8.美少女だらけの冒険者クラン
「はぁ……」
俺は昨日のことを思い出し、ついため息をついた。
「大丈夫?」
そんな俺にルナが声をかけてくれる。
「ははは、大丈夫大丈夫。早くヒカリエの人たちと仲良くなれるように頑張るよ」
俺はルナの優しさに苦笑しながら応えた。
――
ギルドでの一件の後。
ちょうどいいとルナは言い、彼女が所属するクランへと案内してもらうことになった。
ルナが所属する『ヒカリエ』というクランは、元々王都で活躍していた超有名クランだったそうだが、ある事件を機に仲間や仕事が激減し、現在はこの町でカフェを経営する傍ら細々と活動しているらしい。
町を歩きながら聞いた説明ではそんな感じだ。
メインストリートを進むと、大きな噴水のある広場に出た。
その広場の一角。
レンガと木材で建てられた温かみのある二階建ての建物。
『カフェ・ヒカリエ』という店にルナに連れられて入っていった。
カランカラーン
「いらっしゃいませ!」
扉を開けると、乾いたベルの音とは正反対に、明るく可愛らしい声が店内に響いた。
「ただいま、ルージュ」
「あら、おかえりなさいル……ナ……え? ええ!?」
ルージュと呼ばれた女性。
サラサラの金髪ロングに綺麗で大きなエメラルドグリーンの瞳。
背は俺より少し低いけど、スタイル抜群の巨乳美人さんだった。
そんなルージュさんはルナの後に続いて店に入った俺を見るなり驚愕した。
「ル、ルナが! ルナが男の人を! 男の人を連れて帰ってきたわ!」
「あ、いや、これは……」
ルナの言葉をかき消すように、ルージュさんは嬉しそうな悲鳴をあげている。
「どちら様? お名前は? ねぇねぇ紹介して? どういう関係なの?」
両手を頬に当て、キャーっと奇声を上げながら、ルージュさんはピョンピョンと飛び跳ねていた。
「どうしたの!? 何があったの!?」
「悲鳴なんて上げて……何事ですかルージュ」
カウンターの奥から二人の女性が顔を出す。
一人は赤毛のショートボブの少女。
毛先が外に跳ねて活発な印象を受ける。
幼さの残る可愛らしい顔に猫のようにつり上がった真紅の大きな瞳。
背は結構低く、多分150センチもない。
幼い容姿からもまだ子供だと思うんだけど、エプロンを腰で巻きカジュアルで大人びた店の制服を見事に着こなしている。
もう一人は純白のゆったりとした神官衣の女性。
桃色のフワッとした長い髪を腰のあたりでまとめている。
優しそうな碧眼の美女で、背はルージュさんと同じ165センチくらい。
肌を一切見せない神官衣であるにも関わらず、エロスを感じさせるダイナマイトボディのお姉さんだ。
二人は俺を見るなり血相を変え、ズンズンと俺とルナの間に割って入った。
「アンタ一体!」
「ルナの何なのですか!?」
二人は俺の顔を睨むようにしながら同時に聞いてきた。
「あ、あの、お、俺はハルといって……え、えっと、ルナさんに助けられて……」
美女と美少女。
そんな二人に詰め寄られた俺は、持ち前の思春期童貞心を見事に発揮してしまい、なんとも残念な自己紹介を始めてしまった。
「二人とも待って。彼はハル」
おずおずと話していた俺を庇うように、今度はルナが割って入った。
「彼は冒険者の資格を取得した。このクランで私と一緒に活動する」
「んな!? どういうこと!?」
「ルナと一緒にってどういうことですか!?」
ルナの言葉に驚愕する二人。
ふとルージュさんの方を見ると、何やら嬉しそうにニコニコしながら「キャー」と小さく声を上げていた。
「ハルは……私の特別な人だから」
真剣な顔で二人に対して告げるルナ。
マナが見える唯一の人ってことだと思うんだけど、その言葉を聞いた二人は、わなわなしながら俺とルナを交互に見る。
そして二人の視線が俺の左手で止まって絶句した。
「まぁまぁ、せっかくあのルナが連れてきた人なんだから。快く迎えてあげましょう」
固まる二人をなだめると、ルージュさんが俺に言う。
「ようこそ、冒険者クラン『ヒカリエ』へ。これからよろしくね」
「よ、よろしくお願いします!」
満面の笑みとはこのことを言うんだろう。
嬉しそうに俺を歓迎してくれたルージュさんを見て、一応は受け入れてもらったのだろうと思い少しホッとした。
――
そして現在。
各々の仕事に同行して実力を確かめられることになった俺は、まずはということでルナの仕事に同行させてもらうことになった。
ルナの話では、提案者はクランのリーダーであるルージュさんで、メンバーとの親睦を深めるという意図もあるらしい。
今回ルナが取ってきた依頼は、港町まで旅人や荷物を輸送する行商隊の護衛。
片道で一日かかるかどうかの道のりだけど、町での宿泊費を節約するらしく、往路と復路で一泊ずつ野営する二泊三日の仕事だ。
「こういうのはルブルでもやったことがあるから、戦力に加えてもらっていいよ」
勇者パーティー時代にも要人の護衛など、こういった仕事を経験してきた俺は自身ありげにルナに進言した。
「分かってる。頼りにしてる」
ルナはいつもの眠たげな顔で俺を見て言った。
「はっはっは! こいつは頼もしい!」
「最近何故か魔物の発生が多いんだが、まぁよろしく頼むぜ!」
行商隊のメンバーや他の護衛者からも激励され、俺は少し気分が良くなった。
――
往路は問題なく進む。
途中の野営でも魔物の襲撃もなく、肩透かしを食らった。
これだけ人が多い行商隊を襲うような凶暴な魔物は、この付近には滅多に現れないらしい。
護衛に要求された冒険者のランクと仕事の危険度が釣り合っていないと、ルナが依頼主である行商隊のリーダーを酷評していたほどだ。
ただ、輸送先の町で行商隊の仕事終わりを待っていた時、ある噂話を聞いて考えを改めることとなった。
「最近、この町の周辺で野盗が出るらしい。お前たちも気をつけるんだな」
馬車待機所の腰掛けで、偶然隣に座ったおじさんの言葉だ。
こういう情報は護衛者としてはとてもありがたい。
「ありがとうございます。帰り道も気をつけますよ」
俺はそう言って隣で黙っているルナを見た。
この往路で改めて気付いたが、ルナは本当に他人と会話しない。
俺が別の人と会話している時、どうしても行商隊のリーダーと打ち合わせをしなければならなくなり、筆談でやりとりしていたほどだ。
その方が逆に恥ずかしいのではないかとも思ったが、俺にだけは躊躇することなく話しかけてくれるので、正直嬉しい。
そんなことを考えていると、すぐに復路の出発時刻になった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「この後一体どうなるのっ……!?」
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