10.カタリーヌのお兄様
トライアスとの再会を果たした俺たちは、交流も兼ねて町を案内してもらったり、彼らの引っ越しの準備を手伝ったりしていた。
ハイリススフィアは中央都市というだけあり、領内から様々な物が流通している。
ハルジオンにはないものも多く、俺たちはカタリーヌさんを待つ間、有意義な時間を過ごすことができた。
そして、カタリーヌさんを迎えに行く日となる。
俺たちは町の中央にある領主の館の前で、カタリーヌさんを待っていた。
トライアスの面々は先に準備を済ませ、町の外門で待っているはず。
敷地への立入許可をもらっていない彼らを、ここに連れてくることはできない。
というか、トライアスと行動を共にすることを、まだカタリーヌさんに話していない。
多分大丈夫だと思うが、ダメだったら三人には悪いが別で来てもらおう。
「お待たせ致しました」
館の正門が開き、中から出てきたミラノさんがペコリと頭を下げながら言った。
「ハルさん、皆さん、お待たせして大変申し訳ありませんでした」
ミラノさんの後から出てきたカタリーヌさんも申し訳なさそうにしている。
「いえいえ、俺たちもこの町を楽しんでいたので、気にしないで下さい」
俺は慌てて二人を止める。
「へぇ、君たちが例の冒険者か」
爽やかな印象を受ける声が、カタリーヌさんたちの背後から聞こえた。
そちらに視線を向けると、サラリとした白金髪をかき上げながら、俺たちを見て微笑むイケメンが立っていた。
背は俺より高く175センチくらい。
中肉中背って感じだ。
そのイケメンが登場するや否や、ルナとマリンが何気ない動作でスッと俺の後ろに立った。
ルナはいつものことだが、マリンまでこんなあからさまな態度を取るのは珍しい。
見ず知らずのイケメンの登場と、背後の二人の動きに若干戸惑いつつ、
「は、はじめまして……えっと、どちら様?」
と、ここが貴族の領域であることを完全に忘れて素で聞いてしまう俺。
「ハル! 口調口調!」
リリィが小声でそう言いながら俺の脇腹を肘で突いてきたことで、自分の失敗に気付く。
屋敷の使用人たちは気色ばむが、イケメンはフッと笑ってそれらを手で制した。
「待て。この者たちはカタリーヌの恩人だ。言葉遣いごときでいちいち気を立てるな。むしろこちらが礼を尽くすべきだろう」
大仰な態度でそんなことを言うイケメンを、カタリーヌさんが紹介してくれた。
「こちらは私の兄、マルツォーネです。どうしても皆様にご挨拶がしたいとおっしゃられて」
「マルツォーネ・ロッズ・ハイリススフィア。ここにいるカタリーヌの兄にして、ポルティーニの町の町長を勤めている。以後、お見知り置きを」
カタリーヌさんの紹介を受け、優雅に一礼するマルツォーネに釣られ、俺たちをペコリと頭を下げる。
ポルティーニっていえば、このハイリススフィア領内で中央都市に次ぐ順位の町だったはず。
そこの町長ってことは、この人がジスターブさんの長男か。
確か長男とは十歳以上離れてるって聞いてたけど、思ったより若く見えるな。
「カタリーヌが持ち込んだあの香水という商品はとても素晴らしい物でした。町の急激な発展も、こうした商品の開発も、あなた方の協力の賜物だとカタリーヌから聞きました」
「い、いえ、俺たちは大したことはしていませんよ。カタリーヌ様のご尽力の結果です」
「謙遜しなくていい。カタリーヌがベタ褒めしていたぞ。父上が嫉妬するほどに」
「んな!?」
あの親バカに嫉妬されただと!?
カタリーヌさんはどんな話をしたんだ!?
後で問い詰めて、次回親バカに会う時に変な言いがかりをつけられないようにしないと!
俺の内心の焦燥を余所に、マルツォーネは更に言葉を続けた。
「もし機会があれば、私の町にも遊びに来てくれ。その時は歓迎しよう」
人当たりの良さそうな笑みで俺たちにそう声をかけると、マルツォーネは一言二言カタリーヌさんと言葉を交わして館へと戻っていった。
「…………」
「…………」
「ルナもマリンもどうしたの?」
いつまでも後ろで黙ったままの二人を案じるリリィ。
「あの男からは……何かこう、嫌な感じを受けましたわ」
「私はアレを知っている。アレは……ナルシスト」
「アレがナルシストってやつなの? どうりでイラっとした訳だね」
小声でそんなことを言い合う無礼極まりない三人。
その会話がカタリーヌさんやミラノさんに聞こえていないかをチラッと確認したが、どうやら大丈夫そうだ。
俺は仲間たちの暴言を取り繕うかのように、カタリーヌさんに声をかけた。
「優しそうな良いお兄さんですね」
「はい、自慢の兄です。いつもお父様や私たちを気にかけてくださっていて、相談にも乗ってくださいます。私はお兄様のような立派な人物になりたいと、常日頃から考えているんです」
金の瞳をキラキラと輝かせ、嬉しそうにそう語るカタリーヌさん。
彼女の表情を見れば、今の言葉が本心だと分かる。
俺の仲間たちからの評価はイマイチのようだったが、妹からは最高の評価を得ているようだ。
よかったな、マルツォーネさん。
「カタリーヌさんならきっとなれますよ」
そんな俺の言葉にカタリーヌさんは嬉しそうに微笑んだ。
「おいお前ら、いつまでも失礼なこと言ってないで行くぞ。外でルディッツさんたちを待たせてるんだ」
俺は未だコソコソと話をしている三人に向かってそう言い、みんなで館を後にしたのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「この後一体どうなるのっ……!?」
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