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2.町長からの依頼

ここはハルジオン中央区。

外壁に囲まれたこの地区は貴族の領域。

海千山千のたぬきたちが化かし合う魔窟であり、平民が立ち入ることは許されていない。


と、一部の者からは思われているが、実はそうではない。

そもそもこの町の貴族は数えるほどしかおらず、ほとんどがこの町の警備のために派遣された下級騎士とその家族である。

騎士たちは町の内外を守る警備団を束ね、その家族も警備団の活動を支えている。


この町の貴族と平民の距離は、他の町よりずっと近いのだ。


そんな中央区の中心にそびえる大きな館に、この町を納める人物が住んでいる。


館の一角。

綺麗に整えられた執務室にて。

美しい白金髪の髪を豪奢(ごうしゃ)に巻いた美少女、カタリーヌ・ロッズ・ハイリススフィアは金の瞳をギュッと閉じ、眉間を押さえてため息をつく。


「このままでは……このままではいけません」


陰鬱とした雰囲気を醸し出している彼女こそ、このハルジオンの町長(トップ)にして、ハイリススフィア領を納める領主の愛娘である。


カタリーヌの父であるハイリススフィア領領主、ジスターブ・ロッズ・ハイリススフィアは次期領主選考のため、領地を四分割し、自身の子供たちに統治させた。

その領地運営の成果に基づいて、一番領主に相応しいと判断した者を後継に据えるのだ。


そしてハイリススフィア領南東部の統治を任されてたのがジスターブの末娘、カタリーヌである。


カタリーヌがこの地区の統治を命じられ、ハルジオンの町長に就任したのは二年前。

未だこれといった成果は出ていない。


齢十七歳の少女には酷な話ではあるが、持病のある領主が跡目を決めるのは、そう遠い話ではないだろう。


故にカタリーヌは焦っていた。


そこへ、一人の侍女がやってきた。


「カタリーヌ様これを」

「ありがとうミラノ」

「やはり例の冒険者たちで間違いないようです」


メイドのミラノから手渡された資料に目を通し、カタリーヌは金の瞳に決意を燃やして立ち上がる。


「今宵、彼らの元へ向かいましょう」



――



玄関ホールに響くノックの音。


「誰だ? こんな遅い時間に」


みんなが玄関扉に訝しげな視線を送る中、変態の(そし)りから逃れられると思った俺は、内心で安堵しつつ玄関の扉を開けた。


「はい、どちら様、で……しょう……か……」


扉の向こうには二人の美女。


美しい白金の髪を縦巻きロールで豪奢(ごうしゃ)に整え、まるで貴族の令嬢のようなドレスを細身の体に纏い、澄んだ金色の瞳で優しく俺を見つめる美少女。

背はルナと同じくらいだろうか……160センチないくらいだと思う。

年も多分、同じくらいだ。


そして、コバルトブルーの髪を肩口までのボブに整え、起伏のある女性らしい体を清楚なメイド服に包み込み、少し気の強そうな水色の瞳でしっかりと俺を見据える美女。

背は俺より少し低いくらいで165センチってところか。

年齢は少し上だ。

ルージュさんより上……20歳くらいだろう。


そんな美女たちの突然の襲来に、思わず硬直してしまう俺。


立ち尽くす俺を見て、メイド服姿の美女が言う。


「夜分遅くに申し訳ございません。こちらはハイリススフィア領領主の御息女にして、ハルジオン町長をされております、カタリーヌ様でございます」

「お初にお目にかかります。今ミラノから紹介に預かりました、カタリーヌ・ロッズ・ハイリススフィアですわ」


メイドの紹介を受け、白金髪の美少女が優雅な動作で礼をした。


「おお、俺、俺は、ハハ、ハルです」


動揺する思春期童貞心(ピュアハート)を必死に抑えつつ、噛みながらもなんとか挨拶を返す。


我ながら残念な挨拶だ……


「実は、あなた方にわたくしからお願いがありまして」


俺が何かを言う前に、そう言ってニッコリと微笑む美少女。


「と、とと、とりあえず、どうぞ」


未だ脳が追い付かない俺は、とりあえず二人を館内に迎え入れた。



――



「改めまして、わたくしはカタリーヌ・ロッズ・ハイリススフィア。領主よりこの町の町長を任じられております。この者はミラノ。わたくしの側仕えですわ。以後、お見知り置きくださいませ」

「は、はは、初めましてハイリススフィア様。お、俺は、ハハ、ハルです。ぼ、冒険者の男です」

「ハハハル様ですか。よろしくお願いいたします」


くそ、緊張で上手く喋れない。

美少女ってだけでも緊張するのに貴族のご令嬢だと?

そんなの俺には無理だ。

しかもさっきから後ろに立つ美人メイドさんが俺を睨んでいる気がする。

何かやらかしたか?

やばいどうしよう……


俺の自己紹介を聞き、横で笑いを堪えていたリリィとマリン。


「アタシはリリィ。カタリーヌさん、よろしくね」

「リリィ、ハイリススフィア様に失礼ですわ。わたくしはマリンと申します。以後、お見知り置きいただければと存じます」


軽く挨拶するリリィを(たしな)めつつ、マリンが(おごそ)かに挨拶した。


「お気になさらないでください。わたくし、町の皆様とは仲良くさせていただきたいと思っておりますの」


リリィの失礼な態度に、ハイリススフィア様はにこやかに微笑んでそう言った。


「どうも」


ペコリと頭を下げるルナ。


これは流石に無礼だろ、と俺たちがギョッとしていると、


「ルナさん、お久しぶりです。ルージュさんはお元気ですか?」

「ルナ様。収穫祭では本当にありがとうございました。屋敷に仕える者を代表してお礼を申し上げます」


気軽な感じで挨拶を返すハイリススフィア様と、深々と頭を下げるミラノさん。


俺はルナに小声で問う。


「め、面識があるのか?」

「ルージュの手伝いで収穫祭の運営に携わっていた。その時に色々と」


そうか、収穫祭は町の一大イベントだ。

町長でもあるハイリススフィア様も運営に加わっていて当然か。


なるほどと納得していると、ハイリススフィア様は俺たちを見回して、


「できれば、ルナさんのように堅苦しくないように接していただけると、わたくしとしても喜ばしいのですが」


少しだけ寂しそうな顔をしてそう言った。


俺たちは一度、顔を見合わせ、


「そ、それじゃあカタリーヌさん、こんな夜更けにどうして俺たちの屋敷へ?」


俺はなるべく砕けた口調で、今回の訪問の理由を聞くことにした。



――



「なるほどねー」

「次期領主、ですか」


カタリーヌさんの説明を聞き終えたリリィとマリンは、そんな言葉をぽつりと吐いた。


カタリーヌさんは現在、兄妹で次期領主を争っているらしい。


彼女がこの町を含む南東部の統治を命じられたのが二年前。

末娘のカタリーヌさんは他の兄たちより何年も遅れて統治に加わっており、町長に就任した当時、四分割された領地の中でハルジオンのある南東部の人口が最下位だったらしい。


エルシア王国南東に位置する辺境領地ハイリススフィア領。

その中でも最も辺境に位置する場所だ。

何もない上に危険な森や海に面している。

人が少ないのも仕方がない。


しかし、ここ最近、ハルジオンの人口流入がかなり上昇しているとのこと。

その原因が、


「『収穫祭の復活』に『森林迷宮ヒカリオン』の出現。これらの影響で、現在中央都市ハイリススフィアを除くと、第一位である北西部の町、ポルティーニに迫る勢いです」


ミラノさんの話を聞きながら、渡された資料に視線を落とす俺は、


「すごいじゃないですか。つまり他のお兄さんたちをどんどん追い抜いてるってことですよね」

「いえ、まだまだですわ。私はこの地区の統治をまだ二年しかしておりません。一番上の兄など、既に十年以上ポルティーニの町長を勤めておりますもの。町のために数多くの政策を打ち、皆から慕われる素晴らしい方ですわ」


カタリーヌさんはそう言ってにっこりと微笑んだ。


跡目争いをしてはいるが、兄妹間の仲が悪いわけではないみたいだ。


それにしても、そういった経験も選考には影響するのか……まぁ当然か。


「ですので、あと一つ……あと一つ決め手が欲しいんです。収穫祭、森林迷宮ヒカリオンの立役者であるあなた方『ヒカリエ』に、是非とも協力していただきたいんです!」


興奮したのか、先程までのお嬢様然とした話し方が抜け、素の口調でカタリーヌさんがそう言った。


俺たちは互いに顔を見合わせ頷き合う。


「俺たちでよければ協力させていただきます」


こうして、ハルジオン町長・カタリーヌさんの依頼を請け負うこととなった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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