8.中央都市ハイリススフィアへ
「本日はまたお願いしたいことがあり伺いました」
ヒカリエ二階のクランスペースにて、俺、ルナ、リリィ、マリン、ルージュさんの五人は、突然やってきたカタリーヌさんと向かい合うように座っている。
そんな俺たちに向け、そう切り出したカタリーヌさん。
「実は、年に一度の家族会議にヒカリエの皆さんにも同行していただきたいんです」
「家族会議?」
カタリーヌさんの言葉に首をかしげるリリィ。
なんでも、領主直営地である中央都市ハイリススフィアにて、領地運営の報告を兼ねた家族会議が行われるとのこと。
「それは分かりましたが、なぜわたくしたちがその家族会議に?」
「この三ヶ月の成果を領主であるお父様に報告するのですが、是非皆さんのことも紹介したいんです。町の整備も、新商品の開発も、私だけの成果ではありませんから」
リリィと同様に首をかしげていたマリンの問いに、そう力説するカタリーヌさん。
俺はなるほどなと頷きながら現在の状況を考える。
町の整備は順調だ。
新たな大通りの整備、ギルドや冒険者向け商店の出店、警備団の見回り。
全て計画通りに進んでおり、本当に以前とは見違える町並みになっている。
この南地区は冒険者向け地区となり、今後はさらに発展していくだろう。
そして花の都の面子を保つ新商品、花の香りの香油と香水。
まだ大量生産は難しいが、出来上がったものから順次、北地区の商店で売り出していた。
それが町の女性に大ヒット。
富裕層のみならず、外からやってきた冒険者まで、こぞって興味を示した。
かなりいいお値段のする商品であるにも関わらず、生産が追い付かない状況だ。
「いいわね! 私たちヒカリエの名を、このハイリススフィア領に轟かせるまたとないチャンスだわ!」
カタリーヌの誘いに、ルージュさんが両手を胸の前でパンと合わせて喜んだ。
そんな嬉しそうなルージュさんに水を差すようで悪いが、
「いいんですか? 俺たちが行くと、カタリーヌさんの手柄として評価されないかもしれませんよ?」
俺は大事なことなのでしっかり聞いておく。
確かに俺たちとしては、領主と知己を得るチャンスだ。
しかし、俺たちがでしゃばるとカタリーヌさんの成果ではなく、俺たちの成果として受け取られてしまうかもしれない。
俺たちはカタリーヌさんが一生懸命頑張ったことを知っているが、領主やカタリーヌさんの兄弟はそうではないのだ。
俺の心配に、しかしカタリーヌさんは微笑みを称えて答えてくれた。
「問題ありません。むしろ皆さんを連れていかなければ、私がお父様から怒られてしまいます。お父様もお兄様方も、裏表のないまっすぐな性格をしていますので。ミラノ、あなたもそう思うでしょ?」
「はい、カタリーヌ様」
後ろに控えていたメイドのミラノさんも、カタリーヌさんの言葉に頷いて答える。
「ハル様」
「え? は、はい」
ミラノさんが鋭い眼光を俺に向けながら声をかけて……
いや、いつものような厳しい目ではない。
どこか申し訳なさそうな、珍しく弱気な視線だった。
「これまでのご無礼をお詫び申し上げます。あなた様の言動が本当にカタリーヌ様のためを思ってのことだったと、恥ずかしながら今更になって痛感しております」
そう言って、ミラノさんは頭を下げようとした。
カタリーヌさんの自覚を促すためとはいえ、俺が彼女に厳しく接するもんだから、ミラノさんはいつも怒っていた。
しかし、俺がカタリーヌさんを嫌ってやっていたことではないと、ようやく理解してくれたみたいだ。
「や、やめてください。俺の言い方が悪かったのは事実ですし、ミラノさんが悪い人ではないことは分かってます……か……ら」
俺は慌てて頭を下げるミラノさんを止めたのだが、タイミングが悪かった。
ちょうどいい角度で静止したミラノさん。
そのせいで、メイド服の襟元から、普段は見えることのない立派な胸部の谷間が俺の目に飛び込んできたのだ。
カタリーヌさんはスレンダーで控えめだが、ミラノさんはルージュさん並みのわがままボディだ。
ドクンと弾む思春期童貞心。
勢いよく心臓が鼓動し、目が谷間へ釘付けとなってしまう。
「ミラノさんが真面目に謝罪しているというのに、この男はどこを見ているのでしょうか」と、真っ先に俺の視線に気付くマリン。
「また変態の鼻の下が伸びてるよ」と、ジトッとした目で俺を見るリリィ。
「ハル、今は真剣な話をしている」と、心なしか機嫌が悪いルナ。
「ハルくんどうしたの? 顔が赤いわよ?」と、純粋な眼差しで俺を見てくるルージュさん。
「なな、何も見てねーよ! 何言ってんだお前ら! ミミミラノさんも、あ、頭を上げてください」
俺は動揺を押し隠しつつ、声を上擦らせながらそう言った。
ミラノさんから厳しい視線を向けられている気がするが、俺は目を合わせないようにしてルージュさんに話を進めるように促した。
そして、
「それじゃあ護衛も兼ねて、チーム月光の四人に代表して行ってきてもらおうかしら」
――
俺たちはカタリーヌさんの依頼を受け、中央都市ハイリススフィアへ向かうこととなった。
ヒカリエからは俺、ルナ、リリィ、マリンの四人。
チーム月光だ。
カタリーヌさんはミラノさんを含めた三人の側仕えを従える。
合計八人。
馬車で移動すること二日。
問題なくハイリススフィアへ到着した。
ハイリススフィアの町は領地の中心に存在しており、グローム山から流れるルメル川という大河のすぐ近くだった。
「ちゃんと外壁で囲まれてる」
目の前の外壁と門を見上げ、口をあんぐりと開けるリリィ。
「外壁というより、ちょっとした城壁のような規模ですわ」
マリンも驚きを隠せないようだ。
馬車はそのまま町の中心へ進んでいった。
向かう先には城のようなお屋敷が見えてきていた。
初めて都へ出てきた農民のような反応をする俺たちに苦笑しつつ、カタリーヌさんが今後の予定について説明してくれた。
「家族会議は一週間。その間、領主の屋敷に皆さんをお泊めすることは、申し訳ないのですができません。代わりにこの町一番の宿を取ってあります。これから皆さんをお父様に紹介しますので、その後は自由な時間ということでよろしいですか?」
うんうんと頷きながら、
「さっそく領主様と会うんだね」
「粗相のないよう、ハルのことをしっかり監視しておかなくては」
「おい、俺がいつ粗相をした……ったく、こんな時まで俺をバカにする余裕があるってことに感心するよ」
初対面の領主というワードに、さっきから無言のままでいるルナはともかく、いきなり山場となることに俺も緊張を隠せない。
屋敷へ着き、執事に案内されて応接室へ。
さっきまで無駄口を叩いていたリリィとマリンも、流石に黙ったままで領主を待っていた。
「おーまーたーせー! カティーーーー!!!」
バンと勢いよく応接室の扉が開かれ、そこから白髪の老人が飛び込んできた。
老人と言ってもまだ60手前。
髪が白髪であることを除けば、年より若く見える。
背も180近くありそうで、がっしりとした体つきの覇気のある男性だった。
「お父様!」
飛び込んできた老人に、カタリーヌも満面の笑みで抱きついた。
「元気だったか? 嫌なことはなかったか? 町長なんて辛いことばかりだろう? ……ミラノよ! カティの世話をしっかりしておるのか!? 昨年より若干だが痩せておるぞ!」
「旦那様、カタリーヌ様は元気に頑張っていらっしゃいます」
「カティに頑張らせておるのか!? わしの大切な一人娘に無理をさせておるのか!?」
「お父様! ミラノは何も悪いことはしていません!」
老人はだらしのない笑みを浮かべてカタリーヌさんと抱き合ったかと思うと、突如鬼の形相でミラノさんに詰め寄っていった。
そんな急展開に、俺たちの開いた口は塞がらない。
呆然と三人のやり取りを見守っていた。
「して、そこの者どもは何だ?」
キッと俺たちを睨んむ老人に、俺は一瞬怖気付いたものの、グッと堪えて一歩前に踏み出した。
「お初にお目にかかります。私はハルジオンの冒険者クラン『ヒカリエ』に所属している冒険者のハルと申します。この度は領主様にご拝謁させていただく機会を賜れましたこと、心よりありがたく存じます」
俺は右手を胸に当て、頭を下げながらそう言った。
練習通り噛まずに言えた!
これで問題なく……
「下がれ。わしとカティの大切な時間を、貴様らのような何処の馬の骨とも知らんやつに邪魔されたくないわ」
「ええ!?」
上手くやったと思っていた俺は、予想外の反応に思わず声を上げてしまう。
「ハルったら何をやらかしたんだろ?」と、呆れた顔で首をかしげるリリィ。
「きっとカタリーヌやミラノさんに色目を使っていたことがバレたのですわ」と、笑みを深めて言うマリン。
ルナは白い顔で黙ったままだ。
「お父様! ハルさんたちは私の恩人です! そんな失礼な態度を取られては困ります!」
俺が狼狽えていると、カタリーヌさんがプンプンしながら老人を嗜めた。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「この後一体どうなるのっ……!?」
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