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6-2.襲撃

ミラノさんからの依頼を受けた俺たちは、カタリーヌさんの護衛に就くことになった。


本来なら二人は護衛に就きたかったが、収穫祭を二週間後に控えたヒカリエはかなり忙しい。


カフェを営業する傍らで、ルージュさんは実行委員として昼夜を問わず出かけているし、ルナとマリンは服飾関係、リリィとアラーネは甘味の露店を出店する計画があり、その準備に追われている。


露店の計画がない俺とエリー、プラムは忙しいルージュさんや他のみんなを手伝っていた。


そんな余裕がない中での護衛任務になるため、俺、ルナ、リリィ、マリン、プラム、アラーネ、エリーの七人の中から一人ずつ、交代交代(こうたいごうたい)でカタリーヌさんの護衛に就くことになった。


まぁ、二人もヒカリエの人間がいるとカタリーヌさんも不審に思うだろうし、ちょうどよかったと思うことにしよう。


ルナ、リリィ、マリンときて、今日は俺の番だ。


「おはようカタリーヌさん。こんなところで奇遇ですね」

「まぁハルさん、ご機嫌麗しゅう」


白金髪の豪奢で美しい髪、澄んだ金の瞳、スレンダーな細身に豪華な衣装を纏った美少女。

彼女こそこのハルジオンの町長にして、領主の末娘、カタリーヌ・ロッズ・ハイリススフィアである。


「昨日もマリンさんにお会いしましたし、その前も……なんだか不思議なことですが……」

「あはは、そんな偶然ってあるんですねー」


小首をかしげるカタリーヌさんに、俺は慌ててそう返した。


流石にこうも連日俺たちが傍にいればおかしいとも思うよな。

さも偶然を装ってカタリーヌさんに同行しようとしたが、俺の演技力じゃ次は上手くいかなそうだ。


俺は内心で冷や汗を流しながら、適当に言い訳をしてカタリーヌさんについていくことにした。


カタリーヌさんはミラノさんと俺を伴い、町の西地区の視察をして回る。


「町長さんじゃないか! お疲れ様です!」

「カタリーヌ様のおかげでハルジオンはいい町になりましたよ」

「ありがとう! 今日も可愛いよ町長さん!」


道行く人がカタリーヌさんを見るなりそんな声をかけてくる。


本来であれば貴族にこんな気軽に声をかけるなんて無礼なんだけど、カタリーヌさんは嫌な顔一つせず、笑顔でみんなに答えていた。


「カタリーヌさん、すっかり人気者ですね。あんなに町民と距離が近い町長なんてなかなかいないんじゃないです?」

「私としてはカタリーヌ様にあのような態度で接されるのは不愉快なのですが、カタリーヌ様が嬉しそうですので我慢しています」


笑顔を振りまくカタリーヌさんの後ろで、俺とミラノさんは小声でそんな会話をした。


以前は町民からの信用を得られず、非難を受けていたカタリーヌさんであったが、今では町民から絶大な支持を受けている。

それどころか、一部ではアイドル扱いまでされているみたいだ。


ヒカリエのみんなとカタリーヌさんでアイドルグループを作ったら、かなり人気が出そうだと密かに思ったほどだ。


そうこうしながらも、俺たちは油断だけはすることなく視察を進めていった。



――



「お、ハルじゃないか。奇遇だな」


一通り視察を終え、広場で休憩していた俺たちにそう声をかけてきたのは、冒険者パーティー『トライアス』のリーダー・ルディッツだった。

彼の後ろには二人の仲間、シーフのソルトと魔法使いのミーシャもいる。


「オッス。こんなところで……何を……してるん……ですか?」


気軽に挨拶を済ませるまではよかったが、ルディッツの後ろに立つミーシャに目を向けた途端、俺は言葉に詰まった。


「ハルさんやっほー。似合うかしら?」


ミーシャは笑顔でそう言うと、くるりと優雅に回転して見せた。


俺の目はそんな彼女釘付けになる。


ミーシャはいつもの魔法使いらしいローブ姿ではなく、とても豪華で見栄えのいいドレスをその身に纏っていた。

彼女の瞳と同じブルーを基調としたドレスは、綺麗に編み込まれた金髪によく似あっている。


「何っスか? 似合わな過ぎて絶句してるんスか?」

「普段と違い過ぎて困ってるんだろ?」

「あんたたち何言ってんのよ! 流石に失礼じゃないかしら!?」

「そうですよ! とってもお似合いじゃないですか!」

「ミーシャさん、とてもお美しいです」


からかうルディッツたちを嗜める女性陣。


何やら言い合いを始めたが、そんなことはどうでもいい。


問題は別にある。


「ミ、ミーシャさん……とても似合っていて可愛らしいんですが……そのドレス、一体どうしたんですか?」


俺が上擦った声で尋ねると、ミーシャは嬉しそうに笑って答えてくれた。


「なんで急に敬語なの? まぁいいけど……このドレスはね、マリンさんからもらったのよ!」


やっぱり!

そうじゃないかと思った!


女性の体を美しく見せるライン。

華やかな装飾。

そして……全体的に肌色が多い。


すぐに分かった。

間違いなくマリンのデザインだと。


なんでも、マリンとルナが出店予定の露店に売り子として参加するらく、そのお礼が今着ている露出度の高いドレスらしい。


嬉しそうにしているミーシャさんには言いにくいが、その恰好で町中を出歩くのは考え直した方がいいと思う。


「そ、そうなんですか。いいと思います。大人らしいというか、なんというか……いいと思います」

「ありがとうハルさん! 私もカタリーヌちゃんみたいに大人っぽくなりたいって思ってなのよ!」


考え直した方がいいとは思うが、俺はつい彼女の体に向いてしまう視線を必死に逸らしながらミーシャを褒めたのだった。


そのまま雑談していると、視線の端でキラリと何かが光った気がした。

その瞬間、ミラノさんがそちらを指差して声を上げた。


「不審者です! 刃物を持っています!」


俺はすぐさまそちらへ目を向けると、目深(まぶか)にフードを被った怪しげな人物が、身を隠すようにしながらこちらを(うかが)っていた。


そいつはミラノさんの声を聞くなり踵を返し、路地の奥へと駆け出した。


「追います! みんなはカタリーヌさんを!」


俺は短く指示を出し、全速力でフードの人物を追いかけた。


速い!

本当に人間か!?

闘気を纏っての全速力なのに、追いつくどころかどんどん離される!


結局、俺はフードの人物を取り逃してしまった。


「くそっ! 速すぎるだろ!」


俺が肩で息をしていると、背後からの足音に気付いた。


「ハ、ハル……お前、足も速いんだな……」


振り返ると、そこには膝に手をついて息を切らすルディッツが立っていた。


「いや、あのフードの方がもっと速かったよ……というかルディッツ、カタリーヌさんたちは!?」

「ああ、ソルトとミーシャに任せてきた」


フーッと息を整えたルディッツは何とはなしにそう返してきたが、俺は何とも言えない不安に駆られた。

次の瞬間。


「キャー―――!!!」という悲鳴が、先程までいた広場の方から響いてきた。


「クソッ!」

「マジかよ!?」


俺とルディッツは悲鳴を聞くなり、慌てて来た道を戻ったのだった。

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