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3.町長の評判

「町長にやってほしいこと? そうねー、やっぱり町の南部を何とかしてほしいわ。あれじゃ近づけないもの」

「人が増えて賑わうのはいいんだが、宿もいっぱいでその辺で寝てるやつもいるんだよな。整備が追い付いてないんじゃないか?」

「町長ねー……あんまり俺たちのこと考えてくれてねーよな。花を植えてる暇があったらもっとする事あるだろーよ」


カタリーヌさんがやってきた翌日。

俺はルナを連れて町の商店街へ来ていた。


目的は町の住人の声を集める事。


どんなことに困っているのか。

どうなってほしいのか。


そういったリアルな声を集めて、何か新しい政策を考えようと思ったのだが……


「なんか、カタリーヌさんってあんまり人気ないんだな。意外だよ」


聞き込みをすればするほど、町長への不満が発覚していく。


「カタリーヌは決して悪い人ではない」


カタリーヌさんと面識のあるルナは、町の声に少し不服そうだ。


しかし、町の人たちが言っていることは、実は俺も感じていたことでもあった。


俺たちはもやもやしながらも、調査を続けたのだった。



――



聞き込みを終えた俺たちは、町の中央区へ来ていた。


ここは貴族の領域らしく、平民には縁のない場所だと聞いていたのだが、


「おお、これはこれは、ヒカリエの皆さんではありませんか」

「去年の仮装、美しかったですぞ」


見慣れた騎士たちが、気さくに声をかけてきたことで、勘違いだったと気付かされる。


そんな貴族街の中心にそびえるひと際大きなお屋敷。

カタリーヌさんの住むその屋敷で調査の報告をすることになっていた。


「まずはわたくしたちから」


豪華な応接室にて、カタリーヌさんとミラノさんに向かい合って座っていた俺たちの中から、スッと挙手をしてマリンが発言した。


「わたくしとリリィはハイリススフィア領南東部の情勢について調べてまいりました」

「まぁ、ここにあった資料を読ませてもらっただけなんだけどね」


二人の話では、領内における南東部の農畜産業の流通は最下位だったらしい。


まぁ当然だよな。

危険な森があるし、沿岸部付近では潮風で作物がやられるからな。


「しかし、林業に関しては領内の流通のほぼ九割を占めておりました」

「木こり組合があるからね。専属の護衛を付けてナーズの森から良質な木材を調達してるみたいだよ」


マリンとリリィの説明を聞き、俺は素直に感心した。


「すごいじゃんか。領内でもしっかりと影響力を持ってるんだな」

「いいえ、それはわたくしが町長に着任するより前、父である領主が行った政策ですわ。わたくしの評価には繋がりません」


うんうんと頷いていた俺に、カタリーヌさんが残念そうにそう言った。


「それならさ、林業みたいに海産資源を扱うようにするのは? せっかく沿岸部なんだし」

「この南東部の沿岸部は、領内でも特に危険とされている地域です。安全面を考慮すると、利益より損失が増えてしまいます」


リリィの提案は既に検討されていたらしく、ミラノさんがすぐさま否定した。


続いて俺とルナの番だ。


「えーっと、誤魔化してもしょうがないから、はっきり言います」


正直心苦しいが、このことを隠していては、カタリーヌさんが町の人から認められることはないと思う。

だから俺は、カタリーヌさんをしっかり見据えて言う。


「ハルジオンはここ二、三年で人口が急増していますよね? それに対して、何か対策をとっていますか?」

「対策……ですか? いえ、特には。町の人が増えるのは喜ばしいことだと……」

「人口が急増しているのに、町の警備体制が改善されていません。今、ハルジオンの町内ではとても多くの問題が発生しています」

「も、問題ですか?」


カタリーヌさんの顔に不安の色が浮かぶが、俺は心を鬼にして話を続けた。


「特に迷宮(ダンジョン)が出現してからの町の南地区はひどい有様です」


倉庫街だった南地区は元々警備の見回りが少なかった。

そこへ迷宮攻略を目的とした冒険者のような荒くれ者が集まり治安が悪化。

町の一般人は近づくこともできない状態だ。


「そ、そんなことに……」


ショックを受けているカタリーヌさん。


「魔物の活性化や町周辺の生態系の変化があり、それらの調査依頼の依頼主は全て町からのものでした。俺は冒険者だからカタリーヌさんが魔物対策に力を入れていたのは知っています。でも、町の一般人はそんなことは知りません。みんなが知っているのは、カタリーヌさん就任時に大量の花を植えさせられたということだけです。カタリーヌさんはハルジオンのために何もしていない無能な町長だ、と彼らは思っています」


俺の発言にうつむくカタリーヌさん。


「カタリーヌ様への侮辱……許さない!」

「ちょっ!?」


後ろに控えていたミラノさんが憤慨し、スカートの中に隠し持っていたナイフを手にして俺へと切りかかろうとした。

そのスピードは一般人とは思えないほどで、反応が遅れた俺は首筋にナイフが突きつけられてしまう。


「……ミラノやめて」

「ですが!」

「やめなさい」

「……失礼いたしました」


激高するミラノさんを止めたカタリーヌさんは、焦りまくっていた俺に静かな声で言う。


「ハルさん、ありがとうございます。私にそこまではっきり言ってくれたのは、ハルさんが初めてです」


素の口調に戻ったカタリーヌさんは、うつむきながら続ける。


「ハルさんの言う通り、私は町へ人を呼び込むことばかり考えていました。綺麗なお花が沢山あれば人が来るかもしれない。町の周りに危険な魔物がいては町に人が来てくれない。私はずっと町の外しか見ていませんでした」

「カ、カタリーヌ様……」


カタリーヌさんの膝の上で握られた小さな手に、ぽつりと涙が零れ落ちた。


きっと自身の二年間を思い返しているのだろう。

その手は少し震えていた。


しかし、その震えはすぐに止まり、ギュッと手に力が込められたように見えた。


「もしハルさんに出会えなければ、私は勘違いしたまま、町で暮らす人々を不幸にしていたでしょう。ハルさんに会えて、本当によかったです」


顔を上げたカタリーヌさんは、金の瞳を潤ませつつも、にっこりと微笑んだ。


「カタリーヌさん、今からみんなで考えましょう。みんながこの町を好きになれるような政策を」


カタリーヌさんの笑顔に、俺も笑ってそう言った。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


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