12.突然の襲撃
「んな!?」
「ちょっ!?」
不意を突かれた俺とリリィは反応が遅れ、棒立ちとなってしまう。
キーン!
振り下ろされる刃が、飛び出してきたルディッツの盾が受け止める。
「オラァ!」
ルディッツは気合いでその剣を押し返すと、そのまま右手に握る剣でその男を斬って捨てた。
ルディッツはそのまま俺たち二人の前に立ち、油断なく身構える。
「野盗の集団っスね! 前方に五人! 左右に三人ずつ! さらに後方に二人! 多分遠距離系じゃなくて支援系っス!」
背後からソルトの声が響く。
振り返ると、ソルトが暗視用の魔道具を装備して周囲を見回し、的確に前衛のルディッツに情報を伝えていた。
「ルディッツ! 奥の二人は私に任せて!」
ソルトの後ろに立つミーシャがルディッツにそう声をかけ、魔法の詠唱を開始する。
以前、ナーズの森で共闘した時はお粗末な連携だった三人が、今は冷静に連携を取り合っている。
ルディッツはむやみに突っ込まず、全体を守れるように位置取っている。
ミーシャは闇雲に魔法を連発せず、前衛を巻き込まないように注意を払っている。
そしてソルトはただ逃げ惑うのではなく、全体をよく観察して二人の連携をサポートしていた。
「ハル!」
俺が立ち尽くしていると、隣にいたリリィに呼びかけられハッとする。
「ボーっとしてないでアタシたちも!」
「そうだな!」
俺は前衛に進み出ると、『マナ視の魔眼』を開眼してルディッツをサポートするように立ち回った。
俺とリリィが参戦して人数が増えたことと、相手がそこまでの強敵でなかったことで、俺たちは逆に相手を押し返していく。
「ク、クソ! こんなに護衛が多いなんて聞いてないぞ!」
「話が違うじゃねーか!」
「こんな依頼、割に合わねーよ!」
そんなことを言い残し、生き残った野盗たちは逃走していった。
完全に不意を突かれた襲撃だったが、俺たちは一人のけが人も出さず、無事に難を逃れた。
「何があったの?」
いつの間にか俺の横に立っていたルナにそう問われる。
「野盗に襲われた。まだ次が来るかもしれない」
「野盗ですって? カタリーヌさんを守れるように体勢を立て直しましょう」
ルナと一緒に起きてきたであろうマリンの言葉に、俺たちは警戒を強めた。
――
「で、あなたたちは見張りをサボって、お二人で一体何をなさっていたのですか?」
マリンが頬に手を当て、嬉しそうに笑みを浮かべたまま、正座をする俺とリリィを問い詰める。
「すみませんでした!」
俺たちは地に頭を付ける勢いで土下座をした。
二度目の襲撃を受けることはなく、俺たちはそのまま朝を迎えた。
そして現在、見張り役だった俺とリリィは、野盗の接近を許したということでマリンから説教を受けていた。
仲間を危険にさらしてしまったんだ。
怒られて当然だ。
でも、これだけは言わせてほしい。
あの時は!
仕方なかった!
普段ならもっと早く接近に気付けていただろう。
マナ視を使っていれば尚更だ。
しかし、あの時はある種の状態異常を起こしていた。
俺も、リリィもだ。
結局、リリィの質問には答えていないままだ。
自分自身の気持ちの整理もついていないんだから仕方ない。
そう自分に言い訳をする。
俺は自身の弱い心に情けなさを感じつつも、問題を先送りにしたのだった。
「まぁまぁ、誰も怪我してないんだ。今回はそれくらいでいいだろう」
そう言って、ルディッツが俺たちとマリンの仲裁に入ってくれた。
男性のルディッツが割って入ったことで、マリンは勢いを失った。
「それより、俺が気になってるのはあの逃げていった野盗たちの台詞っス」
「そうよね。話が違うとかなんとか言ってたわ」
「どういうこと?」
一緒に戦っていたソルトとミーシャの発言にルナが食いついたことで、話題は俺たちから襲ってきた野盗へとシフトされた。
とういか、ルナもやっとトライアスの三人に慣れてきたみたいだ。
少しずつ会話に混ざれるようになってきた。
マリンは相変わらずミーシャ以外には自分から話しかけることはないが。
「確か……護衛がこんなに多いなんて聞いてない、みたいな内容だったよ」
「ということは、昨晩襲ってきた野盗たちは、護衛がわたくしたち月光のみだと思っていたのでしょうか」
「なるほど、私たちトライアスが加わったことを知らなかったのね」
「依頼されたような物言いだったな」
つまり、俺たちの情報をしっかり確認した上で、あいつらを雇って襲撃させたのか。
初日の夜営を狙ってきたということは、俺たちがハイリススフィアを出た時間帯まで把握されている。
かなり計算された計画だったようだ。
「ってことは、犯人はハイリススフィアで俺たちを見ていたんだろうな」
俺の言葉に全員が難しい顔をしながら頷いた。
「な、なぜ私を狙うのでしょう……お金でしょうか」
そう言って、胸の前で両手を握るカタリーヌさん。
その手は恐怖で震えていた。
「カタリーヌ様……」
そんなカタリーヌさんの肩を抱くミラノさん。
いつもクールで強気なミラノさんだが、今はどこか不安そうだ。
他二人の従者も顔色が悪い。
夜の間、カタリーヌさんを守るためずっと緊張していたのだろう。
疲れていても仕方がない。
それに、それの原因は見張り役の俺たちにある。
「怖い思いをさせてしまってすみませんでした。でも、もう大丈夫です。何があっても俺が守りますから」
「うん! アタシももう油断しないよ!」
怯えるカタリーヌさんとミラノさんをそう励ましつつ、俺とリリィは笑顔を作った。
同じ失敗を繰り返さない。
そう心に誓いながら。
そして俺たちは、警戒を強めながら旅を続け、無事にハルジオンへと帰還したのだった。
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