11.リリィの気持ち
「では、ミーシャさん方がお兄様の護衛をなさっていたのですか?」
「そうなの! こんな偶然って本当にあるのね!」
カタリーヌさんの質問に、トライアスのミーシャさんも笑って言う。
トライアスが同行することに、カタリーヌさん一行は快く了承の意を示してくれた。
それどころか、道中でカタリーヌさんとミーシャさんが17歳で同い年ということが判明し、二人は友達のように仲良くなった。
「マルツォーネさんってどんな人だったの?」
「いい人だったわよ! 仕事熱心だし、お貴族なのに平民に優しいし」
「そうなんです。私もお兄様のようになりたくて……」
そこに来月17歳になるリリィが加わり、三人で楽しそうに馬車に揺られている。
館や街中では貴族らしく振舞っていたカタリーヌさんであったが、俺たちだけの状況になるとすぐさま素に戻っていた。
それでいいのかと少し心配にもなったが、公私の使い分けができるのであれば問題ないかと内心で苦笑するにとどめた。
――
その日の夜。
ルナとマリン、俺とリリィ、トライアスで交代して夜の見張りをすることになった。
「そういえばさ、リリィは何で冒険者になったんだ?」
ルナたちと交代してしばらく経ち、暇になってきた俺は、何とはなしにリリィにそう聞いた。
「んー……まぁ、アンタならいいか」
リリィは少し悩んだ後、そう言ってから語り始めた。
「アタシが魔力を制御できなかったことは知ってるでしょ。初めてアタシの魔力が暴走した時ね、家が火事で全焼して、その火事でお母さんが死んじゃったんだ。すごく悲しくて、責任も感じてて、自分が許せなくて……、最初はお父さんもアタシのせいじゃないって言ってくれてたんだけど、やっぱりアタシのことが許せなかったんだろうね。ある日、アタシを置いてどこかに行っちゃったんだよ。もう嫌になって、死んじゃおうかなって思ってたアタシをルナが保護してくれて、ルー姉に誘われて冒険者になったんだ」
「それは……悪かった、辛いこと聞いて」
思わず言葉に詰まった。
軽い気持ちで聞いたら、まさかの重い展開に。
リリィの顔は揺れる焚火の明かりではっきりとは見えないが、きっと辛そうな表情をしているのだろう。
俺が申し訳なさそうにしていると、リリィは気を使ってくれたのか、少し明るい口調で言う。
「気にしてない……って言ったら嘘になるかな。でも、もう大丈夫なんだ。今はルナと……ハルのおかげで救われたんだよ。だから、その、ありがとう」
「俺が何かしたか?」
「何度もアタシのこと助けてくれたじゃん。それに魔道具も作ってくれたし」
「それはルナの力だろ」
「ハルがいなかったら作れなかったってルナが言ってたよ。アタシもそう思ってるし。だからありがとうなの。というか、アンタの方が大変そうって思うよ。あのヘナチョコからパーティー追い出されたんでしょ? しかも魔物の囮にされて」
俺が大変そう、か。
確かにカナタから追い出された時は大変だったけど、今はなんやかんや楽しくやれていると思う。
それは仲間たちのおかげだ。
リリィもその大切な仲間の一人なんだよな……
ふとリリィを見ると、ちょうど目が合った。
すると、リリィの方から口を開いた。
「ねぇ……ハルってさ……す、好きな人とか、いるの?」
突然の直球の質問に、俺はまたしても言葉に詰まる。
い、いきなりこいつは何聞いてきてんだ?
動揺しつつも、ふと俺の脳裏に浮かんだのは、星降る夜の下、月明りに輝く氷に花の上に立ち、黒髪をなびかせる美少女……いつかのルナの姿だった。
俺は……ルナのことが好きなのだろうか?
カナタから裏切られ、死にかけた俺を助けてくれたのはルナだ。
それに今、楽しい日々を過ごしているのはルナが誘ってくれたおかげだ。
今でもその横顔にドキッとしてしまう時も……いや、それは他の仲間でも同じか。
みんな黙っていれば美人だから。
俺は自分の気持ちが分からなかった。
しかし、なぜだろう。
さっきからドキドキが止まらない。
最初はこの質問に対する動揺だと思っていたのだが、何かが違う。
俺の返答を待っている目の前の女の子。
膝を抱えて上目遣いで見てくるリリィに、俺の思春期童貞心が反応しているのだ。
いやいやいやいや待て待て待て。
まだ慌てるような時間じゃない。
リリィは仲間だし……そう、こいつはお子様だぞ?
俺は紳士だがロリコンじゃないんだ。
俺はそう考えることで思春期童貞心を落ち着かせようと努めるが、同時にある事実を思い出してしまう。
リリィは来月17歳。
自分と1つしか年が違わない同年代の美少女である、ということを。
俺はゴクリと唾を飲み、チラッとリリィを見た。
守ってやりたくなるような小さな身体。
細身だが柔らかそうな白い肌。
桜色の瑞々しい唇。
紅潮する頬。
そして、大きくて綺麗な、少し潤んだ赤い瞳と視線が交差した。
目が離せない。
俺の心臓は今までにないほどに早鐘を打っている。
バクンバクンと心臓が飛び出しそうになっている俺の耳に、リリィのこぼれるような声が届く。
「アタシ、さ……ハルのこ……」
「お疲れ様。交代の時間だぞ」
「きゃあああああああ!!!!!」
「ぎゃあああああああ!!!!!」
背後からかけられた声に、リリィと俺は二人で絶叫を上げた。
「な、なんっスかいきなり!?」
「リリィ!? ハル!? 急にどうしたの!?」
驚くソルトとミーシャ。
「ア、アンタたちぃぃいぃ!」と、涙目でルディッツの首を絞めようとするリリィ。
「ななな何でもない、何もない、何もしてない」と、挙動不審になり意味不明なことを言う俺。
「二人とも落ちつ……おい後ろ! 構えろ!」
俺たちを落ち着かせようとしたルディッツが、背後に視線を向けそう叫んだ。
その声に慌てて振り返ると、すぐ後ろで見知らぬ男が剣を振り上げていた。
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