4.企画会議
町の現状を確認し合った俺たちは、続いて対策を考えることになった。
「町の外への対策は、もう少しギルドと協議した方がいい」
こういう注目が集まる場面ではあまり発言しないルナが、珍しいことにぽつりと発言した。
「それはなぜですか?」
「迷宮ができた現在、町周辺の魔物の発生は落ち着いている。そもそも森が出現する前から、不要な場所への調査依頼が多かった。費用と人員の無駄」
ルナの言う通りだ。
エリーからも聞いたことがある。
あの森が結界に閉ざされた時点で、森から魔物が出てくる危険はなくなっていた。
冒険者的には仕事が減るので問題はあるが、無駄な調査依頼は取り下げた方がいいだろう。
「そうだな。今度支部長と話し合ってみよう。俺からエリーにも頼んでみるよ」
専門家の意見を聞けば、町の外への適切な警戒ができるようになる。
そうすれば、余った労力を町の中へ向けることができる。
俺たちは頷き合ってこの案を承認した。
「あとは……決め手ってやつだね」
リリィの言葉にみんなはうーんと唸る。
ハルジオンをハイリススフィア領で一番の町にする決め手か。
何がいいんだろうな。
「できればこの町ならではで、今までにない新しいものがいいです」
カタリーヌさんも腕を組んで難しい顔をしている。
初対面の時は貴族としてのメンツもあり、丁寧な所作を心がけていたのだろう。
お嬢様然とした態度は今は消え去っていて、完全に同年代の女の子だ。
いや待て、今は新しい政策だ。
俺は頭を切り替えて検討する。
この町ならでは、か。
何かあるかな?
目を閉じて首をかしげるが、なかなかいい案は出てこない。
ふと目を開けると、テーブルに飾られた花が目に入った。
「そういえば……この町は花の都って呼ばれてるけどさ、栽培された花って何に使ってるの? というか、花の栽培ってどこでやってるの?」
俺の言葉に、ルナたちは顔を見合わせ首をかしげている。
そして、カタリーヌさんに注目が集まった。
「花ですか? あの花はこの町が少しでも綺麗に見えるように植えただけで、それ以外に利用は……」
「ええっ!?」
カタリーヌさんの予想外の返答に俺たちは驚愕した。
「アタシてっきり何かしらに使ってるのかと思ってたよ……」と、驚愕するリリィ。
「町の周りに植えただけということは、栽培もしていないのですか!?」と、信じられないと目を丸くするマリン。
「流石に絶句」と、こめかみを押さえて失望するルナ。
嘘だろ?
花に関する産業がないのに、花が多いってだけで花の都だなんて呼ばれてたのか?
「え? え? お花って、愛でる以外に利用方法があるんですか?」
呆然とする俺たちを見て、目を白黒させるカタリーヌさん。
「んー匂いを楽しむ、とか?」
思い付かなかったのか、そう言って小首をかしげるリリィ。
「デザイナーの観点から言わせていただくと、加工した花はアクセサリーとして利用できますわ」
密かに超有名ファッションブランドを持つマリンが参考になる意見を出す。
「魔花は魔道具の材料になる」
魔道具作りで稼いでいるらしいルナも発言した。
魔花とは魔物になる手前の魔力を秘めた花のことだ。
「ルブルでも食用に花を栽培している地域があったな」
俺も自分の持つ知識を出しておく。
ルブルでは食用油としても利用していた。
だが、ここエルシア王国ではオリーブの栽培が盛んだ。
食用油としての品質も長年利用されているオリーブの実の油の方が良い。
それに、カタリーヌさんの希望する新しいものってところにも当てはまらない。
「とりあえず、催事用、観賞用として販売はするとして、後は匂いをどう活かすかだね」
一人だけ具体的な案が出せなかったリリィが、なんとか自分の案も食い込ませようと粘っている。
ん?
匂い?
そういえば……
「なぁリリィ、匂いっていえば、お前たちっていつもいい匂いするよな? 香水とか使ってるのか?」
そんな俺の一言に、リリィとマリンがドン引きする。
「アンタ、いつもアタシたちのこと見て鼻の下伸ばしてると思ったら」
「まさか匂いでまで興奮していたとは、とんだ変態男ですわ」
「み、見てねーし鼻の下伸ばしてねーし興奮もしてねーし! というか、そもそもお子様のリリィに俺が興奮……や、やめろって! 髪を引っ張んな!」
揉み合う俺たちを見て、ルナが少し頬を染めながら言う。
「それは、フェロモン」
「フ、フェロ……モン……」
「あ! また鼻の下が伸びてる!」
「わたくしの調教用アイテムでそのいやらしい鼻を塞いで差し上げますわ」
く、くそ!
そんなにくっつかれると、柔らかい体が当たって……
「ハ、ハルさん。その、香水というのは何ですか?」
た、助かった……間一髪だ。
意識が飛びかけたが、カタリーヌさんの発言にみんなが注目したことで拘束から解かれた。
俺はわずかに垂れる鼻血をさっと拭き取り、一度呼吸を整えてからカタリーヌさんの質問に答えた。
「香水っていうのは簡単に言うと、いい匂いのする揮発性の高い水のことですね」
「いい匂いの……水?」
「おしゃれの一環として。まぁ、ルブルでも上流階級の人たちしか使っていませんでしたけど。あとは香油にもいい匂いのものがあるらしいです」
おしゃれという言葉に、その場の女性たちは反応する。
「つまり! アタシが提案したお花の匂いってことだね!」と、匂いの発案者であるリリィが腕を組んでしたり顔になる。
「なるほど。香油にもお花の匂いをつけているのですね」と、期待に胸を膨らませるマリン。
「その揮発性の高い水というのは興味がある」と、研究肌のルナは思案顔になる。
「私もお気に入りのお花があります。そんな好きなお花の香りを常に楽しめるなんて素敵です」と、金の瞳を輝かせるカタリーヌさん。
「早速その香油と香水とやらの生産に取り掛かりましょう」と、期待しすぎて早とちりするミラノさん。
興奮冷めやらぬ中、カタリーヌさんが俺たちを真っ直ぐに見た。
「それではハルさん……いえ、ヒカリエの皆さん。そのアイディアで進めていただけますか?」
嬉しそうに微笑みながら、カタリーヌさんは俺たちに依頼した。
「分かったよ! さっそくルー姉と相談して……」
「待てリリィ」
即答しようとしたリリィを俺は止める。
「ヒカリエに依頼してくれるのはとても嬉しいです。でも、それではダメなんです」
「ダメ、とは?」
不安そうな顔をするカタリーヌさん。
さっきも俺から辛いことを言われていたからな。
身構えるのも無理はない。
「そんなに身構えなくていいですよ。ただ、今後のカタリーヌさんの立場のためにも、俺に考えがあります」
俺はみんなに語って聞かせる。
このまま俺たちがこの事業を先導して成功したとする。
今までのヒカリエの功績を知っている町のみんなは、「流石はヒカリエだな」となってしまう。
俺たちの評判は上がるが、カタリーヌの悪評は変わらない。
それじゃダメだ。
「俺はカタリーヌさんが町のために頑張っているのは知ってる。だから、カタリーヌさんが町長として、ちゃんと町のみんなから評価されてほしいんだ。この仕事はカタリーヌさんが指揮を取らないといけない」
俺の意見にみんなも頷く。
カタリーヌさんの後ろに立つミラノさんまで。
「……分かりました、私がやります」
少しの逡巡の後、カタリーヌさんは金の瞳に決意を込めて宣言する。
「俺たちも手伝います。みんなで頑張りましょう」
俺がそう言って右手を差し出すと、カタリーヌさんもニッコリと微笑んで俺の手を握る。
こうして、ハルジオン立て直し計画はスタートした。
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