた俺の言葉に、今度はみんなも驚愕し、そしてさらに憤慨した。
まさか本当にプラムが言った通りの展開になるとは……
こいつが犯人なんじゃないかって疑いたくなるレベルで的中してやがる。
俺が驚いていると、リリィが激怒し、仲間を誘拐されたルディッツがいきり立つ。
「本当に許せない! 今すぐその盗賊団のアジトを探して殴り込んでやる!」
「俺も付き合うぞ! 仲間を攫われて黙っていられるか!」
「ち、ちょっと待て!」
店を飛び出そうとする二人を何とか引き止め、俺は状況を整理する。
「マリン。工房から研究に関する重要な書類は盗まれていないか」
「ええ。大切な情報は全てカタリーヌさんのお屋敷に保管しておりますわ」
「分かった。次にミラノさん。館ではその情報は流出してはいませんか?」
「はい。今回の商品に関しては最重要機密として、館でもカタリーヌ様に近いごく一部の者しか知りません。重要な研究資料の保管も秘密裏に行っています」
「ということは、工房に情報がないと分かった犯人が館を狙る可能性があるな」
俺の結論に、みんなもハッとして頷いた。
「ここはチーム分けをした方がいいわね……月光にカタリーヌちゃんとミーシャちゃんの救出を任せて、残りでお屋敷を守りましょう」
ルージュさんの言葉に一同は力強く頷く。
「ソルト、お前はルージュさんたちについていって補助してやれ。俺はハルたちと一緒に殴り込みにいく」
怒りを必死に抑えるルディッツの気迫に押され、ソルトは無言でコクコクと頷く。
「よし! 手紙では三日後に指定された場所へ来いとあるけど、俺たちは今すぐに行動に移るぞ!」
「おおーーー!!!」
俺の号令に気合いの乗った返事が響く。
俺たちは決戦に向けて駆け出したのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
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