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間話2.小さな先輩の新人教育

「だーかーらー! スーパーミルキークリームパスタだってば!」

「ス、スーパーミルク……すまぬ、長くてよく分からぬから覚えられんのじゃ」


忙しい店内にアラーネの叱咤する声が響き、プラムが申し訳なさそうにしている。


普段なら叱られるとモジモジと頬を染めるプラムであるが、幼いアラーネからのお叱りは精神的にくるものがあるようで、小さく縮小した翼が力なくしょぼくれている。


「なぁアラーネ。流石に厳しいんじゃないか? 俺もその意味不明な商品名を覚えるのには苦労したんだぞ?」


見かねてアラーネに声をかけたのはホールで接客していたハルだった。


この長ったらしいメニュー名をなかなか覚えられず、その度にマリンやリリィから罵られていたハルは、プラムを擁護しようと考えたようだが、


「ハルお兄ちゃんはプラムちゃんに甘すぎだよ! プラムちゃんだってやればできるんだから!」


アラーネは魔の森騒動の時のプラムの活躍を知っており、プラムはやればできる子だと信じているのである。

ハルが甘やかすとプラムが成長しないと、心を鬼にしてプラムに接しているのだ。


腰に手を当てて頬を膨らませるアラーネを見て、


「俺の時もルナたちみんな厳しかったけど、アラーネも厳しいな」と、苦笑するハル。


「まぁまぁ、プラムもまだ習いたてだし、もう少し様子を見ましょう」


そんなハルに、ルージュが笑いながらそう声をかけた。



――



プラムがカフェ・ヒカリエで働くようになって二週間が過ぎた。


普段ハルから散々ポンコツ呼ばわりされているプラムは、その呼び名に恥じることないポンコツぶりを見せつけている。


「それは触っちゃダメー!」

「なんで混ぜちゃうのー!?」

「そんなメニューないよ! ちゃんと覚えて!」

「昨日も同じこと言ったでしょ!」


温厚なアラーネも流石に苛立ちを隠せない。


誰かに、ハルお兄ちゃんに相談しようか……

でもハルお兄ちゃんはプラムちゃんに甘いし……


ホールできびきびと働くハルを見て、アラーネは迷う。


そもそも、ハルお兄ちゃんがマリンちゃんからカウンターのお仕事を習ってた時は、もっともっと厳しかったよ。

もっと酷いことも言われてたし。

それに比べれば、アーはまだ優しいはずだよ。


そう内心で結論づけると、またしても怒りの感情が沸々と沸き立ってくる。


それなのにプラムちゃんはアーを避けてるみたい。

アーは間違ったこと言ってないし、失敗ばかりするのはプラムちゃんなのに!


頭の中でそんな葛藤をしているアラーネと、怒られて落ち込むプラム。

カウンターは沈黙に包まれており、お世辞にもいい雰囲気とは言えなかった。


「アーちゃん」


休憩になり、二階で休んでいたアラーネに声をかける人物が一人。

冒険者クラン『ヒカリエ』のリーダーにして、『カフェ・ヒカリエ』の店長でもあるルージュだ。


「ルージュお姉ちゃん」


優しく微笑むルージュを見たアラーネは、思わず目を潤ませる。


「大丈夫? 無理してない?」

「う、うん。何ともないよ」


一瞬泣きそうになったアラーネだが、教育係としてのプライドでなんとか堪えた。


ニコニコ笑顔のルージュは、「どうしたの?」と、アラーネの話を聞く。


少しの逡巡の後、アラーネはプラムへの気持ちを吐露した。


「アーはちゃんと教えてるのに、プラムちゃんはアーから逃げるの。アーは間違ってないのに、間違えちゃうプラムちゃんが悪いのに。それにハルお兄ちゃんはマリンちゃんからもっと怒られてたけど頑張ってたもん。なのにプラムちゃんは少しアーが怒っただけでアーのこと嫌いになっちゃうし」


一度気持ちを吐露すると、もう止まらない。

いつの間にか目から大粒の涙が溢れ、溜め込んでいたものをどんどん吐き出していく。


「んー、そっかー」


ルージュはアラーネの気持ちを受け止める。


「アーちゃんの考えはよく分かったわ。そんなアーちゃんにアドバイス」


そう言って、笑顔で話を続けた。


「マリンはね、上手だったのよ。飴と鞭が」

「アメと……ムチ?」

「ええそうよ。マリンはハルくんにすごく厳しかったわ。それは言い過ぎよって何度も思ったもの。でもね、厳しく叱った分、ちゃんとハルくんのことを褒めていたのよ。叱る言葉にも、褒める言葉にも、ハルくんへの愛が込められていたわ。アーちゃんはどうかしら?」


そう聞かれたアラーネは、自身のこれまでを振り返る。

思い返せば思い返すほど、プラムに怒鳴る自分の姿しか出てこない。

できない部分にばかり目がいっていたのだ。


「……プラムちゃんのこと怒ってばっかりだった」


そう言って肩を落とすアラーネ。


「ふふ、最初はみんなそうよ。きっとマリンだって初めから上手くできたわけじゃないわ。アーちゃんみたいに失敗して、考えて、できるようになったのよ」


うなだれるアラーネの頭を優しく撫でるルージュ。


「アー、頑張る! マリンちゃんみたいに、アメとムチ、できるようになる! プラムちゃんのこと好きだもん!」



――



「だーかーらー! ジリーヌ茶だってば!」


賑やかな店内にアラーネの叱咤する声が響く。


「す、すまぬ……」


アラーネの叱責に方を落とすプラム。


「……でも、紅茶の淹れ方は上手になったよ」

「え!? ほ、本当か!?」

「うん。毎日頑張ってる証拠だね!」


ニッコリと微笑むアラーネを見て、プラムは驚き、心の底から震えるほど歓喜した。


「フハハハハ! 最早我に怖いものなしじゃ!」

「きゃー! ここで翼を広げないで!」


有頂天になり、早速怒られるプラム。


しかし、そこには今までのような壁はなく、楽しげな雰囲気が伝わってきた。


「何があったんだ?」


ハルが首をかしげる。


「ふふ、アーちゃんがいい先輩になっただけよ」


ルージュはカウンターに立つデコボココンビを見て、笑いながらそう言ったのだった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


と思ったら、


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