9.トライアスとの再会
「わしがここハイリススフィア領の領主、ジスターブ・ロッズ・ハイリススフィアだ。先程はすまんかったな」
がっはっはと豪快に笑いながら、テーブルの向こうで踏ん反り返るジスターブさん。
自己紹介を済ませ、さっそくカタリーヌさんが本題を切り出した。
「今回、このヒカリエの皆さんに来ていただいたのは……」
カタリーヌさんは前回の家族会議からのハルジオンの一年を、ジスターブさんに掻い摘んで説明していった。
「なるほど、この者どもの協力で、ハルジオンの景気は右肩上がり、とな」
ふむふむと、カタリーヌさんの話を聞きながら顎をさすっていたジスターブさん。
「娘がが世話になったようだな。感謝する。今後ともハルジオンの町を支えてもらえるとありがたい」
案外、話せば分かる人物だったようだ。
そういえばカタリーヌさんは、お父様はまっすぐな性格だって言ってたっけ。
素直に謝辞を述べるジスターブさんを見て、俺はそんなことを思い出していた。
それにしても、この人はアレだな。
カタリーヌさんに対するあのデレデレな笑顔。
完璧に娘を溺愛する親バカのそれだ。
第一印象は『怖い人』だったが、それは真実を前に脆くも崩れ去っていった。
話が終わるや否や、すぐさまカタリーヌさんにくっついて談笑するジスターブさんに苦笑しつつ、俺たちは屋敷を後にしたのだった。
――
「最っ高の宿だったね! ここに何泊もできるなんて夢みたいだよ!」
「分かるけど落ち着けよ。てか、俺だけ一人部屋だったから、そこまで豪華じゃなかったんだけど」
飛び跳ねる勢いで喜びを表現するリリィを、俺は苦笑しながら落ち着かせる。
リリィたちは女子三人で大部屋に泊まっていたのだが、そこはまさにスイート。
最高級の部屋だったらしい。
それに対して俺は一人部屋。
部屋の広さは言うまでもなく、サービスも三人の部屋に劣る。
決して悪い訳ではないのだが、上を知ってしまうとどうしてもモヤモヤする。
「せめてどんな部屋か見せて……」
「ダメ!」
「嫌ですわ」
「……私は別にかまわ……」
「ダメだってば!」
即答で断られる俺。
ルナだけは入れてくれそうだったが、リリィに口を塞がれ阻止される。
俺は一度はガックリと肩を落としたものの、気を紛らわすべく今日の予定を口にした。
「もういいよ。それで今日の予定だけど、俺はこの町を見て回ろうと思ってる。みんなはどうするんだ?」
「んーアタシはー……ハルに付いていこうかな」
「飼い主として、ペットを放し飼いにする訳には参りませんし、ハルに付いていきますわ」
「ハルに付いていく」
俺の問いにそう返してくる一同。
ルナはいつも付いてきてくれるからいいんだが、リリィとマリンは珍しいな。
いや、最近は何やかんやこいつらも付き合いいいか。
少しは信用されてるのかもしれない。
そうは思った俺だったが、
「二人とも珍しいな。いつもなら「何でアンタと一緒に行かなきゃいけないんだよ!」とか、「付いてきてもらえると思っていましたの? 自意識過剰ですわ」とか言うくせに」
「べ、別に一緒にいたいとかじゃないんだからね! 先輩としてたまには構ってあげないと可哀想かなって思っただけで!」
「わ、わたくしはリリィがいないと男性に声をかけられた時に困るからですわ! 好きであなたに付いていく訳では!」
俺のちょっとした嫌味にそう言い募るリリィとマリンの顔は真っ赤だ。
怒らせてしまったが、普段の仕返しができたことに俺は内心で満足した。
――
「昨日は余裕なくてあんまり気にしてなかったけど、ハルジオンとは全然雰囲気が違うな」
「そうだね。なんか狭いし」
「やはり外壁に囲われていて敷地に限りがあるからでしょうか。建物の高さもハルジオンの倍はあります」
「人が多い……」
メインの通りだと思われる道を歩きながら、俺たちは率直な感想を言い合っていた。
ハルジオンの建物は木造が多く、階数も平屋か二階建てだ。
建物同士の間隔もある程度余裕があり、全体的にゆとりのある街並みだ。
それに対してここハイリススフィアは、石造りの堅牢な建物がほとんどで、建物の階数も三、四階建て。
それ以上の建物もある。
建物の間隔も狭く、窮屈な印象を受ける。
それなのに通行人が多く、通りを歩いているだけなのに疲れてしまった。
俺でさえそんな状態なので、極度の人見知りであるルナが顔面蒼白になってしまうのは仕方のないことだろう。
「少し、休もうか」
「ならそこに行こうよ!」
「喫茶店ですか。わたくしたちのお店の参考になるかもしれませんわね」
ルナを慮っての提案に、リリィとマリンは快く賛成する。
喫茶店のテーブルに腰掛け、 各々好きにくつろいでいると、隣のテーブルから声がかけられた。
「ハ、ハル!?」
「え? なんでなんで!?」
「どうしてハルさんたちがこんなところにいるっスか!?」
何事かと思って振り返ると、そこには見覚えのある三人組がいた。
「え? ルディッツさん!? 久し振り! そっちこそ何でこんなところに!?」
そこにいたのは、以前依頼で知り合った『トライアス』という冒険者パーティーの三人。
リーダーで戦士のルディッツさん、魔法使いのミーシャさん、シーフのソルトさんだった。
「さん付けなんて他人行儀やめてくれよ。呼び捨てでいいさ。俺たちはここを拠点にしてるんだ」
言わなかったっけ?と、ルディッツさん……いやルディッツは笑いながら言う。
半年ぶりくらいかな?
本当に久し振りだ。
俺たちは互いの近況を語り合った。
そんな中、
「そういえばアンタたち、ハルジオンに来るんじゃなかったの?」
「そうだよ、みんなはいつこっちに来るんだ?」
俺たちがそう尋ねると、トライアスの三人はニヤリと笑う。
「実はお前たちと別れた後、報酬のいい長期の護衛依頼を受けてな」
「ここハイリススフィアとポルティーニっていう町を何度も往復する人で、半年近くその護衛で忙しかったのよ」
「でもそれも昨日までなんス! だから俺たち、これから向かおうと思ってたんスよ!」
いい顔でそう言うトライアスの面々。
なかなか来ないと思ったら、そういうことだったのか。
俺は納得して頷いた。
「ちょうどいいタイミングだよ。今ハルジオンは大改革中なんだ。冒険者が来るなら、今が一番いい時期だと思う」
ハルジオンは迷宮に近い南地区を整備中だ。
宿も増えてきてるし、拠点になるような物件も今なら空いている。
本当に見計らったかのようなタイミングだ。
「ならさ、みんなでハルジオンに行こうよ」
「そうだな。俺たちも数日後にはハルジオンに帰る予定だし、ルディッツたちがよければ一緒に行こう」
俺たちはハルジオン町長であるカタリーヌさんの護衛をしていることを伝え、明日みんなでハルジオンへ向かおうと提案した。
「それは俺たちとしても助かる」と、笑って答えるルディッツ。
「夜の見張りも楽になるわ」と、嬉しそうに言うミーシャ。
「ハルさんとまた同行できるなんて最高っス」と、尊敬の眼差しを向けてくるソルト。
こうして俺たちは、トライアスの三人を加えてハルジオンへ帰還することとなった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「この後一体どうなるのっ……!?」
と思ったら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。