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14.農業革命と動き出す悪意

色々あったが、俺たちはカタリーヌさんを無事にハルジオンへと送り届ける事ができた。


それにしても、俺たちがいない間に花の栽培だけでなく、花の蜜という新商品まで出来上がっていた。

確かに行動力の塊みたいなメンバーを残して行ったけど、これは本当にすごいことだと思う。


カタリーヌさんを屋敷へ送り届けた後、俺はもう一度みんなをねぎらった。


「みんな本当にすごいよ」と、素直に称賛する俺。

「花の蜜があんなに甘いなんて知らなかったよ!」と、蜜の味を思い出して涎を垂らすリリィ。

「花の安定供給に目をつけるとは流石ですわ」と、信頼の眼差しを送るマリン。

「感服」と、一言で居残り組に敬意を示すルナ。


「んー、でもね、問題もあるのよね」


俺たちの称賛に、苦笑いをするルージュさん。


問題だと?

花の栽培ができるのなら、もう他に問題なんて……


俺が考え込んでいると、エリーがルージュさんの発言に頷いて答えた。


「はい。花は種類によって開花時期が異なります」

「そうなの。今は春から夏のお花だけど、秋になるとそのお花はもうないの」

「夏の花の香りが好きでも、その香水を一年中使うことができないのじゃ」


アラーネやプラムも難しい顔でそう説明してくれた。


いやいやどうする?

これって結構大問題なのでは?

何でこんな当たり前のことに気付かなかったんだ俺は?

季節限定でシーズンごとに香りを変えるか?

いや、そもそも冬の間は花なんてほとんどないんじゃないか?

大量に作り置きしてもダメにしてしまうだろうし……


「これってヤバくない?」

「そうですわね。季節ごとに新たに研究するしかないのでしょうか」

「冬は花がない」

「そうじゃん! やっぱりヤバいよ!」


リリィ、マリン、ルナの三人も俺と同じ結論に至った。


何かないか?

せっかくカタリーヌさんが元気を取り戻したんだ。

また落ち込ませるようなことにはしたくない。


「アイディアマシーン。何かないのですか?」

「そうだよ。こういう時アンタならいい案思いつくでしょ?」

「ハルに任せれば安心」

「そうね。ハルくんならきっといいアイディアを生み出せるわね」

「ハルさんは機転が効きますからね」

「フハハハハ! ハル様の実力を見せつける時なのじゃ!」

「ハルお兄ちゃん! 頑張って!」


思案に耽っていた俺に仲間たちからそんな声がかけられる。


「そんなこと言われてもな……というかマリン、マシーンってなんだマシーンって! せめて人のうちにとどめておいてくれよ! それにプラム! 一体誰に実力を示せばいいんだよ!」


そう文句を言いつつも、俺は腕ん組んで必死に頭を回転させた。


季節によって咲く花は違うんだよ。

それはなぜだ?

種類が違うからか?

そりゃそうだが、そうじゃないな。

植物の成長に必要なのはものは何だ?

水分は必須だろう。

あとは土の栄養と……それと日光か。

季節によって日照時間が違うし気温も違うな。

……気温か?


そこで俺の脳に電流が走った。


「ハル、閃いた?」

「今そんな顔したね!」

「その顔は腹が立ちますわ。早く思いついたことを言いなさい」


俺が何かを言う前にルナたちがそう言ってきた。


こいつら、よく分かったな。

俺の顔ってそんなに表情を読みやすいのか?


「俺の顔は今はどうでもいいだろ。いや、いい案が浮かんだのは確かだけど。季節で咲く花が違う理由を考えたんだけどさ、それってたぶん気温だよな? だから、常に気温を一定に保つことができれば、一年中同じ種類の花を栽培することができるんじゃないか?」


俺の言葉に一同は雷に撃たれたかのように驚愕した。


「流石はアイディアマシーンですわ」と、頬に手を当てて言うマリン。

「なかなかやるね! アタシもそうじゃないかと思ってたんだよ!」と、腕を組み、なぜかしたり顔のリリィ。

「ハルならやってくれって信じてた」と、尊敬の眼差しを向けてくるルナ。

「相変わらずすごいわ! ハルくんの頭の中ってどうなっているのかしら?」と、小首をかしげるルージュさん。

「私たちが何日かけても解決しなかった問題をいとも簡単に……流石です!」と、目を輝かせて称賛するエリー。

「フハハハハ! 流石はハル様なのじゃ!」と、高笑いするが、意味は分かっていなさそうなプラム。

「これでアーのお仕事も上手くできそうだよ! ありがとうハルお兄ちゃん!」と、ハルに抱き付いて喜ぶアラーネ。


極一部、俺を馬鹿にしている奴がいるが気にしたら負けだ。


「そうと決まればどんな方法で気温を維持するかを考えよう」



――



「こ、これを使うんですか?」


ルージュさんたちが協力を要請していた農家の一人であるビートさんは、カタリーヌさんの持つ魔道具を見て不思議そうに首をかしげている。


「この魔道具を使用すれば、一年中同じ種類のお花を育てることができますわ」


カタリーヌさんがそう言うと、俺たちは畑に魔道具を設置し始めた。


俺が出した気温を一定に保つというアイディアをみんなで煮詰めた結果、そういった保温効果を持つ結界で畑を覆うという形に落ち着いた。

それをルナが魔道具という形で再現してくれたのだ。


「こんな感じの魔道具って他の町とかにはないのか? 畑仕事を生業としている農家なら、一年中作物を収穫したいって考えなかったのかな?」


ふと気になって、俺は魔道具を製作していたルナに聞いてみた。


館に付けてもらったお湯を生み出す魔道具にしても、今回の保温結界にしても、すでに誰かが思いついて実現していてもおかしくないものだと思ったからだ。


しかし、ルナから返ってきた言葉は違った。


「多分、ないと思う。農民は魔法に詳しくないし、魔道具を作る私たちは魔物などへの対抗手段としてしか考えていない。明かり灯す『ライト』という魔道具も、暗がりでの戦闘や迷宮(ダンジョン)探索のために開発された。生活の質を向上させようなんて余裕のある考えは、ハルにしかできない」


確かに、大国であるエルシア王国ですら、魔物被害はなくならない。

一般人は魔物に対してほぼ無力なのだ。

だとすれば、魔物から身を守る戦闘用の魔道具ばかりが作られるのも当然なんだろう。


俺は納得するとともに、褒められているのか、のんびりしてると呆れられているのか判断に困る回答に苦笑したのだった。


魔道具の設置が完了し、問題なく結界が張られた。


「これで結界内の温度を一定に保つことができますわ。用意した出入り口以外では外部からの侵入はできません。野生動物や魔物、冬季の降雪時も被害は受けませんわ」

「こ、これはすごいですよ町長! 農業革命です!」」


ビートさんは何度か出入りを繰り返し、驚き叫んでいる。


「これで同品質の香油や香水、花の蜜が用意できるな」

「はい。指摘されていた課題に加え、見落としていた問題も解決できました。ハルさんたちのおかげで、お父様からも商品化を認めてもらえます。本当にありがとうございました!」


俺が声をかけると、カタリーヌさんは嬉しそうに金の瞳を輝かせた。


こうしてハルジオンはさらに発展し、ハイリススフィア領での立場を向上させていくのだった。



――



「認めない、絶対に認めない。私が今までどれほど……認めてなるものか!」


豪華に装飾された部屋の中。

書類に目を通し終えた金髪の青年は、怒りのままに手に持つワイングラスを壁に叩きつけた。


青年は肩で息をするほどに興奮し、怒りで目を血走らせている。


「落ち着きなよ。そんなに怒ったところで何も解決しないだろ」


そんな怒り狂う青年に、ソファーに深々と腰を掛けてくつろいでいた糸目が特徴的な茶髪の男が、気安い口調でそう言った。


「黙れサジ! 貴様が失敗しなければこれほどの怒りを感じることはなかったんだ! もう失敗は許されないぞ!」

「はいはい、もう失敗しないって。次はもっと腕の立つ幹部クラスの団員を使うし、なんなら俺も出るから。任せておいてよ」


怒気を放つ青年に肩をすくめつつ、ソファーから立ち上がった男は笑いながらそう返し、部屋を後にした。


侍女に用意させた新しいワインを口に含み、青年は窓の外を睨むようにして言う。


「奴や幹部が動くなら間違いは起こるまい。ふふふ、次こそは覚悟しておくのだな……カタリーヌ!」


青年の笑い声が室内に響く。


ハルやカタリーヌの知らぬところで、悪意はひっそりと動き出すのであった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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何卒よろしくお願いいたします。

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